国際交流のススメ

舞台芸術・海外公演に関する情報をニューヨークから発信します。

開幕ペナントレースの劇評がNYタイムズに掲載されたって?!

2009年12月07日 | 海外公演
 
@Naoyuki Inomata                          from The NY International Fringe Festival



今月、休暇で日本に一時帰国するのでなにか舞台でも見に行こうかと検索している時に、ふと、そういえば劇団「開幕ペナントレース」が帰国報告会をアサヒ・アートスクエアで開催すると言っていたのを思い出し、早速彼らのウェブサイトに行ってみて驚いた。いや顎が落ちた・・・って表現は美味しいものを食べたときだけですか?いやいや、まあとても驚いたと言いたかったのですが・・・。

公演告知の中で、NYでの劇評が映画の宣伝批評よろしく羅列されているではないですか。しかもその中にアメリカを代表する名門紙・ニューヨーク・タイムズ紙様とアメリカの“ぴあ”こと(ってこう書くとちょっと権威が落ちるけど、そうじゃないですよ、後述しますけど) タイム・アウト・ニューヨーク誌の劇評が掲載されているではないですか!!

「えー!!まさか、そんな馬鹿なー!」と叫んだあとで、「あっ、そうか、これは彼らの公演同様、ある種の冗談なんだ。そうか、ネタね!」と思い直し、安心感がこみ上げてきたのですが、それらを読むうちに「え、でも、もしかして本当にNYタイムズやタイムアウトに劇評が載ったの?」との疑念がこみ上げてきて、冗談だと思いながらもNYタイムズ紙の電子版でサーチをかけてみると・・・・・

なんということでしょうー!(劇的ビフォー・アフター風に読んでくださいね)電子版のブログ記事でしたが確かに劇評風ブログが掲載されているではないですか!

まあ、ブログ記事なので劇評と言えるほど内容に詳しく触れてもいないし、ジャーナリスティックな批評もなかったのですが(って、この公演にジャーナリスティックな批評など無意味ですけどね。そういうタイプの作品じゃないし・・・)、ただ、このブログ記事を書いた人はそれなりに劇評やジャーナリズムを学んできて、しかも過去にはタイムアウトでも劇評を担当していたことがあるちゃんとした人で、現在はNYタイムズ紙の上級ウェブ・プロデューサーの肩書きも持つエリック・ピッペンバーグなる人物。以下、ブログからの抜粋ですが・・・

『これまで様々なジャンルの舞台芸術を紹介してきたNYフリンジフェスティバルであるが、東京を拠点にする「開幕ペナントレース」による1時間の踊って、マーチして、道化て、叫ぶ、上出来な“ロミオとトイレット”のような、パフォーマンス・アートが含まれていたかどうか定かではない。

劇団のウェブサイトからの引用によると、“俳優の身体を酷使させることで、体中から大量の液体とともに爆発的なエネルギーを放出することに重点を置くパフォーマンスという、独特の舞台表現スタイルをとる。”とのこと。

なるほど確かに。

昨夜の公演において、役者たちは軍隊調の厳格さでダンスを踊り、近距離でお互いに叫びあい、お互いの頬を張り合い、身体をはって人間便器を摸写し、そして人間キャタピラーを作り上げていた。シェイクスピア悲劇のストーリーは劇中のどこかにはあったが、この公演で唯一、私が確信を持って言えるのはジュリエットが人間ではなく、チュッパ・チャップスであったということだけであった。

この公演をどう考えるべきか定かではない?なら劇団が流し続けるユーチューブのビデオ日記を見れば良い、リハーサル風景が見られるし、どうして彼らがNYで公演をするのかが聞けるはすである。』

以下のアドレスでブログ記事のオリジナルが読めます:http://artsbeat.blogs.nytimes.com/2009/08/27/at-the-fringe-romeo-and-toilet/?scp=1-b&sq=ROMEO+and+TOILET&st=nyt


えー!つまりは馬鹿馬鹿しかったが可笑しくて珍しいものを見れたし、それなりに楽しんだ、と言っている訳ですよね。超訳すると。(僕もその意見には同感です。いや実際、NYで見る彼らの公演は馬鹿馬鹿しくも可笑しいエネルギーに溢れていたのです。きっと東京で見ていたらそうは思えなかったかも・・・) しかもこの後に公演情報も掲載されていましたから、つまりは皆さんも見に行ってみては?と言っている訳ですよね。へーすごーい。どっかの誰かさんの大仰なミュージカル作品は誰にも批評すらしてもらえなかったのに・・・。いや上演していることすら、ほとんど気付かれずに終わっているのに・・・。



   
開幕ペナントレース・ブログより(http://www.kaimakup.com/)





タイム・アウト・ニューヨーク誌は、インターンから編集者まで総動員でNYフリンジフェスティバルの全201公演すべてに1から5つ星までのレイティングを実施。簡単な作品紹介も掲載している力の入れよう。星取りを調べてみると以下のような結果が。

5つ星  5作品
4つ星 93作品
3つ星 67作品
2つ星 33作品
1つ星 3作品

評価平均は星3.3個だから、やや甘めの評価とも言えますし、一人が全作品を見た訳ではないので、偏りもあるでしょう。しかーし、そんななか、開幕ペナントレースの星数はなんとー!!

4つ星でしたー!!
素晴らしい!!

ちょっと気に食わないのが、私が同じ劇場の別会場で見た“The Adventures of Alvin Sputnik: Deep Sea Explore”も4つ星だったことです。えー、どう考えてもこっちの方が良くできた大人の鑑賞に堪えうる秀作だった思うのですが・・・・。こういう作品が生まれないのが日本の劇場文化の貧しさの大きな1つの証左だと思ったのですが・・・。まあ、5段階しか評価がないし、個人の趣味の問題もあるのかもしれませんがねえ。

いやいや、まあ、しかし、開幕ペナントレースも堂々の4つ星をいただいたことは良かったなーと思います。以下作品紹介の抜粋ですが・・・・


『まずタイトルがこの作品はシェークスピアの悲劇を忠実に上演していないであろうなと匂わせているが、実際そうではない。ロマンチックな崇高さを求める向きは失望するかもしれないが、無邪気な動きやシュールな展開、そしてダイナミックで驚嘆するほどに鍛え上げられた役者たち、などの素晴らしい合わせ技に賞賛する人たちもいるかもしれない。実際、衛兵を従えた騎乗の兵士の演出にはわくわくさせらるし、赤ちゃんの群れは馬鹿馬鹿しさの極みだし、ダリでさえもくすくす笑いを漏らすであろう。』

ですって。これを読めばちょっと行ってみたくなるかもですよね。フリンジフェスティバルはチケットはどの公演も一律$15と決まっているし、1つの劇場で5作品ぐらいが交代で上演されているのも皆知っているので、かなり気楽な気持ちで見に来ています。

フェスティバルに参加するメリットってこういうことでもあります。「開幕ペナントレース」が劇場をレンタルして自主公演を打っても恐らく誰も気付いてくれないでしょうが、フリンジであればこうしてタイムアウトも星で評価してくれて宣伝もしてくれます。フリンジを楽しみにしている人も多いので、NYタイムズのブログ記者の目に留まるなんて行幸にも遭遇できます。

日本では考え難いかもしれませんが、NYタイムズにブログであれ批評やコメントが掲載されるというのは、なかなか大事です。数行ですむ公演告知でさえ掲載してもらえない公演が山ほどあります。たとえ酷評であってもNYタイムズなどのメジャー紙に批評が載ることは公演にとって大きなインパクトがあります。アメリカの劇場には日本のようなチラシ文化はありません。ポストカードを作って配布したりしますが、そういうものを置ける場所も限られています。ですから、告知や集客はなかなか大変です。そんな時、NYタイムズなどに批評が掲載されるとチケット売上げに影響が出るほど、その影響力は大きいと言えます。ですから、まずは批評家に見に来てもらわなくてはならないのですが、これがさらに難しいのです。多くの公演はPRオフィスや個人のPR担当者を雇って告知に務めますが、それでも批評家を呼ぶのは至難の業です。批評家が見に来ないと当然ですが、批評は出ません。フェスティバルに参加すると、その業務の一部をまかなってくれますし、特に無名のカンパニーにとっては有効な手段と言えます。もちろんそれだけで集客できるほど甘くもないのですが、自分たちだけで宣伝するより当然助けになります。

三谷さんの公演は開幕ペナントレースの数百倍の予算を使ったでしょうし、当然PRオフィスも雇っていましたが、NYタイムズにもタイムアウトNYにも批評は出ませんでした。在米メディア向けにタイムズスクエアで開催した(とされている)記者会見にもアメリカ人プレスは来ませんでした。そして自らチケットを購入して、自発的に興味を持って見に来たアメリカ人観客に関して言えば、この2つの公演でどのぐらいの差があったのでしょうね。

いやもちろん、開幕ペナントレースのNY公演が文句なしに大成功でした、と言っている訳ではないですし、どういう海外公演が良い海外公演であるかは、何度も言うように設定する目標次第だと思っていますので評価も様々でしょうが、まあ、ひとつの考察として面白いなと思ったのですが、どうですか?






開幕ペナントレース・ブログより(http://www.kaimakup.com/)