風と光の北ドイツ通信/Wind und Licht Norddeutsch Info

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FB詩集 「1981年 帰国」

2023-02-12 03:07:16 | 日記
前文に変えて

ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガーからの手紙訳:

Trans Atrantik, Sternwartstraße 1
8 München 80
Dem 4. Dezember 1981

拝啓 宮崎様、
インドを彷徨った後、願わくば無事日本にご帰国のことと思います。あなたの卒論に私はとても驚嘆しています。ご承知のように文学研究がもたらす仕事はほとんどすべて退屈なものばかりです。大学で本当に文学に興味を持ち、あまつさえそれが読める人は大変珍しいものです。
あなたの方法は大変印象深いもので、その理由はまず第一に読むと言う(そしてそれは書くと言うことにも該当)経験の認識に本当に光を当てるものだからです。このような試みを私は未だどこでも見たことがありません。研究の結果が私にはとても気に入りました。と言うのは私がいつも推量し、期待していたこと、即ち様々な人が一つの同じテキストを基に様々なことを行い、個々の能力と欲求によって第三のものを生産することが出来ると言うことで、それは、唯一“正しい作品の解釈”などあり得ないことを意味すると言うことだと思われます。それが重要なのは文学の自由のため、そしてそれを必要とする人の自由のためだからです。
もちろん我々二人とも、そこから何が結果するのか、知りません。貴殿は文学教授にでもなるのでしょうか。これからどんな予定なのか、お聞きできるのを楽しみにしています。
今日は一先ず感謝を込め、あなたの未来にとって幸多いことをお祈りいたします。敬具
ハンス・マグナス・エンツエンスベルガー(サイン)


“中流意識”

そうだ!
と叫んで幼児は笑顔を嚙み切った
右傾化、保守化、事勿れ主義
イタリア製のバッグに
ヤンキー気質のコピーを詰めて
日本庭園を
気取って歩く、千鳥足
にはお気づきでは
ござぁませんでござぁせんようでござぁすわよ

こうだ!
て断言などしない君たちって
とっても気持ちがよくって
どっちだっていいみたい

優しんだってネ
よく気がついて、他人の嫌がることなど
ズボンが裂けても口にしないって?
ブランド品なら別だけどさ
“ガクラン“でツッパッテる君たちって
猿芝居のサルみたいで
とってもカッコいいよ
十人十一色
服飾デザイナーの腕のみせどころだ
ダウン・ウエアってのそれ?

人工芝の張られた
君の中流意識とやらは
どこのメーカー品?

なによりも勤勉で
親切が集団登校している
日本の土手に
早朝
朝陽に映える銀の雫はまだ戻ってこない


”傘を差して生命を育む地球よ”

だから
今日も一日中時間を食って寝ていた
週末がセリにかけられ
核弾道に乗って未来より飛んでくる

安すぎるよ
たかが十数か国の豊満国の為に
何億年もの生存権を手放すなんて

地球よ
お前は青く、みずみずしい
宇宙に唯だ一つ
傘をさして生命を育む
私は見たことがないが
水もしたたる美しさだそうな

そんなお前を
一握りの怪物ペニスが
腐ったルーブル(ドル:1981年現在)を射精し凌辱している
させている僕たちを
お前は
許してはならない

ラジオからは楽しそうな会話が
髪の長さについて
女と男の間を行ったり来たりしながら
続いて聞こえる
だから
今日も一日中時を食って寝ていた

週末確かに近づく終末の衣づれの音に
耳に蓋して
今日も
一日が終わる


„そんなに急いで何処行くの?“

そんなに急いで何処行くの?
時間を追い越し
広野を囲繞して
人は愛を放棄した

筑波に木霊した遠い日の相聞歌が
プラスティックの金庫に閉じ込められ
蒼白に呻く
感性の剝製が
いにしえ“モノ”に心を震わせた
“物”に
他者を見るような眼で見られる

“人間の皮を被った狼に”
にはまだ温もりがあった
この“物”には
魂の感性も宿らない

そんなに急いで何処行くの?
長針が短針を追い掛け
時間が分を弾圧し
秒の出番はせいぜい競技場ぐらい

一瞬風鈴を撫でたそよ風に
秋の到来を読み取った日々は
教室の古典の時間に
押し込められて
窒息寸前だ

毎日六時起床
夜八時を回らないうちは工場を出ない
分を弁えない家を建て
子供達を有名大学に入れて
何故の為にと
自問する前に
風呂に入って満足する
“オーイ、ズボン下!”
“ハーイ”


“ハードロックを聴け!”

疾走するロックのリズムを視線で追って
真赤な世界に突入した
抑え込まれた夢と希望が
一瞬
大音響を発して炸裂した
ド、ド、ド、ド、ド、グヮアーン!

旋盤に挟まれて
鑢を掛けられた私たちの心は
今一度
突然 掘りたての
四角張った荒々しい硬質の原石
に変貌する
ドドッドドッドドッドードッ!

事務机の上にけち臭い広野を描いて
昼下がりの夢を
駆け巡らせるだけのお前は
ただの机上のプレーヤー

先輩の助言を鵜呑みに
また
課長に背を向けアカンベェして
ジョイント吸いにトイレに立つ
“出世しなきゃ、どうせ一生
ここでシケコムんなら“

荒野の四つ辻
大きな樫の樹の下
緑の髪をなびかせながら
東に向かう少女に出遭って
下を向くお前は
一度ロックを聴く必要がある
ハードなやつを
グヮーン、グヮーン、グヮーン!


“山門のタイムカード”

忘れたのだろうか?
喪ってしまったのかも知れない
じゃ、もともとそんなものはなかったのだ
幻想、危険だよそんなもの
夢なんて見るもので信じるものじゃない

夢を食って生きている漠は
結局夢を毀しているに過ぎない
きりがないよ
次々と新しい夢を捻り出して
最後にネタ切れ
草臥れ損、無駄なことはよして
現実
を見なさい

早朝六時半起床
七時十五分発の電車に飛び乗れば
夢が乖離する
朝陽が
郊外の冬枯れの畑を照らして
労働がいかに無駄なことであるかを
教えている

ここにももうすぐ分譲地が
ここにももうすぐ三十年ローンが
ここにももうすぐ家庭の確執が
そして
もうどこにも
朝靄をついて托鉢に出る雲水はいない

タイムカードが
山門の入り口に取り付けられて以来
仏が証券取引所の掲示板に
日毎
新値をつけて売りに出される
今が買い得分譲地
今が売り時お前の思い出


“高貴な方々に寄与する”

事情と言うものがあるんだって
事実とは違うんだよ
事実を裁く際の
最良の弁護を務めるのです
もちろん
弁護士にはそれぞれ
専門分野がありますよね
事情が得意の分野は
言うまでもなく汚職でしょ

“公衆の面前で事実を語ることが出来ない
事情はお解りでしょ・・・“
私達は日本の発展にとって
必要不可欠の人なんです

豪華な私邸を建てる為に
妖艶な美女を囲うために
ウソをついてもいいんです
偽証罪などという下等な罪は
いらぬ事実を穿り出しては
公衆の面前で広言している
下等な奴らに適用すればいいのです

“国家の安全を脅かしていることは明らかであり
情状酌量の余地はない”とは
誰のことなのでしょう?

いらぬ詮索をする前に
今年も寒椿が美しい
池の鯉は冬動きが鈍くなる
春には
彼岸桜が薄いピンク色の花をつけ
日本の発展に
寄与する高貴な方々の
心をなごませるのだ
そうです


“アワ食う前に警戒せよ、君”

昨日未明
ホテル・ニュージャパンの九階999号室より失火
火は瞬く間に燃え広がり
九条が燃え堕ちた

思惑、確執、楽観、達観
夢と絶望を一瞬のうちに灰と化して
愛と憎悪を永遠の調和に消華した
合掌
犠牲者のご冥福を心よりお祈りし
翌日の東京証券所の盛況ぶりを
思う
このダウ平均9000円突破の陰で
いったい
何人の人々が闇から闇に消えて行ったのか

労災は
会社ぐるみの慰安旅行で見た
朝陽に映える
富士の陰で
日毎
永遠に凍結した
すそ野の原始林奥深く埋葬される

だから
スカッとサワヤカッコッカッコォオォーラ!

君は昨日コーヒーばかりだった
だから今日は
スカッとサワヤカッツ、コッカ、コラーッ!

誰かがあなたは砂糖漬けのあわだと言っていた
人間の生もまたあわだと
むかし、川の流れのうたかたにたとえて
鴨長明が詠んだ

だから
労災もホテルの惨事も飛行機事故だってあわと同じさ
そんな事件でアワ食ってウロタエる奴は
警戒が足りない
そんなことだと
そら、その先に待っている大波にのみこまれるぜ
だから警戒を怠るな
九条がジ(ン)ミン球場で窮状に陥いっているんだ


“究極のオディプス“

外国なんかはどうですか?
日本の島に行くときは
ギリシャ経由、島国同士で
バカンス?

いや、やはり
仕事と遊びが半々かな
幸せですね
趣味と仕事が一致したりして
そうだね
幸せを自覚すればもっとよくなりますよ

それではここで
セックス・ピストルズのヒット・ナンバーから
“I Wanna Be Me”あるいは“Anarchy In The UK”
とは十字路であったユニオンジャックのリクエスト
同じ島国だからネ
忘れられちゃこまる

深夜放送が
机代わりの段ボール箱の上で
見えすいた
母国の国際化を
謳歌している

帰国して職を持たず
隙間風と同居しながら
独り
悪意と憎悪を蓄電している俺は
いつか
“私の最も楽しかった日々”などと
青臭いことを言わぬよう
心がけねばならぬ
孤独こそ俺の力と
自覚せよ

外国帰りの
ベストドレッサーが
どうしても大きすぎるパイプに火を点け
吸い口に垂れ流れた涎を呑み込んで
誰にも気づかれぬよう
腹の中に唾を吐く

欺瞞と媚びで世を渡る
言の葉の詐欺師たち
奴らに“身震い”され、震え上がられてこそ
私の任務は完遂されるのだ

そう、私は冷血漢
偽悪の牙を研いで
ふやけた父国の偽善に
何とかして下さいと
シニカルな止めの一噛みを加え
父親殺し
奈落の底に突き堕として
金を神に祭り上げた祖国を
冷笑する

私は
究極のオディプス
つらいすね、無性に
おかあさん
だから
涙あふれる冷血を武器に
闘う他ないんです


“聞いたふうな口を利くんじゃねぇ”

尤もらしいことを言って
お前の安っぽい悪意など
電波に乗って
口座の預金額を増やすぐらいが関の山だ

死んで
汚名を残しても
やっぱり
今夜抱く女の肌の方が
お前には大事なのだ

尤もらしいことを言って
日本の文化的発展に貢献したいんだと
俳句の切り売りで
日本の文化的発展が実現するなら
俺は
“屁理屈こいて寝とくわいと怒髪立つ”
川柳にもならず

お前らが占拠している
日本の文化とやらに
パーシング20を撃ち込み
下品で猥雑
ワビも入れず
サビついた日本の精神を
世界博覧会に出品して
私は
日本人ではないと言おう

歓ぶのは早い
ニヤけた顔などするんじゃない
愛国者を騙って気取った
テメエの懐をふくらましているだけの
テメエらには
この程度のメッセージが
お似合い
お誂え向きなんだよ


“禁じられた世界への招待状”

様々な青が
幾何学的な模様を
すばらしい速度で描き出しながら
音が疾走する
悪魔の使者にも似た
クールな低音が
私の飛翔を先導する

高く遠く
私は
あふれる色彩の
幾何学的な音の世界を
覚悟を決めて
疾駆する

ボブ・マーリーの世界は
赤、ダイダイ、黄色が大小様々な条となって
縦横に飛び交う
色と音の宮殿だった
その中心に
ボブは
俺たちはクラウン
“Get Up, Stand Up“
歌え
踊れ
と僕の躊躇を見透かしたように
アジる

それは
呪文にも似た
禁じられた世界への
招待状だった
私は躊躇を噛み切って
その招待に応じた


“子供よ 反乱せよ”

確かに
家庭というやつには
いつも手違いというものがつきもので
尊属殺人、近親相姦
愛の出番など
一瞬の場違いにすぎない

だから
人々は妻問を放棄し
男尊を実現して
生産に余念がない
せめてモノでもつくらなきゃ
女陰を封じて
男根に時間制を導入した
意味がない

子供よ
お前が母の内なる宮殿で
宇宙の平和をむさぼっている時
父は
硬質の感性に
さらに非鉄合金の甲冑を
幾重にもまとって
お前の
覚醒を待っているのだ

“そんなことで世の中に出て
勝ち残れるか“
世の中とおなかが
接するところ
そこに
父は今なお君臨し
その孤独に
ひそかな涙を落とす

反乱せよ
子供よ
そして母を解放し
父を再び
宇宙に連れ戻せ


“ちょっと遊んでみようよ”

ちょっと遊んでみようよ
社会的存在として
穴ぐらの中にロウソクを立て
かき集めた渇いたコケのベッドに
横臥して
世界の終末とまだ見ぬ三千王国を
夢見るだけが
カッコいいってもんじゃない

鉢巻き巻いた団体交渉が
オレンジ色の決意を
君の胸に縫い込んで
人影のない
午後の影に凍てついた
キリコのロボット工場を
合唱しながら
青く、硬く、深く
通り過ぎてゆく

昨日ブランコに乗って
喜と怒、哀と楽を行ったり来たりしたことは
やっぱり幼かった
見えてなった
この完璧に閉じ込められた
漂白された感性が

だから
ちょっと遊んでみようよ
思いっきりディレタッントに
力の限りスノッブ的に
命の限りシニカルに
お前の
その安っぽいニヒリズムとやらで
ねぇ


”黄金のダイナマイト“

危険なやつを
なによりも激しく
きわどい
お前のヤニ下がった安全感覚
自己保存の定期便を
あざやかに
爆破して
透きとおるような黄金の華を
咲かせる
そんな
生産的なダイナマイト

昨日訪ねた友が
今日自殺して
二歳に満たないに童女と
生命保険の計算に余念のない
美顔が自慢の
妻を残した

お前が通夜の晩
独りになった友の妻を
心より
嬲り悦ばしながら(実に強姦して)迎えた朝陽は
黄色く膿んで
世相を鮮やかに照らし出していた

行くんだ
あのどす黒く汚染された
豊かさの向こうに
庭付き一戸建ての建売住宅を越え
とにかく忙しさが自慢の事務所を渡り
黄金のダイナマイトを抱えて
地獄の門をくぐった
友のもとへ

寝間着姿で迎えた友は
お前の善意のの悪行をリストアップし
これじゃ地獄には受け入れられないと
不合格
助けて下さいと哀願する
お前の背のダイナマイトの導火線に
煙草の火で点火
線香花火の火花を美しいと思う

一服して
ふーと白煙を吹きかけ
友は
世の残酷さを知り
もう一度出直して来いと
失意のお前を
炸裂するダイナマイトを背負って
元の地上に追い返すんだ


“君に言いたいことがある”

どうしても
君に会って言いたいことがあるので
ユーラシアを超えてやって来た

途中
喧騒と塵埃
組織されたカオスと
沸騰する人種の坩堝
ガンジスの対岸から
延々と南に続くデカンに立ち寄り
北に振り向いて
永遠に純白の衣をまとった
まことに浄化された
神々の山を仰ぐ

途中
紆余曲折
最後の
曖昧模糊

それでも大きく翔んで
辿り着いた所が出発点
大阪国際空港で
空港騒音訴訟のことも忘れ
どうしても
君に会って言いたいことがるので

税関をほどほどの微笑で切り抜け
どことなく
小さく、狭く、せせこましい
清潔好きの君に会って
ぼくは
とにかく
言わなければならないことがある


“遅すぎた先進国”

そら
玄関を出て右に曲がると
乾ききった太平洋が見えるだろ
あの向こうに
明日の壊滅的な出会いを準備している
遅すぎた先進国があるんだ
遊牧する伝統に
コンクリートのクサビを打ち込んで
緑したたる
早朝の大草原を鉄格子で囲んだ
預言者が
プログラマーとして
一世一代の大活躍を
夢見る国

だから屋根に上って
天上を
まっすぐ、遠く、深くみつめていると
紫銀色の泪がこぼれて
泪がこぼれて
泪が
つきる

そうしたら
また玄関を出て左に曲がる
出会いがしらの
大砂漠に
百種百色
しゃくやくの花を咲かせようと
銀座四丁目の角に立って
遠く
タイムススキェアー、赤の広場
ピカデリー・サーカス、天安門広場
トレビの泉で水くむ君に
ぼくは叫ぶ
何度でも


”国のない祖国“

帰って来て
独りであることの快適さに感謝する前に
僕は
重質の鈍痛を肩に縫い込んで
我が祖国日本を
斜めに視る

貧しい豊かさが
どれもこれもヤンキー仕立ての
非歴史的
ファッションに包まれた
大脳皮質を三枚におろし
唐揚げにして
子供を
スーパーマーケットの大バーゲンに出品する
30年後の引っ越し目指し
30年ローンを
せっせと払っている

国を売るとはこういうことなのかと
売国奴と罵られながら
人の消えた
真昼の公園
地獄に堕ちる滑り台に上って
独り
憤怒の咳を嚙みつぶす

焦るな
神経質な冬枯れの
調教された公園の木よ
私は
お前達と共に
国のない祖国
愛を質入れした恋人達
着地できない永遠に飛翔する燕の
絵画的な
破壊作業に着手しよう


“思い込みが足りない”

故郷とは
あってないものだ

どこかに行きたい
そんなことを書かなければならない
この貧しさを
自覚せよ

僕は一体何をするのだろう
側頭部を締め付ける
鈍い頭痛
方針もあってないようなもの
日本の革命について夢見る時もあるが
正直言って
誰のためにと問われたら
答える術もない
せいぜい
自分の為に
ふざけんじゃねぇ、と君は言うか

それがどんなに憶病な理由であるかは
理論化の過程で
職業革命家と日和見の格子模様が
なによりも
確かに物語っている
訥弁ではないが
句読点を打ち忘れることがしばしばで
実に
欺瞞に思える

それでも
この考えをゴミ箱に捨て
明日から
托鉢に出ることも出来ない
決意が足りないのだ
思い込みが
僕は


“言葉を頂上に運ぶ”

およそ
及びもつかないことに
縄張りの元締めを
親から解き放ってやることがある
彼の元締めとしての幻想は
自由の裏返しにされた
救い難い根強さに似て
人を
心より感心させ
僕に出直しを迫る

なるほど
これはそういう意味で
それはああではないのだ
言葉のとてつもない大要塞を建て
余所者は誰も入城させず
日夜
その補強に余念のない

彼の仕事を
シジュホスと呼んでも
彼が
言葉を頂上に運ぶ仕事を
やめることはない

K大学B学部D語D文学科

近づくな
他者は
皮肉と犬儒が
仁王立ちして山門の両翼を固め
お前の言葉に
風穴あける

「支配的な言葉は常に支配者の言葉である」(マルクス)
もっとも誤字脱字は話にならんが
重箱の隅をほじくり
頂上で言葉を磨く作業は続ける
そこに世界の運命が懸かっているとでも言いたいように



„億年の万象を考える“

ひどい話だが
あなたの悪意は
駆けだした世紀末の勢いに
ひとたまりもなく
弾き飛ばされ
全身打撲
全治の見通しはまったくたたない

少しは
ロワールの河辺に遊ぶひなげしや
花咲く恋人たちのあやとりについて
書けと
あなたは言うが
僕は
その手に乗る程の
余裕がない

いつかまたその気になる時が来たら
諧謔に
消え入りそうな微笑を添えて
体を斜めに返す

いつか来た道
進も(帰ろ)うか
いつか行く道
戻ろうか

たかが
百年の恋に翻弄され
千年の休息を要する
億年の万象のことを
僕は
どうしても独りで考えてみる


“ペンを持って探検に出る”

机がわりの段ボール箱が
書生気質の貧しさを
一杯になった灰皿の中で
教示する

固いな
もう少し大福もちを食べなきゃ
緑の風に
春を感じ、胸いっぱいに花を咲かせた
街角の少女に
ウィンクされることもない

俺はっ!
と力んで
体の芯に鉄棒を嵌めても
寂しさは
やっぱり寒いだろ

南下して
南風を受け
軟派する
ぼくの心は
難破した

そんなことを
段ボール箱の机一杯に広げ
腕を組んで
しばし
黙視する

その風景が
昼なお暗い日常性の密林であることを
心の中に刻印して
僕は
ペンを持って探検に出発するのだ


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