町人文化が大いに栄えた町だったそうだ。
そのため、様々に意匠を凝らした町屋が多く
中でも、この松坂邸は製塩業で栄えた豪商で
唐破風の流れるような屋根の形が有名らしい。

竹原市の重要文化財にも指定されている、この松坂邸。
二階の菱格子の塗りごめの窓、うぐいす色の漆喰壁、
彫刻を配した飴色の出格子が往時の繁栄を偲ばせる。

一歩、中に足を踏み入れると、そこには過去と現代が
奇妙に融合した、不思議な世界が目の前に広がっていた。
天井からぶら下がっているのは、古色蒼然とした駕籠。

座敷は数奇屋風の重厚な造りで、中庭まで見通せる。
奥から射し込む明るい光と風を、暗い室内に取り込み
明暗の絶妙なコントラストを見せる、心憎い演出はさすが日本人。

座敷の床の間はごてごてと飾り立てず、とてもシンプル。

もっとシンプルなのは障子に囲まれた、ここは格子の間。
もしかして日本人の美意識の根幹には、この障子があり
障子の持つこの縦横の直線と白と黒、あるいは光と影の
明暗に、美しさを感じるDNAが潜んでいるのかも‥。

座敷の外に造られた渡り廊下は、長年の風雨に耐えつつ
磨き上げられた黒光りの輝きを今も失うことはない。
古き家に 風と光の なかりせば
虫の音さえも 聞こえざらまし