新潟久紀ブログ版retrospective

新潟独り暮らし時代23「下手の横好きでバンド活動(その5)」

●下手の横好きでバンド活動(その5)

 「稽古不足を幕は待たない」というのは卒業してからの流行歌なのだが、大学2年生秋のこの頃の自分にドンピシャのフレーズだ。軽い気持ちでバンド経験をしたくて、中途半端な練習しかしないままでも、大学祭のバンド演奏の日はやってきてしまった。丁度、掛け持ちする映画クラブのイベントとの続けざまの時間となってしまい、演奏が一番心許ない私がスタジオへの控え室入りがギリギリになってしまった。
 本番を前に、温厚なメンバー達もさすがに緊張している。もう、ここまで来ると、動向もしようが無いので、落ち着いて楽しんで演奏しようとベースの彼が声掛けしてくれる。私は、とにかく控えめな音量でドラムを叩こうと思っていた。リズム取りが正確なベースやシンセサイザーに迷惑を掛けないようにしようと。
 前の組が終わり、いよいよステージでスタンバイだ。軽音楽部のスタジオに備え付けのドラムセットよりも高価なものが配置されており、セットの構成や位置取りも少し異なっていた。2週間に一回程度の練習でようやく馴染んできた楽器ではなく、ここに来て全く初めての、しかもかなりテイストが違いそうなものだ。
 まいったなあと思うも事前の下調べ不足は自業自得。正に「ええいままよ」とばかり椅子に座り、ライドとクラッシュのシンバル位置など若干調整したりしていると、直ぐにボーカルの彼が演奏曲目の紹介を始めた。薄い青と赤が相まったような柔らかいライトに照らされたステージからは、暗い客席に座る観客である学生達の顔は良く見えない。少しは緊張がほぐれるというものだ。
 我々のバンドに与えられていた2曲の演奏枠の最初はエイジアの「The Smile Has Left Your Eyes」。趣味でありながら民間の教室にまで通って鍛えているボーカルの彼の歌唱が凄く映えるドラマチックなバラード。一方でバラードというのは音量の重厚さによるごまかしが利かせにくく、個々のプレイヤーの技巧の善し悪しを露骨にもしてしまう。
 練習不足に加え、初舞台の緊張感と使い慣れない器材により、リズム取りはもとより、譜面どおり叩けずああっと思う部分も多かった。曲が終えると表向きはドヤ顔をして見得を切って見せたのだが、内心では私のドラムデビューは惨憺たるものになってしまったと大いに消沈した。しかし、落ち込んでは居られない。続けてもう一曲あるのだから。
 入れ替わり立ち替わりでバンドが演奏しては捌けていくステージなので、曲の合間にトークなどはもちろん無い。続けざまに早くも最後となる曲目は同じくエイジアの「The Heat Goes On 」。先のバラードとは打って変わり、重厚なギターとベースで押していくアップテンポのナンバーだ。
 ギター、ベース、二台のシンセサイザーがフルに音を厚く重ねる楽曲は、私のドラムプレイの稚拙さを覆い隠してくれるようで、もう勢いに任せていくのみという感じで没頭させてくれた。遊び感覚でやろうとの声掛けで集まったとはいえ、私と他のメンバーとの音楽への傾注度合いの違いは雲泥の差であり、仲良くやりたいというだけでは続かないということが口に出さずとも皆同じ思いになっていたと思う。
 恐らくこのメンバーでの次はもう無い。2曲目も誘ってくれたベースの彼と目を合わせながらリズムを外さないように必死にドラムを叩いていく。それでも、転調のタイミングなどで少し外れたタイミングで叩いてしまう。ベースの彼はそんな私に少し苦笑いするだけで最後までやりきろうと目配せしてくれる。本当に迷惑を掛けるばかりで足を引っ張るばかりの自分を恥じ入った。そんな思いと吹き出す汗がピークに達して最後の曲が終わった。

(「新潟独り暮らし時代23「下手の横好きでバンド活動(その5)」」終わり。仕事遍歴を少し離れた独り暮らし時代の思い出話「新潟独り暮らし時代24「体育会系やれば良かったなあ」」がまだまだ続きます。)
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