ふわふわな記憶

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『魔法少女リリカルなのはViVid』 過去に向き合い、今を生きる少女たちの物語

2015-03-24 04:35:00 | 魔法少女リリカルなのは

『魔法少女リリカルなのはViVid』 過去に向き合い、今を生きる少女たちの物語


 
 原作未読の方はネタバレにお気を付けください。
 (なのはViVid連載の感想はなのはカテゴリをご参照ください→魔法少女リリカルなのは)



 いよいよ、4月からアニメ『魔法少女リリカルなのはViVid』が放送される。PVも公開され、先日『スマイルギャング』で主題歌である『Angel Blossom』のフルverが解禁された。そして、この曲は「出会いと始まり」をコンセプトとしているのだと。

 
 僕としてもこの曲は『なのはViVid』らしさが表現されているとても良い曲だなと思いました。歌詞にある「羽ばたけ 不屈の夢の彼方まで」という部分にはなのはさんがレイジングハートを起動させる際に言う「不屈の心はこの胸に」を意識したものになっていて、なのはさんの元で成長し、またこれから作品を通して更に成長していくヴィヴィオをイメージさせる。今までのなのはシリーズとは少し違った元気で明るい曲調になっているのも、「平和な世界で仲間たちと心身共に成長していく子供たち」を描くこの作品らしさが出ていて良かった。



 さて、今回は『なのはViVid』の物語について私見を改めてまとめておこうと記事にしました。なのはさんたちが様々な事件に立ち向かってきた「過去」があって、「今」を生きるヴィヴィオたちがいる。そして、そんなヴィヴィオに訪れる「過去」に縛られた少女・アインハルトとの出会い。『なのはViVid』が単になのはシリーズの延長に留まらない素晴らしい物語であるということが伝われば良いなと。



 

その力は何のために?―― 高町ヴィヴィオとアインハルトの「今」を巡る物語



 『なのはViVid』の主軸となるのはやはりヴィヴィオとアインハルトの物語。彼女たちの願いは「強くなる」ことであるが、その目的は大きく異なっていた。




 ヴィヴィオが格闘技をやる理由はかつて母のなのはさんと約束した――すぐに泣かず、転んでも1人で立ち上がる事のできる「強い子」になるため。そして、世界中の誰よりも幸せにしてくれた母をいつか守れるくらいに強くなりたいという思いに由来している。






 一方で、アインハルトが強さを求める理由は過去の記憶に縛られてのものだった。自分の先祖である古代ベルカの覇王「クラウス」の記憶を継承し、かつて彼が守るべきものを守れなかったその悲しみと後悔を二度と繰り返さないために、彼女は自分が強くなることで「覇王流」の強さを証明しようと奮闘する。



 この2人が強さを求める理由は対照的だ。今まで母に守られてきたヴィヴィオは「将来」自分が強くなって母を守りたいと誓う。だが、アインハルトの夢は「過去」に向いている。もうどうしたって変えることのできない「過去」の記憶に縛られ、形のない夢を追い続けるアインハルトに対してわたしたちとの「これから」を見て欲しいとヴィヴィオは思うのです。







 「シュトゥラで過ごさせてもらった大切な時間 あの宝物のような日々をずっと続けていけたらよかった ... (中略)... そんな風に何もできない私だから せめて終わらない戦乱と灰色の雲と 人々の飢えと悲しみが少しでも早く終わるよう わたしはゆりかごの聖王になります」


 タイトルにも書いたように『魔法少女リリカルなのはViVid』は「過去に向き合い、今を生きる少女たち」の物語だ。ヴィヴィオたちが平和な「今」を過ごしている背景にはかつて、自分の置かれた境遇と戦乱によって不安定になっている世界を重ね合わせ、自分の身を捧げることで大切なモノを守った先祖のオリヴィエの選択がある。誰にも涙を見せず、平和な時代を作ろうとしたオリヴィエや戦乱を治めるために尽力したクラウスたちの存在が、今の平和な時代を形作ってきた。


 だからこそ、「過去」にこだわるわけでもなく、「過去」を忘れるわけでもなく、「過去」に向き合って「今」を生きていく必要があるのだ。しかし、オリヴィエたちの過去に触れたアインハルトはまた少し心を閉ざしてしまう。クラウスの悲願を叶えるまで、自分は笑うことはできないのだと。そんなアインハルトにヴィヴィオは4度目の対決を申し込む。言葉では伝わらない自分の想いをぶつけるために。





「撃ち抜く力は想いを届けるためにあるんだって事」


 以前に60話の感想を書いた際にも触れましたが、このシーンは『なのはViVid』の中でも屈指の名シーンだと思います。相手を大切に想うからこそ、ぶつかり合わなければいけない時があって、魔法は自分の想いを届けるための「撃ち抜く力」なのだとヴィヴィオはアインハルトに告げる。そう、これは今までのなのはシリーズでなのはさんが掲げてきた想いだ。


 1stシーズンはなのはさんとフェイトが出会い、戦いの中で生まれる「友情」が描かれた。A'sでは家族のいないはやてと歴代の主からただ道具としての扱いを受けてきたヴォルケンリッターが出会い、なのはさんたちとぶつかり合うことで本当の「家族」になっていく物語だった。そして、StrikerSでは教官としてのなのはさんの想いがスバルやティアナに受け継がれた。そして、心も体も自分の思うようにならず大好きだった優しい人のことさえその手で殺しかけてしまったヴィヴィオがなのはさんと「親子」としての絆を形成していく物語だった。


 そして、『なのはViVid』はなのはさんの想いを受け継いだヴィヴィオとその仲間たちが成長していく物語だ。ヴィヴィオはかつて自分の涙も痛みも運命も受け止め、ぶつかり合ってでも自分に「未来」をくれた母のように、今度は大切な友達にわたしたちの「これから」を示す。




 
 そして、過去の記憶に縛られ、ただクラウスの亡霊のように過去をさまよい続けてきた日々があったからこそ、出会えた人達がいるのだとアインハルトが語るシーンはこの作品の素晴らしいところ。ヴィヴィオの過去を知り、ヴィヴィオの本気の思いに触れ、自分を大切に思ってくれる人達の存在が自分に「今」立って戦う「力」をくれているのだとアインハルトは自覚する。でも彼女は自分の過去を決して否定しない。そんな過去があったからこの出会いはあったのだと、過去に向き合うことで、今を見つめている。そして、今まで強さを求めてきた彼女は4度目の対決でヴィヴィオに敗北するのだ。今まで決して笑うことのなかった彼女の最高の笑顔を浮かべて。
 




「お前の拳を受け止めてくれる奴がちゃんといる」

 
 6話でのノーヴェとアインハルトの会話が回収されるのは61話。アインハルトの逡巡に一つの答えが出るまでに色々な事がありました。迷って、躓いて、立ち止まって、そんなことを繰り返して「今」の自分はここに生きているんだなと。ジークやヴィクターも自分の生まれに悩む日々があった。でも過去に向き合うことで、受け継いだ血と技を自分の誇りに変えてみせた。きっとその強さが彼女たちがトップファイターであり続ける理由なのでしょう。62話の「どうせ生きてくなら笑っていられる方を選びたい」というルーテシアのセリフは都築先生が指摘しているように物語を貫くテーマだなと思わされるばかりです。
 



わたしにしかできない魔法で――コロナ・ティミルの願い



 さて、次はなのは史上最高のかわいさとの呼び声も高いコロナちゃんについて。ヴィヴィオとは小学校1年生の頃からの親友であり、あまり主張をしない控えめな性格で、チームの中で誰よりも優しい女の子だ。だが、彼女は戦闘の才能に長けてはいなかった。そんな彼女も自覚している、チームで自分だけが色々な能力で劣っていることを。




 彼女が格闘技を始めるきっかけはヴィヴィオの隣にいたかったからだ。本当はヴィヴィオのようには上手くいかなくて何度もやめようと思う時があった。でも、優しい師匠と自分の目標に向かって頑張るチームのみんなの姿が彼女には眩しく見えた。




 
 彼女はヴィヴィオやリオが言ってくれた「わたしにしかできない魔法」でインターミドルを勝ち上がっていく。そして、親友たちの言葉に背中を押された彼女はインターミドルの3回戦で実力も才能もあって努力も出来るアインハルトとの同門対決を前にしても勇敢にぶつかっていく。あともう少しみんなと同じ目線で同じ速度で歩いていきたくて。上手くいかず何度もやめようかなと格闘技を諦めそうになっていた彼女が痛くても苦しくても、チームのみんなと対等でいたいと五体の完全外部操作という身体への負担が大きい切り札を使うという覚悟を見せる。





 そして、その切り札もアインハルトによって破られ、心が折れそうになる寸前彼女は思い出す。強くなることの楽しさと積み重ねてきた練習の成果こそが本当に胸を張れる「今」の自分の原動力であることを。

 結果的に彼女は覇王の進撃を止めることはできなかった。でも、この敗戦による悔しさが彼女の「これから」を作っていくのだ。彼女は昨日よりもっと今日よりずっと強くなっていく。格闘技を始めた頃とは違って彼女は「強くなることの楽しさ」を知っているのだから。




不器用な少女は前進する――ミウラ・リナルディの剣



 最後はインターミドル初出場にして今なお、勝ち残っているボクっ娘のミウラ。





 以前のミウラは自身の不器用さに悩んでいた。人見知りで、口下手でなにをやってもダメな自分が嫌いだった。だが、はやてたちに手を差し伸べてもらったあの日、不器用な少女の中に眠る可能性を見出してもらったあの日からミウラは強く成長した。嫌いだった「過去」の自分を変えようと「今」を精一杯積み重ねていくことによって。






 ただ下を向いて歩いていた少女が格闘技と出会ったあの日、黙々と「今」の自分を積み重ねることで自分の空を自分の力で飛んでいける翼を受け取った。ミウラの必殺技とも言える「抜剣」は八神家のみんなに見出してもらったミウラにとって勇気と誇りの力であり、今まで見出せずにいた自分の道を自分の意志で切り拓いていく為の剣だ。ミウラが掴み取ったその剣はミウラがまっすぐに歩んできた日々のように決して揺らぐことなく前に向かっていく。それゆえにミウラは強敵にぶつかっていくことを恐れないのだ。






 そして、彼女は生まれて初めて自分を好きになれそうだと笑顔で語る。まっすぐに愚直に歩んできた日々と差し伸べてくれた温かい手に対する感謝の気持ちを乗せて彼女はこれからも前に進むのだろう。いつだって自分の全部をぶつけるために。それが大好きな「今」の自分の在り方なのだから。





 『なのはViVid』は従来のなのはシリーズのような重い事件は起こらない。それゆえに「平和な世界」で「今」を生きる少女たちの心のあり方、「過去」に立ち向かう強さに焦点が当てられた作品だと思います。アニメでは原作の物語をどう描いていくのか楽しみにしています。アニメで動くコロナちゃんやミウラが見たい...!


3 コメント

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Unknown (ヒカル)
2015-03-29 01:51:33
読み込みの深さが窺える良質な記事ですね。
それぞれのキャラたちが過去に何かしらの悩みをかかえていて、その事実に目をそらすことなく今を生きている。そういった少女たちの強さを感じ取れるところが本作の魅力なのだと改めて感じました
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Unknown (Unknown)
2015-04-02 08:34:50
すごい納得のいく良記事
アニメの感想も読みたいなぁ
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Unknown (Unknown)
2015-05-02 23:26:58
この感想読んでヴィヴィオとアインハルトの物語って本当になのはとフェイトがかつて通った道に似てるんだなと感じた。素晴らしいね
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