〔資料〕
「病名は「偏執病のナルシスト」? 米国で広がるトランプ大統領弾劾の動き 」
dot/週刊朝日 2017年3月31日号(更新 2017/3/22 07:00)
☆ 記事URL:https://dot.asahi.com/wa/2017032100079.html
トランプ大統領の暴言が止まらない。「オバマが選挙戦中にトランプタワーを盗聴した」(3月4日)と爆弾発言をしたが、その証拠は示されていない。ティラーソン国務長官が来日するも、米国で激しさを増す「トランプ弾劾」の動きを追った。ジャーナリストの矢部武氏が取材した。
* * *
注目されているのは、35人の精神科医などが連名でニューヨーク・タイムズ紙に送った投書だ。
〈トランプ氏の言動が示す重大な精神不安定性から、私たちは彼が大統領職を安全に務めるのは不可能だと信じる〉(2月13日付)と警告したのだ。
「偏執病のナルシスト」
米国精神医学会(APA)は「精神科医が自ら診察していない公的人物の精神状態について意見を述べるのは非倫理的だ」として禁じる規定を設けている。しかし、この35人は「黙っていることはあまりに危険すぎる」と考え、あえて規定を破って発言したのだ。
それでは、トランプ氏が抱えるとされる「自己愛性パーソナリティー障害」(NPD)とはどういうものか。APAによれば、多くの人に自己愛性の傾向はあるが、そのうち「NPD」と診断される人は1%程度だという。NPDの診断基準は、「自分を過大評価し、実績や才能を誇張する。過度の称賛を求め、対人関係で相手を不当に利用する。共感性に欠け、傲慢で横柄な態度をとる」など9項目からなり、五つ以上があてはまると相当するという。
臨床心理博士として約25年の診療経験を持つリン・メイヤー医師は、「ほとんどの項目がトランプ氏にあてはまる」と話す。たとえば、トランプ氏が「自分は賢いので、毎日の情報機関からのブリーフィングは必要ない」と話したことについて、メイヤー医師は「“頭が良くて何でも知っている”という誇大妄想からきていると思います。自己を過大評価し、実際にない能力があるように思い込んでいて、国や国民を危険にさらす可能性があります」と分析する。さらに怖いのは、自己制御が利かない衝動性と精神不安定性を持つ人物が核のボタンを握っていることだという。
トランプ氏のNPDを懸念する精神科医が増える一方で、それに異議を唱える専門家もいる。デューク大学のアレン・フランシス名誉教授は、「トランプ氏の自己愛の強さは世界的かもしれないが、それは彼が精神障害であることを意味しない。その前提条件となる精神的な苦痛を感じていないからだ」という。
しかし、メイヤー医師は「(トランプ氏は)苦痛を感じていると思う」と反論する。「夜中もツイッターで反撃しているのをみると、批判に対してかなり苛立ち、精神的に参っているのではないかと想像します。おそらく、周囲の人たちが彼の怒りを鎮めようと努めているのでしょう」
ただ、たとえトランプ氏が精神障害だとしても、それだけで「大統領として不適格」ということはできない。過去にもうつ病や双極性障害などを抱えた大統領はいたからである。しかし、トランプ氏の問題は、自身の精神不安定性が米国の言論の自由や民主主義などを危険にさらすと懸念されていることだ。
長年共和党員だったという元控訴裁判事はこう語る。
「トランプ氏は米国の基本的な価値や常識的な礼儀を心得ていないように思える。意見が異なる人を片っ端から攻撃し、ツイッターで政策を発表する。このような人物が大統領の座に居座り続けるのは危険すぎます」
結局、トランプ氏が大統領として適格かどうかは、最終的に国民が判断することだ。世論の圧力が高まれば、副大統領や閣僚、議会が行動を起こすことになるだろう。議会ではすでに動きが出ている。民主党のアール・ブルーメナウアー下院議員は2月半ば、「職務不能を理由に大統領を解任し、副大統領を代理に据える手続き」を定めた憲法修正第25条の適用に備える会を立ち上げた。この条項には「副大統領と閣僚の過半数が“大統領は職務上の権限と義務を遂行できない”と判断した場合、副大統領が代行する」と明記されている。同議員は「トランプ氏は就任式の参加者数を誇張し、得票数で負けたのは不正が行われたからだなどと根拠のない主張を繰り返している。妄想症で偏執病の大統領には本条項が必要になると思います」と述べた。
他に「トランプ解任」の方法として、可能性が高いのは弾劾だ。憲法第2条は「反逆罪、収賄罪、重罪または軽罪で弾劾訴追を受け、有罪となった大統領は罷免される」と規定している。
© dot. 全米で繰り広げられる反トランプデモ (c)朝日新聞社
トランプ氏はすでに利益相反問題で提訴され、ロシアとの不適切な関係で調査を受けている。利益相反に関しては憲法に「報酬条項」があり、連邦政府の当局者が外国政府から報酬や贈与を受け取ることを禁止している。同氏は国内外で所有するホテルなどの事業を通して外国政府から報酬を受け取る可能性があるため、全ての事業資産を売却するか、独立管財人が運営する「白紙委任信託」に移さなければならない。
しかし、それを拒否し、経営権を子供に譲ることで済ませようとしている。その結果、就任直後にワシントンにある政治倫理監視団体(CREW)から提訴された。有罪となれば、弾劾訴追の根拠になる可能性がある。
また、「ロシアの米大統領選への関与にトランプ陣営が加担したのではないか」とする疑惑で、FBIや上院情報委員会などの調査を受けている。焦点はトランプ陣営の関係者がロシア側と接触し、ハッキングなどで「共謀」したかどうかである。
これまでにトランプ陣営の選対参謀を務めたポール・マナフォート氏ら数人がロシア側と接触したことは確認されたが、「共謀」の証拠は出ていない。しかし、疑惑は膨らみ、3月1日にはトランプ陣営の幹部だったジェフ・セッションズ司法長官が昨年7月と9月に駐米ロシア大使と面会していたことが発覚。ちょうどハッキング疑惑が問題になっていた時期だ。同長官は上院の公聴会で、「選挙戦中にロシア当局者と面会したことはない」と証言していたため、野党・民主党から「偽証罪にあたる」と辞任を求められたが、拒否した。
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中国が足引っ張る、ひとり負けの韓国
さらに民主党は政治的な影響を受けない特別検察官の任命を求めているが、注目すべきは一部の共和党議員がこれに同調していることだ。再選を意識してトランプ政権と距離を置こうとしているように思われる。とくに大統領選でクリントン候補が勝利した選挙区を地盤とする共和党議員は、地元で高まる「反トランプ」の圧力を感じているようだ。これは大統領の弾劾を進める上でカギとなるだろう。共和党が両院で多数を占める現状では、一定の同党議員の賛成がなければ弾劾できないからである。
3月12日にギャラップが行った調査ではトランプ大統領の支持率は42%(不支持率51%)と低調で、「公共政策世論調査」(PPP)によればすでに国民の約半数が弾劾に賛成している。今後、さらに世論が高まれば、来年の中間選挙を見据えて弾劾支持に傾く共和党議員が増える可能性はある。
冒頭のトランプ大統領の「盗聴」発言だが、法律専門家によれば、「大統領職を利用して“虚偽告発”するのは権力乱用にあたり、弾劾訴追の根拠となるだろう」という。(ジャーナリスト・矢部武)
※週刊朝日 2017年3月31日号
「病名は「偏執病のナルシスト」? 米国で広がるトランプ大統領弾劾の動き 」
dot/週刊朝日 2017年3月31日号(更新 2017/3/22 07:00)
☆ 記事URL:https://dot.asahi.com/wa/2017032100079.html
トランプ大統領の暴言が止まらない。「オバマが選挙戦中にトランプタワーを盗聴した」(3月4日)と爆弾発言をしたが、その証拠は示されていない。ティラーソン国務長官が来日するも、米国で激しさを増す「トランプ弾劾」の動きを追った。ジャーナリストの矢部武氏が取材した。
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注目されているのは、35人の精神科医などが連名でニューヨーク・タイムズ紙に送った投書だ。
〈トランプ氏の言動が示す重大な精神不安定性から、私たちは彼が大統領職を安全に務めるのは不可能だと信じる〉(2月13日付)と警告したのだ。
「偏執病のナルシスト」
米国精神医学会(APA)は「精神科医が自ら診察していない公的人物の精神状態について意見を述べるのは非倫理的だ」として禁じる規定を設けている。しかし、この35人は「黙っていることはあまりに危険すぎる」と考え、あえて規定を破って発言したのだ。
それでは、トランプ氏が抱えるとされる「自己愛性パーソナリティー障害」(NPD)とはどういうものか。APAによれば、多くの人に自己愛性の傾向はあるが、そのうち「NPD」と診断される人は1%程度だという。NPDの診断基準は、「自分を過大評価し、実績や才能を誇張する。過度の称賛を求め、対人関係で相手を不当に利用する。共感性に欠け、傲慢で横柄な態度をとる」など9項目からなり、五つ以上があてはまると相当するという。
臨床心理博士として約25年の診療経験を持つリン・メイヤー医師は、「ほとんどの項目がトランプ氏にあてはまる」と話す。たとえば、トランプ氏が「自分は賢いので、毎日の情報機関からのブリーフィングは必要ない」と話したことについて、メイヤー医師は「“頭が良くて何でも知っている”という誇大妄想からきていると思います。自己を過大評価し、実際にない能力があるように思い込んでいて、国や国民を危険にさらす可能性があります」と分析する。さらに怖いのは、自己制御が利かない衝動性と精神不安定性を持つ人物が核のボタンを握っていることだという。
トランプ氏のNPDを懸念する精神科医が増える一方で、それに異議を唱える専門家もいる。デューク大学のアレン・フランシス名誉教授は、「トランプ氏の自己愛の強さは世界的かもしれないが、それは彼が精神障害であることを意味しない。その前提条件となる精神的な苦痛を感じていないからだ」という。
しかし、メイヤー医師は「(トランプ氏は)苦痛を感じていると思う」と反論する。「夜中もツイッターで反撃しているのをみると、批判に対してかなり苛立ち、精神的に参っているのではないかと想像します。おそらく、周囲の人たちが彼の怒りを鎮めようと努めているのでしょう」
ただ、たとえトランプ氏が精神障害だとしても、それだけで「大統領として不適格」ということはできない。過去にもうつ病や双極性障害などを抱えた大統領はいたからである。しかし、トランプ氏の問題は、自身の精神不安定性が米国の言論の自由や民主主義などを危険にさらすと懸念されていることだ。
長年共和党員だったという元控訴裁判事はこう語る。
「トランプ氏は米国の基本的な価値や常識的な礼儀を心得ていないように思える。意見が異なる人を片っ端から攻撃し、ツイッターで政策を発表する。このような人物が大統領の座に居座り続けるのは危険すぎます」
結局、トランプ氏が大統領として適格かどうかは、最終的に国民が判断することだ。世論の圧力が高まれば、副大統領や閣僚、議会が行動を起こすことになるだろう。議会ではすでに動きが出ている。民主党のアール・ブルーメナウアー下院議員は2月半ば、「職務不能を理由に大統領を解任し、副大統領を代理に据える手続き」を定めた憲法修正第25条の適用に備える会を立ち上げた。この条項には「副大統領と閣僚の過半数が“大統領は職務上の権限と義務を遂行できない”と判断した場合、副大統領が代行する」と明記されている。同議員は「トランプ氏は就任式の参加者数を誇張し、得票数で負けたのは不正が行われたからだなどと根拠のない主張を繰り返している。妄想症で偏執病の大統領には本条項が必要になると思います」と述べた。
他に「トランプ解任」の方法として、可能性が高いのは弾劾だ。憲法第2条は「反逆罪、収賄罪、重罪または軽罪で弾劾訴追を受け、有罪となった大統領は罷免される」と規定している。
© dot. 全米で繰り広げられる反トランプデモ (c)朝日新聞社
トランプ氏はすでに利益相反問題で提訴され、ロシアとの不適切な関係で調査を受けている。利益相反に関しては憲法に「報酬条項」があり、連邦政府の当局者が外国政府から報酬や贈与を受け取ることを禁止している。同氏は国内外で所有するホテルなどの事業を通して外国政府から報酬を受け取る可能性があるため、全ての事業資産を売却するか、独立管財人が運営する「白紙委任信託」に移さなければならない。
しかし、それを拒否し、経営権を子供に譲ることで済ませようとしている。その結果、就任直後にワシントンにある政治倫理監視団体(CREW)から提訴された。有罪となれば、弾劾訴追の根拠になる可能性がある。
また、「ロシアの米大統領選への関与にトランプ陣営が加担したのではないか」とする疑惑で、FBIや上院情報委員会などの調査を受けている。焦点はトランプ陣営の関係者がロシア側と接触し、ハッキングなどで「共謀」したかどうかである。
これまでにトランプ陣営の選対参謀を務めたポール・マナフォート氏ら数人がロシア側と接触したことは確認されたが、「共謀」の証拠は出ていない。しかし、疑惑は膨らみ、3月1日にはトランプ陣営の幹部だったジェフ・セッションズ司法長官が昨年7月と9月に駐米ロシア大使と面会していたことが発覚。ちょうどハッキング疑惑が問題になっていた時期だ。同長官は上院の公聴会で、「選挙戦中にロシア当局者と面会したことはない」と証言していたため、野党・民主党から「偽証罪にあたる」と辞任を求められたが、拒否した。
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さらに民主党は政治的な影響を受けない特別検察官の任命を求めているが、注目すべきは一部の共和党議員がこれに同調していることだ。再選を意識してトランプ政権と距離を置こうとしているように思われる。とくに大統領選でクリントン候補が勝利した選挙区を地盤とする共和党議員は、地元で高まる「反トランプ」の圧力を感じているようだ。これは大統領の弾劾を進める上でカギとなるだろう。共和党が両院で多数を占める現状では、一定の同党議員の賛成がなければ弾劾できないからである。
3月12日にギャラップが行った調査ではトランプ大統領の支持率は42%(不支持率51%)と低調で、「公共政策世論調査」(PPP)によればすでに国民の約半数が弾劾に賛成している。今後、さらに世論が高まれば、来年の中間選挙を見据えて弾劾支持に傾く共和党議員が増える可能性はある。
冒頭のトランプ大統領の「盗聴」発言だが、法律専門家によれば、「大統領職を利用して“虚偽告発”するのは権力乱用にあたり、弾劾訴追の根拠となるだろう」という。(ジャーナリスト・矢部武)
※週刊朝日 2017年3月31日号
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