風と光の北ドイツ通信/Wind und Licht Norddeutsch Info

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FB 詩集 「西方の国へ I」

2023-12-30 00:14:34 | 日記
東 洋FB詩集 「西方の国へ」

この一年後に私は25という数字に唆されて、シベリアを越えて西の国に向かった。仕事が楽しくなった。日常生活の喜怒哀楽も解った。そして、10年先が見え始めた。どちらの“認識”にも根拠はない。ただ若い感性だけがその正当性を主張していた。それでいいのだ。動くということはいつでも見る前に跳ぶことだ。頼りはそれまでに鍛えた自分だけ。後は小心であれ、細心の注意を払い次の一歩を出せ。命綱のない綱渡り、一歩間違えば千尋の谷に堕ちる。そう覚悟して私は一年後の旅立ちの準備を始めた。


“少年たちは西方の国を目指す”

きっと噓なのでしょう
明日なんてないのは
ぼくが弱いだけなのです
約束してくれない明日には
きっと悪意などないのでしょう
ぼくが臆病なだけなのです

振り返らない少年たちは
断固とした足取りで
遠い西方の国に
ぼくを置き去りにして去ってゆきます

快活で放恣な少女たちは
何をも恐れることなく
もはや野辺の花神に別れを告げ
ぼくの傍を笑いながら過ぎてゆきます

目指さない
歩かない
決起することもやめよ

峠はすでに黄昏の夏
早すぎた生の日々が
ぼくだけを置き去りにして
ヒグラシと伴に去ってゆきます

“闇に逆激する”


確かに底なしの闇はあって
瞬時も僕から去りはしない
べたべたとへばり付く闇
だが
恐れることだけはすまいと決意して
僕は闇に逆激する

中でも人の猜疑は
闇より執拗に
愛よりも不確かに存在して
ならば尻を捲くって
信じまい、拒否しようと思う

色づき始めた忘却の木の葉が
何も知らずに散りゆくように
人が死ぬことはできない
それだけが残された誠意
僕は識り、識ろうとしたのだから

復讐を誓って復讐されている
お笑い草は承知で
闇の亀裂に閉じ込められて
僕はそれでも必ず革命を組織する

“長居が過ぎたエアーコンディション”

弛緩しきった明日の労働には
もはや未練はないのだ
行きつけの飯屋で
タマゴドンブリは食べ飽きた

あなたの臭いだけが
いまは僕をせきたてる

きっと長居が過ぎたのでしょう
なにしろエアーコンディションが快適で
ぼくは立ち去り難かった

夜空の星を三つ、五つと数えながら
露の匂いに夏草を想ったのは
もう遠い過去なのでしょうか

怖くはないのに
何を恐れているのだ
楽しくはないのに
何を笑っているのだ

<月給取り>には<月給取り>の
論理がある
悲哀がある

だが、確実にあるのは
日々に突き出てくる腹と
脂ぎった顔と
<お金>への執着
自由であるということは
そういうことなのだ

そう
そして他は一切
ゆるされないのだ

“街の迷路小路”

恐怖してはならない
昼下がりの群衆に孤独を視てはならない
ただ
自己の感性と
未経験な時の希望を想え

饒舌を厭うのは止めよう
語り続けるのだ
孤黙して守りうるものはない
快活に
そしておどけろ

代償の約束されぬ行為に
約束されぬ代償の結末を見定めよ

街の迷路小路に
通勤時の冒険を求めることこそ
真に自由の問題だ

出発についてはそこから始まるとしか言えない

何よりも赤裸さまに
黄昏の空を想起せよ

還らぬ旅行きなど
本当はどこにもない

恐怖してはならない

何ものをも恐れてはならない

“君は駆る”

恐ろしく饒舌に
身を窶して君は駆る

二人の女の前で
君は鮮やかに身を翻した

見逃さなかった女達より
一瞬早く君の眼は女を射った

ちぢみあがった女が四角になった
君は女に優しく親切だというのに

それでも来ないというのであれば
女はバカだと君はいう

時には昼食時の少年のように
恙ない騒擾に身を任せ

君は駆る
なによりもよく君は駆る

“吠えよ”

詩われなかった青春にも
確かに夏の日の残像は鮮やかで

それだけに口惜しさは
いつものようにつのるばかり

叫ぶというよりは吠えてこそ
生の燃焼は完結する

ウソだ嘘だと吠え続け
それでもやはり信じたかった

やがて訪れる時の流れは
きっと僕を連れ去る一迅の風

疲れもしないのに諦めて
いまはもういくところがない

闘いを放棄する前に倒れていたら
どんなに良かったかと僕は思う

“コオロギが啼きます”‐ソネット風に1

コオロギが啼くのです
ぼくはいつまでも啼きたければ啼けと思います

うるさくはないけれど
裏の小庭で頻りにルッルッルッルッ・・・

合唱もあります
デロデロデロデロキルキルキルキル

ああ風が吹きました
優しく僕の肌を包むように通り抜けます

煙草の煙が目に沁みて
ぼくは今日の労働を思い出します

ああ風が吹くのです
コオロギが啼くのです

うるさくはないけれど
僕は世の中のことを思います

“出遭いがしらの幸せ”‐ソネット風に2

出遭いがしらに
僕たち二人は<幸せです>と挨拶を交わすのだ

初めての語らいの時には
<さようなら>を言っておこう

君の瞳が信じられるように
<明日もまた>とは言わない

しなやかに雲が流れて
<悲しくはない>と二人は笑いあった

君の手を取り
<荒れている>と僕は寂しく想う

それでも君は快活に
<あなただって>と僕たちは共存する

出偶いがしらに
僕たち二人は<幸せです>と挨拶を交わした

”思いがけない和解”‐ソネット風に3

思いがけない和解には
多くの忍耐がある

人に教えようとは思わないが
人に識って欲しいことがある

夏草の香りに心をときめかし
僕は寂しく耐えていたのだ

そして
色づき始めた木の葉と伴に和解はやって来た

心を躍らせようとは思わないのに
心はかってに踊りだす

人を信じることは断じて正当だと
僕は宣言する

誰にも負けないで
誰にも勝とうとせず生きよう

“不退転に前進せよ”‐ソネット風に4

一つの予期した敗北が
ついに訪れることはなかった

秋だけが
暗闇を音もなく降りてくる雨とともに訪れる

今年の夏は本当に暑かった
僕はついに一通の暑中見舞いも書けなかった

あまりにも長かった暗闇の予感が
僕を無為のツルで捉えて離さなかったのだ

それでもいまも
あの安息のセプテンバーではない

休むまい進め
不退転に前進せよ、前進せよ

闘争者であることを
生活の九月の中に銘記せよ

“ガラスの破片”‐ソネット風に5

再び私はノミを研ぐ
鋭く硬化した刃先に魂をこめ

そして私はカミソリを手にした
しなやかに伸びた細い身をすばやくあなたの喉元に当てる

重々しいオノは
もはや森の中のメルヘンではない

執拗なノコギリは
あなたの頬に幾条もの血線をひく

殺しはしないのだ
ノミもカミソリもノコギリも

ただ執拗に
あなたから血を奪う

ガラスの破片だけは
わたしのためにとっておく

“此の頃昔は・・・” ‐ソネット風に6

此の頃とってもよく眠れます
僕には見る夢などないのですが

此の頃とっても良く話します
僕には楽しい希望などないのですが

此の頃とってもよく笑います
僕には話す人などいないのですが

此の頃とってもよく食べます
僕には鍛えなければならない肉体などないのですが

昔はよく涙を流しました
君には愛が足りないと言って

昔はよく怒りました
歓ぶことを拒否する現状の悲惨を視よと

今日もよく働きました
明日はテニスでもして、その後映画を観ようと思っています

“アレキサンダーよ、僕は二十四歳になった”‐ソネット風に7

のめり込んでゆく日常の回路に
不音の無機質世界を確かめた

もう走らない急ぐのはやめだ
確かな足音を聞きながら僕は歩こうと思う

アレキサンダーの世界制覇は三十歳だ
僕は二十四歳になった

それでも青年の憂鬱をかなぐり捨てて
朝陽を迎えたいとはまだ思わない

思わずにどこまで生きられるのか
とにかくアレキサンダーは三十歳で世界制覇

僕は二十四歳だ
孤独で寂しくそれでも誠実に行きたい

小っぽけでケチくさく確かに不安な二十四歳
アレキサンダーは三十二歳で死んだ

“つまらない盛り場の喧噪”‐ソネット風に8

ついに時は訪れなかった
僕の日常は既に老化したのか

決意を胸に待った
その時はついに訪れなかったのだ

僕は狡猾にやり過ごし
安堵と焦燥のホダ火を手にした

燃えない
ただ執拗に僕は燻り続ける

今日会社で在ったことは
明日も会社に在る

それを生存の保障と言うのなら
生きることはたやすいがつまらない

つまらないと思うことを恥じ
今夜の盛り場の喧騒もつまらないと思う

”確固として歩め“‐ソネット風に9

歩き続けるほかあるまい
あの千日断食を敢行する自己暗殺僧のように

死ぬまでは浄化されない
精神の不浄を黙嘆していては何も始まらない

茫然とする他ない遥かな道程を
俯瞰したまま峠で立ちつくしてはおれぬ

底なしの暗闇を谷底に見たとて
恐れていては一歩も進めない

深夜の石油コンビナートに
華麗なイルミネーションを呪え

飾り立てた百貨店のショーウインドーに
私の<豊かさ>を対峙せよ

確固として歩め
すべてを振り払って確固として歩め

”僕の労働現場“‐ソネット風に10

ウマクやろうとしてウマクいかず
ウマクやろうとしないのにウマクいく

愛そうとして愛されず
愛さないのに愛される

走ろうとして走れず
走ろうとしなければ勝手に走り出す

思い出そうとしても思い出せず
思い出したくないのに思い出す

いいことだと思うのに悪いと言われ
悪いことだと思うのにほめられる

生きようとすれば哀しくなり
どうせ死ぬのだと思えば心が軽くなる

嬉しくないのに笑顔をつくり
悲しい時に涙も流せない僕の労働現場

“いつか<ナニ>かをやろうと思う”‐ソネット風に11

金切り声をあげて女は
何がそんなに口惜しいのか・・・

本意でない微笑を迫られ
君はうめく

安酒のいやしい臭いをまき散らし
女にからむ男ども

それはすべて君達の責任である
君達の怠惰と羞恥を識れ

それでも君はうめく
女は金切り声を上げる

安酒は卑しく臭い
口惜しさは晴れまい

私もまた
いつか<ナニ>かをやろうと思う

“手を差し伸べてはならない”‐ソネット風に12

男二人
互いに信じながら手を取らず歩く

君の結末は僕が見定める
だから僕の今を許せ

冬の正義にも似た
それは酷しい関係であった

手を差し伸べてはならない
それが男二人の関係であった

男二人
互いに視つめながら微笑まない

君は独りでゆけ
僕は僕だけで十分だ

負けても哀しくはない
勝ちたくはないのだから

“午前三時、僕の夕暮れ時”‐ソネット風に13

パンツ一枚の裸になり
ペンを持って机に向かう

頭を垂れて
耳鳴りとコオロギの啼き声を聞く

午前三時
僕の夕暮れ時だ

牛乳屋の車が
エンジンをふかし走り去る

僕もそろそろ疲れて来て
眠くはないが明日の為に寝ようと思う

時の猶予を持たない労働者
誇りを捨て逆撃を忘れたアホウ鳥

もうどうにでもなれと
そう思えない今頃の自分を哀しく思う

“迷路電鉄地獄行き”‐ソネット風に14

健康であることの悪無限に
僕は現代の喜劇を観た

よせばよい饒舌が
いつも<一言>多かったと悔やませている

白鯨たちの逢瀬には
いつも<気まぐれ>がつきまとっていた

滞りがちの性交も
だから<疲れ>だけではないのだ

烈しく疾駆する苦悩嵐に
<連行>されることを希望する僕

午前四時発
迷路電鉄地獄行きに飛び乗って

ああもうこれですっかり終わったと
僕は酷しく恐怖する

“私は闘いを忘れた闘犬”‐ソネット風に 終わり

作為に満ちて
私の日常は苛烈である

他者に道を譲って
私は闘わず延命する

かつて存在した冬の過酷が
私を激しく討ち返す

よろめきながら
右に左に

それでも私は闘わない
頑固な闘犬のようなものだ

ねじれた悪霊が
私の中にキリキリと舞い込む

私は無防備に
だから統べては私の責任ではない

“鴨川よ、二人は独りである”

京阪三条行き特急が
鴨川の秋の川面に
一しきり騒々しい影を流す

小さな公園の老人のベンチに
私は子供達の嬌声を聴く

冬枯れの今日の鴨川は
頻りに老人に話しかけ
私は平和で独りだ

私と老人

二人は
独りである

“僕は快活に元気である”

よもや
欺してなどいないだろう
僕の饒舌が
冬の過酷に
期待の夢を写し出したとしたら
それは誤解である

君は君
僕は僕

僕は快活に元気である
花のように笑い
砂漠の真昼を
疾駆するように
君の現状を吹き抜けた

戸惑うなとは言わないが
独りであることに
恐怖してはならない

君は君
僕は僕

全ての社会的諸関係に
独りであることを
認知せよ、君!

”単純明快に跳べ!”

優しい微笑みには
撃ち忘れた弁明が秘み
口惜しさは晴れまい

思い半端に
破壊され
何を欲するのか

発条仕掛けの
巻き忘れた
玩具よ

跳べ
公式論者と罵られて
単純明快に跳べ

事態を複雑にして
笑い転げているのは
現状の死刑執行人どもぞ

“現状の狂喜を映す淀川よ”

何よりも現状の狂気を映し
秋の夜を流れる淀川

赤く青く
ネオンは灰色の夜中に

僕が疲れていることは
淀川大橋で確認した

昼下がりの淀川に絶望し
真夜中の淀川に星の堕落を観る

仰げない僕よりも
しかし淀川は絶望しているのか

魚たちよ躍り出でて
この現状を呪い砕け
淀川よ秘めた怒りを
何もしない僕にこめて流せ


“そして僕はいつも・・・”

そしてどうでもいいことは
僕がいつも笑っていることだ

そしておもしろいことは
僕がいつも嘲っていることだ

そしてかなしいことは
僕がいつも笑っているということだ

そしておそろしいことは
僕がいつも嘲っていることだ

そしていまいましいことは
僕がいつも笑っているということだ

そしてこのましいことは
僕がいつも嘲っていることだ

そして楽しいことは
そんなものは僕にはないということだ

“秋よ、僕を襲え!”

よそゆきの言葉に身をやつし
会社に通う僕を
かつての秋が
ことしは襲う

どうしても認めなかった敗惨も
偽りの自己弁明も
君の前では隠し切れない

そうなのだ
かつて確かに秋は存在した

夏の昼下がり
弛緩しきった精神の憂鬱も
秋の訪れとともに
酷しく緊張した

忘れられないことを識って
君を無視しようとした僕を
それでも君は優しくつつむ

何故君は微笑し
君はさりげない

僕だけが
君の敵とみなさなければならない
僕の無念を
秋よ
君は識らずに僕を襲え!

東(ひがし)洋(ひろし)FB詩集「西方の国へ」
25歳で渡独するまでに一年を切った。勤めながら毎日のように深夜思い付きを書きなぐっていた。理由は解らない。多分そんなものはなかったのだろう。未熟だが修正せずに青春の残像をそのままここに再録する。ご笑覧いただければ幸いです。

“孤立して真の幸福を”

ときには誤解もあって
いつも幸福ばかりではない

暗闇を主催する
現状の権力志向者供

奴等には輝く朝陽を
雲海の彼方から照射せよ

鋭ぎすまされた大気は
決して奴等を許すまい

不遇であることは
確かな希望の必要条件だ

現状に狂喜する
奴らのバカ騒ぎにだけは加わるまい

孤立して恵まれないことの
真の幸福をあなたに識って欲しい

“愛か・・・、しょせん”

愛か・・・
しょせん燃え尽きるものよ

愛か・・・
しょせん私的所有物よ

愛か・・・
しょせん涙など嘘よ

愛か・・・
しょせん嘲笑って葬るものよ

愛か・・・
しょせんキリストの専売品よ

愛か・・・
しょせん結婚詐欺の目玉商品よ

愛か・・・
しょせん黄昏の老いぼれどもの思い出話よ

“そしてGNPは世界第二位に”

そしてGNP は世界第二位となり
なによりも人々は狂喜した

腐乱してゆく現実地獄を
君は予感しえなかったというのか

あの悠久の干乾びた大地
インド大陸に
君達の夢想はついに及ばなかった

そしてGNPは
自由世界第二位となり
ないよりも人々は狂喜した

線香花火よりはるかに華々しく
君の没落は決定しているというの

なぜか
深海の奥深く
あの永続の化石魚シーラーカンスには
注視することを忘れていた

そしてGNPは
自由世界第二位となり
なによりも人々は狂喜した

落ちる
腐食する
決して蘇生などあり得ない

“腐乱を決意した僕を目指す”

うしろめたさを置き去りにして
秋は僕の心像を吹き抜ける

あの快適な忘却
不愉快な肉体の健康

腐乱していくことを決意して
僕は日常に回帰した

なのに
まろやかなこの安息は・・・

主体の欠落した無自覚な労働者と
僕は決して自覚などしない

君達には君達の道行きがある
僕は僕を目指す

そう言い切れない処に
僕の確かな生はある

<行進>

やがて人々の行進は滞まり
ワイワイガヤガヤ
うるさいことだ
やがて人々の行進は始まり
ワイワイガヤガヤ
うるさいことだ
僕もやがて行進に加わり
ワイワイガヤガヤ
うるさいことだ

XXX 

酒と煙草と
それにやっぱり赤いバラ
誰でもそんな時が
一度は訪れることを望んでいる

自堕落な一生には恐れても
時には女に声をかけたい

昔は良かった
吉原女郎屋
今もなかなか
トルコでアワオドリ

不倫の恋に慄きながら
それでも窓に忍び寄り
小さな石を投げ込んだ

シェークスピアはハムレット
ロマンスならチャタレイ婦人
庶民も負けじと隣の年増後家

金貸しついでに
義理も貸し
金を返せと
娘を妾

昔も今もをかわらずに
僕らはいつも
女が欲しい



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