うららかな春の陽ざしなので
近くのダイエーの中に移転したサイゼリヤに
初めて行ってみた。
父がスパゲッティを食べたいと言ったからだ。
どのくらいぶりのダイエーだろう。
父は歩けなくなってから行ってないので
3〜4年ぶりかなぁ。
途中でご近所の娘たちのピアノの先生に出くわし
これまたお久し振りの、世間話をする。
お天気だからか、気分も爽快だ。
私もサイゼリヤの中に入るのは初めてで
車イスの席がわからなかったので、聞いたら
「1番奥の席でもよろしいですか」と、案内された。
隣の席には、寝ている年配のご夫婦。
「あちゃ〜皆が嫌がる席に追いやられたか…」
と思ったが、そんなことはもう気にもならないので
普通に500円ランチをオーダーする。
スープとドリンクバーはめちゃ遠くて、何度も往復し
持参した使い捨てエプロンを父に装着し、テーブルセッティングする。
上手く自分で食べることができないから、補助が必要だ。
父は初志貫徹し、スパゲッティを注文したので
食べにくいことこの上ない。
それでも何とかフォークを使い(補助あり)、食べていたら
隣から「凄い食欲ねぇ〜」と、声が。
隣の女性が私たちが隣に座ってからこちらを気にして
ずっと様子をうかがっていたのは感じていたが
あえて相手をしないように無視をしていた。
しかし、この発言は我慢ならない。
「こう見えても頭はしっかりしてるんですよ」と、つい余計な応戦をする。
(あんたらだって、いつこうなるかわからないんだから、可哀想と言ってると痛い目に合うよ)
と、伝わるといい。
車イスだから、動けないから、って
最初から色眼鏡で見られるのは差別的だ。
まあ私も、ご夫婦が生活困窮者だなと最初から色眼鏡だったけど。
「急にどうしたの?凄い食欲あるのねぇ〜」
「見ていて感動して涙がでちゃった」
「なんだか元気が出てくるわ」
もう、ここまで言われるとなす術もない。
「普通ですよ、いつもこうです」と、数回言った。
父の我慢も限界に達しそうだ。
はっきり言ってやろうかなと思ったが、エネルギーの無駄。
そのうち、話は身の上話になり
昭和19年生まれで広島女学院出身で原爆にあい
英語と音楽を専攻されているとわかった。
ちょっと、原爆って…歳の計算がおかしい。
何度も同じ話を繰り返され、ろくな会話にならない。
話半分で流していたら、急にイタリア語で歌われて
そこは、ああ本当に歌の勉強をされた方なんだとわかった。
反対にこちらが、がぜん女性が心配になる。
全く自覚されていないんだろうなぁ。
ケアしてくれるご家族はいらっしゃらないのか。
一緒にいた方はご主人ではなく、彼氏だそうで
東京音大を出たかなり歳下の声楽家らしい。
ホントかどうかわからないけど、せめて優しく見守ってあげてほしい。
珈琲まで飲んで、私の時間が無くなってきたので
そそくさとその場を立ち去ってきたけど
別れ際に、「いつもここにいるからまた来てね」と
父に握手を求めてきた。
きっと寂しいんだろうなぁ。
父も途中からは憤ることもなく
「施設に行くと皆あんなだよ。同じ話ばかりするのは認知症の特徴」
「きっとあの人は原爆2世なんだろうね」
「歌はホントに上手だった」
と、帰路で言っていた。
まさかサイゼリヤで
こんなに濃い体験をするとは思ってなかったが
行けばあの女性に会えると思うと
少し楽しみでもある。
月に1度くらいは行ってもいいかな。