カトログ !! ~ カトレヤ交配種のブログ (Hybrid Cattleya's Database) ~

洋蘭の女王カトレアのデータベース(主に大輪系交配種)&育種交配・実生の魅力をご紹介

<カトログ !! 版> 大輪系カトレヤ交配種『新時代の胎動』Vol.2

2023年11月04日 09時01分45秒 | ■特集
※当記事は、NEW ORCHIDS(ニュー・オーキッド)2012年 01月号への私の寄稿のブログ版です。


・学生時代に撮影した兵庫県尼崎市の夕空

〜 サヌキ・サンセット (Rlc. Sanuki Sunset) という“夜明け” 〜

 兵庫県の南東部、大阪府とのはざまに位置する京阪神都市圏内屈指の工業都市、尼崎(あまがさき)。
 幼少期から成人するまでの多くの時期をその町で過ごした私は、そこで犇めき合いながら生きた人々、生きる人々の、何か想念のようなものの堆積が帯びた熱のような、その町独特の温もりが好きでした。
 学生時代、私はその尼崎という町の良くも悪しくも人間臭い情景を何かに留めておきたいと、安カメラでよくあちこちを撮って回ったものですが、中でも工場の屋根や煙突や鉄塔が影絵のように浮かぶ夕景に心惹かれ、刻一刻と移ろっては失せてゆくその色彩の儚さを愛し、無心に幾度もシャッターをきったものです。
 そんなこともあってか、私がカトレヤの花色でも愛して止まないのは、サンセットカラー(オレンジ系)なのですが、この花色は開花時期や栽培環境・株の状態などによる変化が他の花色に比して大きく、その不安定さゆえか、プロにとっては商品にし難い花色のようです。
 しかし、私のような愛好家にとっては、そうした変化もまた一興で、それが“愛好家の特権”とも思えるのです。
 そして、香川県高松市の育種家、サンセットさんの手によって、その特権を行使するかのごとく、生まれるべくして生まれてきたとも思われる品種“サヌキ・サンセット (Rlc. Sanuki Sunset) ”からは、多様な花色や花容を持つ斬新な印象の個体たちが選抜されており、私はそれらの花々を拝見するにつれ、大輪系カトレヤ交配種にとって、闇夜をさまようかのごとく不遇の時代に、さらに追い打ちをかけるように一部で囁かれ始めた「品種改良の限界説」が、全くの誤認であることを確信し、サヌキ・サンセットと名付けられたその命の輝き(花)に、確かに、その“夜明け”を見たように思うのです。



サヌキ・サンセット (Rlc. Sanuki Sunset) の種子親
ダルズ・サンセット‘リエ’HCC/JOS
Rlc. Dal's Sunset‘Rie’HCC/JOS

(Rlc. George King × Rlc. Waikiki Sunset (01/02/1995))
 サーモンピンク系の優秀花ジョージ・キング‘セレンディピティ’(Rlc. George King‘Serendipity’) と、サンセットカラー系の銘親ワイキキ・サンセット‘ブライテスト・オレンジ’(Rlc. Waikiki Sunset‘Brightest Orange’) との交配。
 写真の個体‘リエ (Rie) ’は、サンセットさんの選抜個体で HCC 入賞時の花径は 16.3cm もの大輪。親のジョージ・キング‘セレンディピティ’を超える新世代のサーモンピンク系の極美花だと思います。

●Rlc. Dal's Sunset‘Rie’についての記事は、こちらをクリック!



サヌキ・サンセット (Rlc. Sanuki Sunset) の花粉親
メモリア・セイチ・イワサキ‘ワイアネ(ワイアナエ)’
Rlc. Memoria Seichi Iwasaki‘Waianae’

(C. Naomi Kerns × Rlc. Waikiki Sunset (01/12/1971))
 主にサンセットカラー系花の育種・改良に重用された実績のある、異なる系統の銘親同士の交配です。
 本種もまた、両親の能力を継承し、主にはサンセットカラー系花の育種・改良に貢献度の高い品種で、本種の子孫には赤花からサンセットカラー系花、そして黄花までが出現し、銘交配ゴールデンゼル (Rlc. Goldenzelle) に匹敵する程の多彩な展開が期待できる銘親ではないかと思います。

●Rlc. Memoria Seichi Iwasaki‘Waianae’についての記事は、こちらをクリック!


<Rlc. Sanuki Sunset 個体ギャラリー>

今回は、サヌキ・サンセット (Rlc. Sanuki Sunset) の選抜個体や開花例をご紹介します。


サヌキ・サンセット‘リエ’
Rlc. Sanuki Sunset‘Rie’

 力強い花容と濃く鮮やかな花色を併せ持つ極美個体。
 重厚感のある円く雄大なリップの黄色と赤のコントラストは鮮烈なインパクトを放ち、その花容は銘花パメラ・ヘザリントン‘コロネーション’FCC/AOS (Rlc. Pamela Hetherington‘Coronation’FCC/AOS) を彷彿とさせる素晴らしい花だと思います。

●Rlc. Sanuki Sunset‘Rie’についての記事は、こちらをクリック!


サヌキ・サンセット 実生開花例1
Rlc. Sanuki Sunset 実生開花例1

 本交配中でも、まさに異色の黄花個体です。
 祖先のジョージ・キング (Rlc. George King) にはイエローコンカラー系の‘サザン・クロス (Southern Closs) ’という個体も存在し、その子孫にも黄花系品種が生まれていますので、こういった黄花個体が出現することも納得がいきます。



サヌキ・サンセット‘セト・セイリング’
Rlc. Sanuki Sunset‘Seto Sailing’

 繊細な色調のオレンジの花色と、大きく円いリップには広範囲に鮮明な黄目が入り、喉の金脈も美しく先端部の赤も、鮮烈とも言えるほど高い彩度を有し非常に印象的です。また他の兄弟個体に比して、ペタルが深くオーバーラップしている為か、ソフトな中にも一層、引き締まった印象を受けます。本交配の選抜個体中でも特に優美な印象と華やかな色調を併せ持つ整型極美花だと思います。
●Rlc. Sanuki Sunset‘Seto Sailing’についての記事は、こちらをクリック!


サヌキ・サンセット‘トロピカル・フルーツ’
Rlc. Sanuki Sunset‘Tropical Fruits’

 今回ご紹介する他の兄弟個体とは異なり、リップの印象にメモリア・セイチ・イワサキ‘ワイアネ’(Rlc. Memoria Seichi Iwasaki‘Waianae’) からの影響を強く感じさせる優しく暖かみのある独特な色調の整型美花です。
 ちなみに、この花の個体名の命名は、高知県の高知のセミイエローさんという愛好家で、筆者と同じく交配・実生にも取り組んでおられます。
(栽培・写真提供=高知のセミイエローさん)

●Rlc. Sanuki Sunset‘Tropical Fruits’についての記事は、こちらをクリック!


サヌキ・サンセット‘ピンク・リップ’
Rlc. Sanuki Sunset‘Pink Rip’

 本交配中でも特筆すべき異彩を放つ極美個体。
 ‘ピンク・リップ (Pink Rip) ’の名の通り、ピンク地に黄目ではなく、白と淡いクリームイエローの目の入るリップを持つ、斬新かつ非常に珍しい花です。こういった未だかつて無いような、ユニークな配色・色調の花に出会える可能性があることも交配・実生の大きな魅力の一つだと思います。

●Rlc. Sanuki Sunset‘Pink Rip’についての記事は、こちらをクリック!


サヌキ・サンセット‘スザク(朱雀)’
Rlc. Sanuki Sunset‘Suzaku(朱雀)’

 香川県高松市の高橋洋蘭園の選抜個体。
 兄弟個体の‘リエ (Rie) ’と‘オレンジ・ジェム (Orange Gem) ’の印象を併せ持ったような美花だと思います。
 ちなみに、この花の個体名は筆者による命名なのですが、この個体の株は残念ながら既に枯死して現存しません。しかし、その遺伝子を未来へ継承する目的で、筆者はこの花の冷凍花粉を使用した交配を行っており、現在、その苗を大切に育成中です。

●Rlc. Sanuki Sunset‘Suzaku(朱雀)’についての記事は、こちらをクリック!


サヌキ・サンセット‘オレンジ・ジェム’
Rlc. Sanuki Sunset‘Orange Gem’

 本交配中、もっとも赤味の強いオレンジ色を呈すると思われる可憐で華やかな印象の美個体。両親よりもはるかに濃く彩度の高い花色となった興味深い個体でもあると思います。
 なお、花径は中〜中大輪クラスですが、1花茎に5輪着くこともあります。また、リップの黄目の入り方や花色には、祖先のワイキキ・サンセット‘ブライテスト・オレンジ’(Rlc. Waikiki Sunset‘Brightest Orange’) や、ナオミ・カーンズ ( C. Naomi Kerns ) からの良い影響を感じます。

●Rlc. Sanuki Sunset‘Orange Gem’についての記事は、こちらをクリック!


<サンセットさんの選抜個体名について>
 サンセットさんが実生株の栽培を始められた頃、選抜なさった個体の個体名は3人の娘さんに因んで、選抜順に‘リエ (Rie) ’、‘サチ (Sachi) ’、‘ユキ (Yuki) ’と命名されているのですが、通常、優秀個体は生育が早く素直に育っている苗から選抜される確率が高いそうですので、必然的に、個体‘リエ’には特に優秀な個体が多くなっているようです。なお、サンセットさんの近年の交配・登録品種には、品種名の最初に「リエズ(Rie's)」と付くものが多く、この場合には“リエ (Rie) ”の重複を避けるために別の個体名を付けておられます。


<サヌキ・サンセット ( Rlc. Sanuki Sunset ) の次世代>


サヌキ・サンデー
Rlc. Sanuki Sundae

(Rlc. Dal's Sunset × Rlc. Sanuki Sunset (30/3/2011))
 サヌキ・サンセット (Rlc. Sanuki Sunset) の創出者、サンセットさんによって、既にサヌキ・サンセットの次世代である“サヌキ・サンデー (Rlc. Sanuki Sundae) ”という品種が誕生しています。今回は、その個体の内、4個体をご紹介します。多彩な花色と斬新なリップのデザインのバラエティーをお楽しみ下さい!

●Rlc. Sanuki Sundae についての記事は、こちらをクリック!


●<カトログ !! 版> 大輪系カトレヤ交配種『新時代の胎動』Vol.1は、こちらをクリック!

●<カトログ !! 版> 大輪系カトレヤ交配種『新時代の胎動』Vol.3は、こちらをクリック!



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