国際交流のススメ

舞台芸術・海外公演に関する情報をニューヨークから発信します。

淡路人形浄瑠璃座北米ツアーって(4)

2009年11月15日 | 海外公演



淡路人形浄瑠璃座のツアーも中盤へ。今回はアイビーリーグの一角、コーネル大学での公演です。アイビーリーグとは、東海岸にある名門私立大学、ハーバード、イエール、コロンビア、ブラウン、ホプキンス、イエール、ペンシルバニア、そしてここコーネル大学を含めた8校を指します。これらの大学は卒業生の進路やその後の給与レベルも一流ですが、そういった学生や学校の質を維持するために、教授陣にもお金をかけています。そしてその結果として当然ですが、授業料も超一流です。年間の授業料だけで、だいたい350万ほど。これに生活費や書籍代を入れると年間600-700万円。4年で卒業するための費用は2000万円以上掛かる計算になります。こういった私立大学も、美術館や教会、病院や一部の劇場と同様、非営利団体ですから、学生からの授業料だけでなく、個人や財団、企業からの寄付を集めて運営されています。卒業生の僕のところにも、毎週のように寄付を呼びかける手紙が届きます。

さてさて、コーネル大学ですがNY州の北の端、カナダ国境から程近い、イサカという街にあります。コンピューター科学、生物医学、そしてホテル経営学が有名で、学内にはホテル学部が経営するホテルもあります。ということで・・・3月はめっちゃ寒い!以前、チェルフィッチュのツアーでミネアポリスに行ったとき、マイナス20度!!というのを経験したことがありますが、さすがにそこまでは寒くはないものの、かなり寒かったです。


      
雪のなか、トラックから荷物を降ろす座員。              このトラックは24フィートと呼ばれるサイズ。 
しかし、トラック、ボロボロですねえ。                  日本で言えば2トンロングぐらいかな?


コーネル大学では2公演行いましたが、1公演目はキャパが1000席を超えるBaily Hall。基本的には講堂か音楽ホールとしての利用が主なようですが、人形公演にはちょっと大きすぎの感も。しかし、基本的には1階のセンターセクション(手すりから前)しか使わないとのことなので、まあ、いいかと。アメリカでツアーすると、こういうことが良くあります。昨日まで150席の会場だったのに今日は1000席、なんてことも。まあ淡路人形浄瑠璃座にフレキシビリティがあるのと、照明の仕込とかが、まあ、ないならないなりでやれてしまうので、こういうことも対応可能になります。あと、ツアーはあまり贅沢を言っていると日程調整が大変になるので、フレキシビリティがないと難しいことも多々あります。それにウェズリアン大学に続いて吊り物や照明のできない劇場だったので、メンバーにも慣れが・・・。


        
凍てつく大地にそびえるベイリーホール。立派な建物ですね。  建物の大きさに比べて客席は結構見やすく設計されています。
アイビーリークの威厳でしょうか。                   音楽ホールとして利用されているので音響も良かったです。
まあ、学生も大学も基本、お金持ちですが・・・。          


        
照明はシンプルなダウンライトと前明りだけですが         そして舞台は無事完成。
まあね、古典ですからなんとかなります。              なにせキャパが大きいので心配しましたが
                                       客席もそれなりに埋まりました!


    
しかし、この大学、とっても美しいんです。高台にあるので眺望も素晴らしいし、歴史もあるので建物がどれも美しく、そして手入れも行き届いています。こういう歴史と手入れの行き届いた環境というのは私学でないと難しいところです。そして当然、授業料も高くなるという最初の話に戻ってしまいます。教育においてもアメリカは市場主義。素晴らしいサービス(教育)、素晴らしい環境には当然ながらコストがかかるということです。


    
コーネルの象徴的な塔。その先端の内部にはオルガンのような装置が。さらに同建物内に“塔のオルガン演奏部”の部室があって、部員たちが定刻になると2人がかりで演奏を行います。かなりな重労働でした。内部は誰でも見学できます。


  
“昔は教会でした”風な建物。客席が変則的に3方向にあるので、両端をつぶして正面だけにしました。レンガ作りで丸い天井や梁が可愛い建物ですが、搬入出が大変でした。特に字幕用のプラズマはケースに入れると40kgあるので大変。まあ、屈強な座員によって無事運び出されましたが。


そして翌日は打って変わって小さな会場での公演となりました。大学側の希望で大きな会場では、「戎舞」「日高川」「壺坂」の本公演バージョンを、小さい会場では「式三番叟」「解説」「日高川」のレクチャー公演バージョンをやることに。

この「式三番叟」は淡路で最も古い演目のひとつだそうで、淡路人形浄瑠璃資料館によると、「古代・中世にかけて大阪四天王寺から楽人(がくじん)を雇い、淡路島内の有名社寺に舞楽を奉納していました。やがて楽人の一部は近くに住むようになり、その子孫たちは代々祖先の生業を受け継いでいきました。しかし、室町時代末、守護大名であった細川氏の没落とともに神事奉納も行われなくなったところへ、百太夫(ひゃくだゆう)という西宮戎神社に仕えていた人形つかいから人形の操り方を伝えられました。衰退の危機にあった楽人たちは、新たな神事芸能を創造すべく上方から伝えられた「式三番叟(しきさんばそう)」の奉納を人形操りによって行いました。これが淡路人形浄瑠璃の始まりです。現在でも三番叟は、人形座が各地で公演を行う前に、無事安全を祈願して奉納が行われています。」


  
だそうで、人形も一人使いで機能面ももっと古式な感じです。腕とか曲がらないし。あと、淡路人形浄瑠璃では基本、人形遣いは頭巾を被って人形を遣いますが、この時だけは紋付袴で顔だしです。音楽も鼓のみと古式な感じです。僕は人形遣いが顔を出さずに黒子として人形を遣うほうが芝居に集中できるので好きですが、これは神事でもあるので、こういうスタイルもいいですね。


      
会場は熱心な観客でいっぱいに。そして今日も人形解説は、ヤンキース・松井似でこちらは元ヤンキーの記虎団員が担当。基本的な動作だけでなく、胴の衣装を取って構造を見せてくれたり、仕掛けの多い頭を見せてくれたり、サービス満点です。古典芸能は日本人にすら良く知られていない内容があったりするので、こういった解説は重要で、さらにアメリカでは観客の興味や意欲が大きいので解説中も質問が飛んだりします。

海外ツアーは文化庁や国際交流基金の助成金を頂いて実施されることも多く、優れた舞台を見せるのが最重要なミッションとは言え、やはりこういった解説や現地の人たちとの交流がないと、その使命を十分に果したとは言えないと思います。裏方にしても、自分たちのやり方を押し付けるのではなく、現地のやり方を尊重し、考え方・進め方の違いを理解し、限られた時間ながら、作業を通して交流することが必要です。自分のお金で勝手に来ているなら別ですが、元は税金といった姓格のお金で来ているのであれば「良い舞台さえ作ればそれでいい」では片手落ちだと思います。


     
上写真左はコーネル大で日本語を勉強する学生たちが着物姿で受付を手伝ってくれました。こういうのは本当に有難いし嬉しいですね。舞台を好きになってくれることも嬉しいですが、日本そのものに関心を持ってくれるのも嬉しいものです。右の写真は客出しに登場した人形と握手する子供。この子が将来、アメリカ初の女性大統領になるかもしれません。その時、きっと日本に良い印象を持ってくれるんじゃないでしょうか。まあ、大統領にならなくても、良い思い出としてくれれば良いのですけどね。


     
淡路人形浄瑠璃座はどこに行っても本当に人気がありました。客出しの間の短い交流も双方にとって大事な時間。写真を取ったり質問したり。ここでも良い時間が過ごせました。

そしてコーネル大学での公演も無事終了。
翌日はマサチューセッツ大学に移動です。


BACK STAGE 紙が伝える酒井法子ニュースって

2009年11月15日 | アメリカ徒然日記
三谷幸喜作演出、香取慎吾主演のミュージカルのレヴューがどこかに出ているかな?と思ってアメリカの劇場関係のウェブを検索していると、なんと!酒井法子さんの覚醒剤事件の記事が掲載されているのを発見!

記事が掲載されていたのは、The Actor's Resource(役者のための情報源)と自らを評するBACK STAGE 紙。同紙はオーディションや仕事に関する情報だけでなく、同紙のウェブ上で履歴書を作成でき、しかもデータベース化して掲載してくれるなど、役者にとっては非常に有益なサイトです。(http://www.backstage.com/bso/index.jsp)もちろん、舞台の批評や最新ニュース、関係機関の連絡先なども載っています。で、三谷さんのレビューがでていないか見ていて、「日本の女優、麻薬使用で有罪」なるニュースを発見しましたー!しかも酒井法子さんの写真入りです!

記事のタイトルは “Japanese Actress Convicted of Drug Use”日付は2009年11月9日となっています。記事の内容はまあ、日本で報道されているのと同じで簡潔に伝えているだけですが、かい摘んで書きますと・・・

“アジアで爆発的人気の日本人女優、酒井法子が月曜、麻薬使用の罪で有罪となった。”“3000人を超える群集が判決を待つなか、東京地方裁判所は38歳の酒井に懲役18ヶ月、執行猶予3年を言い渡した。”“酒井は夫の逮捕後、1週間ほど姿をくらましていたが、8月に逮捕された。”“酒井は1990年代に中国や香港、台湾を含むアジアで人気を集めた。”“酒井の麻薬スキャンダルはこの数ヶ月、日本のヘッドラインを占拠し続けている。”“トヨタを含む彼女のCMはキャンセルされた”“所属レコード会社のビクターは彼女との契約を打ち切り、すべてのアルバムや関連商品の回収を行った”

記事としては日本で伝えられている内容をそのまま書いただけのつまらないものですね。しかし、面白いのは、このニュース配信、顔写真の横にヘッドラインが掲載される形になっているのですが、

デンゼル・ワシントン:Denzel Washington Set for 'Fences' on Broadwayとか
ジュード・ロー:Jude Law's 'Hamlet' Goes From Red To Blackとか
ルーシー・ルー:Lucy Liu Film Highlights Child Traffickingとか
マーティン・スコセッシ:Martin Scorsese to Receive DeMille Awardなどなど

なんてハリウッドの大物たちの記事の中に酒井さんの顔写真と「日本の女優、麻薬使用で有罪」のヘッドラインが・・・。
えー。なんでー。なんで、この配信記事を掲載する気になったんだろう??
まあ、いいんですけどねー