先に『嘔吐』という記事を書いたが、これに非常によく似たやりとりを思い出したので以下に記そうと思う。
-------------
(『機動戦士ガンダム』第13話「再会、母よ…」より)
(あらすじ)
母の住む故郷に辿りついたアムロは、懐かしの故郷が見るも無残に廃れている事に愕然とする。
その際、自分の母が前線のキャンプにボランティアとして働いている事を知り、母の元に向かうアムロだが、そこはジオン軍の巡回地域でもあった。
彼はその土地の人々に匿われる事になるが、巡回してきたジオン軍兵士を、不本意ながら銃撃してしまう事になる。
以下の台詞は銃撃後すぐの会話。
アムロ・レイ:「母さん、怪我なんてしてやしないだろうけど……」
カマリア・レイ:「あ、あの人達だって子供もあるだろうに……。それを、鉄砲向けて撃つなんて。……すさんだねえ」
アムロ・レイ:「じ、じゃあ! 母さんは僕がやられてもいいって言うのかい!? せ、戦争なんだよ!?」
カマリア・レイ:「そ、そうだけど! そうだけど、人様に鉄砲を向けるなんて!」
アムロ・レイ:「母さん……。母さんは……僕を……愛してないの?」
カマリア・レイ:「そんな……。子供を愛さない母親がいるものかい!」
アムロ・レイ:「嘘をつけ!」
カマリア・レイ:「アムロ……。私はおまえをこんな風に育てた覚えはないよ。昔のおまえに戻っておくれ」
アムロ・レイ:「今は……戦争なんだ!」
カマリア・レイ:「なんて情けない子だろう!!」
その後すぐ、アムロはホワイトベースからの通信に応じ、帰還する事になる。
そして母の台詞、
カマリア・レイ:「男手で育てたからかしら……。あ、あんな子じゃなかったのに……。虫も殺せなかった子が……」
次にアムロと母との離別のシーンである
カマリア・レイ:「嫌なのかい?」
アムロ・レイ:「嫌とかじゃないんだ……。あそこには仲間がいるんだ」
アムロ・レイ:「こ、これからも、お達者で。お母さん」
カマリア・レイ:「……ア、アムロ」
-------------
如何であろうか、さながらコリン・ウィルソンが論評するヘミングウェイの「戦士の故郷」ではないだろうか?
カマリア・レイは明らかに現実が分かっておらず、そしてアムロの愛し方を間違い、追い詰めている。
以前に『ニュータイプの結晶化』と云う記事をして、富野由悠季氏のアウトサイダー的側面を書き記した事があったが、この台詞のやり取りは見事にそれを顕している。
ある意味、このようなやり取りは、『嘔吐』を感じる(若しくは感じた)人間にしか分かりえない暗号のようなものでもあろう。
ときに、西洋の全書(いわゆる「バイブル」)でイエス・キリストと呼ばれる聖人に関して、父ヨセフの家業を休みがちになっている事に関して、母マリアが心配し、ヨセフを通してそれを諌めようとするエピソードがあったように思える。
それに対しイエスは「神(父)の仕事をしている」と云い、救世の伝道者として開眼してゆく際の、当然の応対をしている。
これに対し、彼の事実上の両親がどのような気持ちで以って接したかは不明であるが、映画『ベン・ハー』(1959年)の冒頭では、父親としてのヨセフの愚痴にも似た台詞を聞く事が出来る。
ベン・ハー 特別版 [DVD]
出演: チャールトン・ヘストン、スティーブン・ボイド
監督: ウィリアム・ワイラー
Ben-Hur(1959) - Title Music
ともあれ、アウトサイダーの問題にはやはり、理解者が必要なのだと云いたい。