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「なた豆」は毒か?薬か?第2の大豆か?【改訂版v2】【上】

2005-04-04 23:41:35 | Weblog
【改訂箇所】大豆サポニンの記述(1行)
===
『なた豆日記』と『なた豆入門』の共通試論(未定稿)

●日本人から見た「なた豆」の2大系統

「なた豆」の仲間は世界中に分布しています。
ナタマメ属は数十種類あるといわれています。

毒性の強い種類もあれば、薬用に利用される種類もあります。
食用、飼料、肥料などに利用される種類もあれば、
野生のまま利用されることの少ない種類もあります。

日本で、観賞用や健康食品として利用される「なた豆」は、
中国伝来のカナバリア・グラディアータという系統が主流です。
「赤なた豆」や「白なた豆」が、この仲間です。

「赤なた豆」は「なた豆」の別称として使われることもあります。
完熟した豆には、毒性があるといわれます。

「白なた豆」は、「赤なた豆」の変異種という説もあり、
毒性はなく、食べることができるといわれています。

グラディアータの系統は熱帯アジア原産といわれています。
インドや東南アジアでも利用されているようですが、
日本人にとって身近なグラディアータの主要生産国は中国です。

中国には多くの呼び名があり、日本で親しまれている呼び名は
「刀豆(Dao Dou)」(ダオドウ)です。
中国の青竜刀にサヤの形が似ているからといわれます。

日本には中国から伝来したものと思われ、
江戸時代には庶民の間でも各地で栽培が行われました。

江戸時代には呼び名も地方色豊かに様々ありましたが、
「鉈(なた)」にサヤの形が似ていることから
中国の「刀豆(ダオドウ)」という漢字を「なたまめ」と
そのまま訓読みする呼び方が文献に残っています。

清水の次郎長が「なた豆キセル」を吸っていたという
記載が残っていることなどから、「なた豆」が
江戸の庶民にとってポピュラーな存在だったといえます。
ここでいう「なた豆キセル」とは、なた豆のサヤの形に似た
キセルという意味で、なた豆で作ったキセルという意味
ではありません。

グラディアータ系統の「刀豆(ダオドウ)」は
中国南方を中心に栽培され、漢方原料以外に、
今では冷凍加工したりして世界中に輸出されています。

英語では「スウォード・ビーン(Sword Bean)」(剣の豆)と
中国名を英訳した呼び名になっています。
アメリカなどではあまり生産されていない模様で、
アメリカ人にとって「なた豆」といえば
後述する「ジャック・ビーン」(タチナタマメ)の系統を
指すと考えてよいでしょう。

グラディアータ(「赤なた豆」や「白なた豆」の仲間)の系統は
中国を中心とした東洋の系統といえるかも知れません。

現在、日本で栽培されたり、
中国から輸入して販売される「なた豆」は、
ほとんどが「赤なた豆」と「白なた豆」なので、
一般の消費者が「なた豆」という呼び名でイメージするのは、
グラディアータという系統だと覚えておけばよいでしょう。

これに対し、
アメリカ大陸(西インド諸島から中米)原産とされる
カナバリア・エンシフォーミスという種類も有名です。
日本では「たちなた豆(タチナタマメ)」と呼ばれています。

アメリカでは「ジャック・ビーン(Jack Bean)」と呼ばれ、
『ジャックと豆の木』のモデルになったともいわれます。

グラディアータ系統の「赤なた豆」に比べ、
「たちなた豆」は毒性が強いといわれます。

中国では”西洋の刀豆”という意味の中国訳である
「洋刀豆(Yang Dao Dou)」(ヤンダオドウ)という呼び名も
使われます。

アメリカでは「ジャック・ビーン」(タチナタマメ)は
飼料に利用したり、抽出成分(コンカナバリンAなど)を
薬品や実験用の試薬などに利用しているようです。

コンカナバリンAという成分は、タチナタマメから
1919年に世界で初めて精製、結晶化された赤血球凝集素です。

コンカナバリンAは1969年に悪性化細胞も凝集することが
発見されました。

このように欧米の科学的データは主としてタチナタマメから
抽出した純粋成分をもとに公開されてきましたが、
あくまで実験室レベル(試験管レベル)のデータであり、
東洋の別系統の「なた豆」が
食用後に生体内で消化吸収されて同様の働きをする
という実証的なデータではない点を認識しておきましょう。

系統も違えば、検証条件も違うということです。

アメリカの百科事典には「ジャックビーン」は
ポピュラーな豆として記載されていますが、
「スウォードビーン」は見つけにくいでしょう。

このように、
エンシフォーミス(日本名「タチナタマメ」)の系統は、
アメリカ大陸を中心とした系統といえるかも知れません。
(栽培量は少ないですが中国などでも生産はされています)

このほか、「なた豆」の仲間には
アフリカなどで食用や飼料として栽培されている系統もあり、
一口に「なた豆」といっても国や地域が異なれば
「その地域で代表的な種類」が違ってくる
ということを知っておく必要があります。

「所かわれば豆かわる」ということです。

●「なた豆」の毒性と薬効

ナタマメ属の完熟種子(サヤの中の豆)には
強い毒性を持つ種類もあり、
インド洋岸や南太平洋岸に自生する「タカナタマメ」
(ミクロカルパという系統)は食べると
激しい嘔吐、下痢、腹痛を起こし、
台湾で誤って食べた牛や馬が死んだ例もあるそうです。

世界的にみると、
「なた豆」の仲間は、毒性と薬効の二面性が応用される場合と、
毒性を極力取り除き、食用や飼料用に利用される場合に
分けられます。

食用の工夫としては、加熱・醗酵や、
部位・時期の限定(若サヤの福神漬け)などがあります。

薬効としては、漢方や世界の民間伝承例として、
主に次のような傾向があるようです。

下剤、痔ろうなど(消化器、泌尿器系)、
せき止め、去痰(たん)、しゃっくり止めなど(呼吸器系)、
口内炎、歯槽膿漏など(口腔、歯科系)、
消炎、排膿、抗腫瘍など(皮膚、鼻、内科、アレルギー系)、
その他
(注:漢方の腎強壮は、腎臓疾患治療と同義ではありません)

科学的根拠の是非はあまり定まっていない模様で、
あくまで経験則に基づく薬効が中心と思われます。
臨床への応用や実証的研究はこれからといえるでしょう。

また、もう一つはっきりしているのは
人類の長い経験から
「ある種の」完熟豆には毒性があり、
食用には注意や工夫が必要だ
ということでしょう。

「なた豆」はサヤの長さが30センチ前後にも成長し、
サヤの中から10粒前後の豆が収穫できるので、
飢饉や食料不足に悩んだ江戸時代の庶民は
「なた豆」を食用にしようと試行錯誤したようです。

「大豆(ダイズ)」が重要な栄養源であるように、
「なた豆」が食用に普及できたら画期的だったでしょう。

残念ながら江戸時代以降、
「なた豆」は「大豆」ほど食用として
普及することはありませんでした。

その理由のひとつが、
「なた豆」の毒性に起因する「扱いの難しさ」に
あったことは推測できます。

夏には一晩ごとに急速な成長を遂げる「なた豆」は、
旺盛な生命力があるので、一部の寒冷地を除き、
栽培自体は容易だったはずです。

しかし、
「赤なた豆」が江戸時代の栽培の中心だったせいか、
食用には毒性処理が面倒であること、
大豆に比べて豆腐や納豆など二次加工性能が劣り、
味も突出した特長がないなどの
理由から次第に江戸庶民は
応用範囲の狭い「なた豆」の栽培をあきらめ、
日本では戦後一部の地域を除き
「なた豆」栽培は衰えていったものと思われます。

思えば戦中の食糧難の時代でさえ、
「なた豆」は「大豆(ダイズ)」に並ぶ栄養源として
啓蒙普及が全国的に推し進められた形跡が見つかりません。


●「なた豆」の総称と別称を区別しよう!

日本では、「なた豆」という呼び名は、
「なた豆の仲間たちの総称」として使われるほか、
「赤なた豆の別称」としても使われます。
文献を読むときは、どちらを指しているか区別しましょう。

●3種類の豆を区別しよう!

世界には数多くの「なた豆の仲間たち」が分布しています。
その内、
私たちが知っておくべき代表的な「なた豆」は3種類です。
たちなた豆、赤なた豆、白なた豆です。

●たちなた豆(タチナタマメ)の扱い

「たちなた豆」(カナバリア・エンシフォーミス)は、
小さめの白い豆、淡い紫青色(有色)の花が特徴です。

日本では栽培量は少なく、取り扱い知識も普及していません。
一般には目にすることが稀と思われますが、
毒性が強いといわれる種類ですから逆に注意も必要です。

●赤なた豆(アカナタマメ)の扱い

「赤なた豆」(カナバリア・グラディアータ)は、
赤い(褐色の)豆、有色の花が特徴です。

豆や花の色は様々に形容されています。
「赤い、茶色、褐色、ピンク」などという豆の色の表現、
「青みがかったピンク、薄い紫」などという花の表現。
いろいろな表現がありますが、純白の花でなく有色の花、
白い豆でなく、有色の豆と覚えておくとよいでしょう。
(消防車のような「真っ赤な」豆と花とはいえません)

「たちなた豆」ほどではないが毒性が含まれるといわれます。
江戸時代の文献などには「毒あり」「食すべからず」
などと書いてあるものもあります。

●白なた豆(シロナタマメ)の扱い

「白なた豆」(バー・アルバ・マキノ)は毒性がないといわれ、
食用に供されてきた歴史があります。
「白餡(あん)」などに利用されていたという記述もあります。
白い豆、純白の花が特徴です。

江戸時代の文献にも「毒のない白なた豆という種類もある」
という記載があり、毒性や名称を「なた豆(赤なた豆)」と
区別している場合があります。

「赤なた豆」の変異種が「白なた豆」だという説もあります。

一般に、自然界では多数の有色種の中に、
希少な白色種が散見することがあります。
白馬、白豹など同一の動物種内にも珍しい白色種が見られます。

ただし、「赤なた豆」の毒性と「白なた豆」の無毒性が、
色と何らかの因果関係があるのかどうかまでは分かりません。
いずれにせよ、近い類縁関係にあることはすでに述べました。

前述した江戸時代の事例から類推すると、
「白なた豆」の栽培量は「なた豆(赤なた豆)」ほど
多くなかったのではないかと思われます。

●毒にも薬にもなる成分の働きとは?

世の中には、毒もうまく使えば薬という例があります。
農林水産省の「消費者の部屋」では、
完熟した「なた豆」の種子によっては、
毒性物質として次の4種類が含まれているそうです。

(1)溶血作用のあるサポニン
(2)青酸配糖体
(3)有毒性アミノ酸のカナバニン
(4)有毒性アミノ酸のコンカナバリンA
などに「由来する」物質。

(1)と(2)は配糖体の仲間。
配糖体は糖と非糖成分が結合した有機化合物で、
生物界に広く分布します。

最近話題の植物色素・アントシアニンや、
からし菜の辛味の主成分・からし油配糖体など
多くの物質がさまざまな働きをしています。

(3)と(4)はアミノ酸の仲間。
アミノ酸は自然界には50種類くらいあり、
たんぱく質を作るのはその内の20種類です。

さらにその中でヒトや動物が食物から摂取
しなければならないのは8種類のアミノ酸で、
必須アミノ酸と呼ばれます。

ですから、ヒトにとっては直接利用されないアミノ酸も多く、
場合によっては有害なアミノ酸も存在するということです。
(3)(4)は、そういう仲間といえるかも知れません。
毒キノコなどには有毒アミノ酸環が含まれているものがあります。

ここで、「~などに由来する」物質という
慎重な表現にも留意しましょう。

「たちなた豆」から抽出される純粋な薬品成分としての
コンカナバリンAのお話をすでにしましたが、
天然の「なた豆」自体は様々な成分が
組み合わさってできているということです。

つまり、「純粋な物質そのもの」と「由来する物質」とは
全く同じであるとは限らないということにも注意しましょう。

生体内の酵素の働きなど、消化吸収作用は
試験管内の単なる化学反応とは違い、複雑な働きをしています。

(1)サポニンの溶血作用を例にあげても、
試験管内で観察されたことが、
必ずしも体の中で同じように観察
されるということではない場合も考えられます。

たとえば、
自然界には数十種類の大豆サポニンが存在するといわれます。
===
一般に、サポニンは溶血作用があるといわれます。
血液は試験管に入れて放置すると、血球が沈殿し、
上澄み液(血清)が薄い黄色になります。
ところが、サポニンなどの溶血作用のある物質を加えると、
血球膜が壊れて赤い色素が外に溶け出すので、
上澄み液(血清)が赤色になるといわれます。

ところが、この溶血現象は試験管内などの血液に
直接純粋なサポニン成分を加えたときに見られるのであって、
大豆を食べて消化吸収されるサポニンやサポニン由来の物質は、
もっと複雑な処理を経ます。

消化の際、
サポニンは糖が離れてサポゲノールという物質になり、
溶血性は失われるといわれています。

それなら食べても大丈夫か?といえば、
大豆のサポニンとなた豆のサポニンが同じという
保障はありません。
ましてや、「それに由来する物質」が同じであるという
保障もありません。

大豆に比べ、なた豆の研究はあまり進んでいません。
やむをえないので、よく知られた事例から
(2)で掲げた「なた豆」の青酸配糖体の毒性を
類推してみましょう。

青酸が恐ろしい毒性物質であることは、
「青酸入りカレー殺人事件」などを連想される方も
おられるでしょう。

自然界の食材として知られている青酸の毒性に
キャッサバという熱帯産のイモ類があります。

キャッサバを食べた人が、青酸入りカレーを食べた人と
同じように七転八倒して死ぬことはほとんどありません。

ただ、ヨードの吸収が阻害され、ヨード欠乏症を起こし、
それが原因で甲状腺腫になる場合があることが知られています。

どうして、このようなことが起きるのでしょう?
キャッサバにはリナマリンという青酸配糖体が含まれます。
リナマリンは体内で分解されて青酸が遊離します。

青酸が体内に多量にとどまると、場合によっては呼吸障害を
起こして死ぬ場合もあるはずです。

ところが、ヒトには解毒機構があり、キャッサバに「由来する」
青酸の毒性を消去するために、肝臓でチオシアン基という
物質を生成し、解毒を行うことに成功します。

しかし、キャッサバを食べ続けると、解毒のために生成した
チオシアン基が血液中に増え、甲状腺に対してヨードと
同じような振る舞いをチオシアン基がとるため、
結果としてヨード吸収が阻害され、
甲状腺腫を発症することがあるのです。

キャッサバを食べる地域では、欠乏症対策として
ヨードを同時に食べる指導が行われているそうです。

大豆のサポニンやイソフラボノイドという物質にも
抗甲状腺作用があることが知られていますが、
詳しい仕組みはキャッサバほど解明されていません。

大豆の場合は、キャッサバほど強力な作用があるわけでなく、
もともとヨードが欠乏傾向にある地域で影響が懸念される
ということだそうで、
日本では海産物などからヨードを
摂取する量も多く、欠乏傾向がほとんどないことから、
日本に限っては通常は心配する必要はないそうです。
(世界的にはヨード欠乏症に悩む地域は少なくありません)

このように、ある程度研究の進んでいるはずの大豆の毒性
研究ですら、その複雑な作用が解明し尽くされているわけ
ではないのです。

ましてや、(一部の成分を除き)豆自体の研究が遅れている
「なた豆」にいたっては、安易な楽観論や、いたずらな
脅迫論は控えねばなりません。

自然界には分からない現象がたくさんあります。
生体内の化学反応にしても、私たちが知っている現象は
ごく一部に過ぎないと考えてもよいのではないでしょうか。

豆ひとつをとってみても未知の部分は多いのです。
私たちの体の中で、食べた豆がどう変化し、
どう働くのか?
まだまだ分からないことは少なくないのです。
この事実に謙虚になる必要があるのではないでしょうか?

(3)(4)の有毒性アミノ酸は「なた豆」に多く含まれ、
毒にもなれば薬にもなると論議されている代表的な物質です。
これに関しては、「タチナタマメ」から抽出した成分で、
実験レベルの研究成果が公開されてはいます。

しかし、(1)や(2)で見てきたように、
カナバニンやコンカナバリンAが「食用」として摂取され、
消化吸収を経てどのような生体内の毒性や薬効を示すか?
これについては実証的研究がまだ十分であるとは思えません。

一説には、
カナバニンは免疫力を高め、排膿作用を亢進する
とか、
コンカナバリンAはマウスの癌細胞の増殖を抑制する
などと紹介されています。

しかし、
これが原材料である「赤なた豆」や「白なた豆」から
作られた「なた豆茶」などの健康食品や
「歯磨き粉」などの製品からきちんと立証された事実
であるとは誰もいっていません。

「なた豆」に比較的多く含まれるといわれる
ウレアーゼという酵素を考えてみましょう。

ウレアーゼは尿素を分解することが知られています。
しかし、「なた豆」を摂取することで、消化吸収された
ウレアーゼが腎臓に直接働きかけて、腎機能を改善したり、
そのことで血液中の尿素を減少させて「物忘れを予防する」
などという脳内活性作用まで貢献するなどと飛躍して
よいものかどうか慎重に考えねばなりません。

また、薬効のみに目を奪われず、
毒性というコインの裏側にも目を向けなければなりません。

【下】に続く

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