リバーリバイバル研究所

川と生き物、そして人間生活との折り合いを研究しています。サツキマス研究会・リュウキュウアユ研究会

第4回 メコン祈りの儀式

2015-05-17 11:36:52 | ”川に生きる”中日/東京新聞掲載

私たちが泊まっていた水上コテージが、メコンの急激な水位上昇で流された。島の中は大混乱となっていた。村人は流れるコテージを追いかける。授業中の教室からは生徒も走り出て追いかける。騒ぎの中で、私たちが乗ったまま、水上コテージが流れたと思った村の人々はみんな肝を冷やしたらしい。

 村の人々は言う。

「メコンの水位は今までになかった変化をする。中国が上流にダムを造ってからだ」。

 メコンは6つの国を流れている。最上流は中国、そしてミャンマー、ラオス、タイ、カンボジアと流れ、河口域はベトナムだ。

中国は二十八カ所にダム建設を計画していて、二〇一五年現在六つのダムが完成している。コテージが流された二〇一一年当時、中国では世界で三番目の高さ二百九十二㍍、貯水量は日本最大の徳山ダム(岐阜県)の二十二倍という超巨大ダム(小湾ダム)が水をため始めていた。

 乾季の極端な減水。雨季の急激な水位上昇。ダム建設後のメコンの異変については聞いてはいたが、まさか自分たちが巻き込まれるとは。

着ていた服、持っていた一台のカメラ以外は全て流失してしまったが、壁に固定された金庫に入れていた旅券、カード類、現金は無事だった。

帰国の前日、妻が中学校建設に協力しているサダム島を訪問した。前回来た時に約束していた、中学校のトタン屋根を購入するための募金を村長に手渡した。

宴が用意されていた。とれたての魚と山菜料理の数々。村中の人々がそろっていた。トタン屋根のお礼かと思ったのだが村長は違うと言った。

「あの災難で、あなたがたの心がどこかに行ってしまわないように、心をつなぎとめるお祈りが必要なのです」

それは「バーシー」というラオスの伝統儀式。祈りの後、村人たちは編んだ木綿糸を私たちの腕に結わえる。

祈り、お守りの糸を結ぶ人々。その中にあって改めて私たちはたいへんな事件に巻き込まれたのだということを感じたのだった。(2015/5/17)

 

写真:「バーシー」の儀式で,祈りを捧げ、編んだ木綿糸を手首に結ぶ(ラオス南部・サダム島で)

 

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