YOSHIの果てしない旅(人々との出会い、そして別れ)

ソ連、西欧列車の旅、英国滞在、欧州横断ヒッチ、イスラエルのキブツ生活、シルクロード、インド、豪州大陸横断ヒッチの旅の話。

同部屋のフランクと喧嘩~ハッゼリムキブツ滞在

2021-12-27 09:24:28 | 「YOSHIの果てしない旅」 第8章 イスラエルの旅
   △同部屋のフランコと喧嘩~キブツにて Painted by M.Yoshida

・昭和43年12月29日(日)晴れ(同部屋のフランクと喧嘩)
 今日、同部屋で北アイルランド人24歳のフランクと喧嘩をした。何日か前に、「そうですか」(Is that so?)と言う日本語をフランクに教えました。そうしたらここ2・3日、フランクは朝から晩まで私と話をする度に、そして私の顔を見る度に、「そうですか」とそればっかり言っていた。多分、彼からすれば初めて覚えた日本語が珍しいのか、或いはふざけて言っているのであろうと、最初は私もその様に受け取っていた。でも今日は度重なるので『もうバカにされている』、と感じて来て少し腹が立っていた。
  キブツでは、オレンジをいつでも食べられる様にと、食堂入口付近に山盛りで置いてあった。ジャガイモ畑の農作業が終り、食堂に立ち寄り『部屋でオレンジを食べよう』と2個ばかり貰い、フランクと歩いていた。そしたらそのオレンジ1つを落としてしまい、コロコロと彼の前に転がった。そのオレンジを彼は蹴って、逃げてしまった。人が食べようとした物を蹴っ飛ばすとは何事か、もう完全に頭に来た。砕けたオレンジを片付けてから部屋に戻った。
「フランク、如何して私が食べようとしたオレンジを蹴ったのだ」と強い口調で詰った。
「ソリー、Yoshi。ボールと間違えてしまった」と彼はふざけた態度、口調であった。
「覚えておけ、フランク。2度と私を怒らす様な事はするな。もし私を怒らす様な事をしたら、君をぶん殴るからな」ときっぱり言い放った。
 その後、ロンドンで買ったリーダースダイジェストの本を読んでいたら、ウンコがしたくなったので、外にあるトイレへ行った。大便用のトイレは2つあり、左側をノックしてからトイレに入った。しかし木製のラッチが壊れていて、中からドアが閉まらなかった。一旦出て、もう一つの方をノックしたら、フランクが入っていた。私は仕方なくラッチが掛からない方のトイレを使用した。
 ラッチが故障していたので当然、トイレのドアは完全に閉まらず、少し開いている状態であった。私がトイレ使用中、フランクはトイレから出て来て、私が使用中のそのドアを足で蹴った。その調子にドアが〝私のおでこ〟に当たった。痛くはなかったが、彼はその行為を3回も繰り返した。おでこに当たったのは1回だけで、後は手で避けていた。私は完全に頭に来た。日本に居た時でも、こちらに来てからも、こんな屈辱、侮辱を受けた事は無かった。トイレ後、喧嘩・決闘になるかもしれない、その覚悟で彼をぶん殴ってやろうとしたら、何処へ行ったのか、彼は部屋にも居なかった。
 その後、シャワーを浴びにシャワールームへ行ったら、フランクが隣でシャワーを浴びていた。
「おいフランク、如何してあんな事をしたのだ。ドアが私のおでこに当ったぞ。しかも3~4回もだ。君は最低な男だ!」
「君は私が今まで会ったイギリス人の内で一番バカな男だ!」
「大学を卒業したって、ふざけるな!やっている事は最低だよ!」
「夕食後、君をぶん殴る。私は本気だ、覚悟しろ!」
「You are a bloody bugger. Son of a bitch」(相手を罵声する時に使う最も汚い言葉)と、立て続け彼に罵声を浴びせてやった。彼は何も言い返せず、そそくさとシャワールームから出て行った。
 シャワーを浴びて部屋に戻ったら、彼は既に居なかった。私は食堂へエンディ等と共に行った。彼はポツンと1人で食べていた。我々は同じテーブルで食事を取った。私の隣にエンディが座った。
「エンディ、このキブツにディスガスティングな(胸糞悪い)奴が居るのだ」と私。
「フー?誰が」と彼。
「フランクだよ。実は・・・」と言って私は事の一部始終をエンディに話した。私の余り上手くない英語の話を、彼は黙って聞いてくれた。それだけで彼が私を理解してくれたと思い、嬉しかった。
 食後、部屋に戻ると、又もフランクの姿は見当たらなかった。彼は私から逃げ回っている感じがした。実際、喧嘩になれば大怪我をするかもしれないし、負けるかもしれない。私も怖いのであった。出来れば喧嘩はしたくなかった。しかしあそこまで侮辱されて、何もしなければ男の恥じだ。ここは外国、色んな国の人がキブツに居るし、ある意味(国際的観念からすれば)で日本人、又は日本がフランクにバカにされた、と言う感じがした。私は彼と喧嘩せざるを得なかった。フランクは私より背が高く、体格も一回り以上あり、髭を生やし、それはバイキングの風貌で、見た目は強い感じがした。しかし喧嘩と言うものは、『ポジィテブとアクテブな言葉と行動、所謂ハッタリが大事』である事を私は承知していた。従ってこれは日本であろうが、外国であろうが関係ない、ハッタリと捨て身の覚悟が勝利をもたらすと思った。 
  暫らく部屋に居たが、今夜もジョンの所でパーティがあると言うので、私も行って見る事にした。多分、フランクもそこへ行っているであろうと思った。私は農作業靴に履き替えた。この靴は登山靴と同じで底が厚く、皮製で重かった。喧嘩は動き易く軽い靴が要求されるが、彼を蹴っ飛ばすには好都合の靴であると思った。
ジョンの部屋に行くと、12名程(女性は4名)が集まっていた。案の定、フランクもドア近くのベッドに座っていた。私は彼の前に立ち、そしていきなり大声で、「ヘイ、フランク。私は君に何か悪い事をしたか。それなのに君は如何してあんな事をしたのだ。いいか、君は4回トイレのドアを蹴り、私のオデコを打ち付けたのだぞ。これは私を侮辱した事であり、私を侮辱したと言う事は、日本人を侮辱した事と同じだ!」と捲くし立てた。
「日本人として我慢できない。表へ出ろ!この靴で君を蹴っ飛ばしてやるから!」と右手で彼の胸倉を掴(つか)んで、外へ出るよう促した。
「如何したのだ、Yoshi。何かあったのか」集まった仲間達は私の剣幕に騒ぎ始めた。私はエンディに皆に説明する様に促した。エンディは私が怒っている事の顛末を皆へ説明した。皆は分ったらしく、黙って頷いていた。
私は再びフランクの胸倉を掴んで、「オイ、フランク、表へ出ろ!日本人が強い事を、見せてやる!(Hey Frank, get out of the room!  I show you as we Japanese are strong)。」と雄叫びを上げた。フランクは何も言わなかった。ただ彼は、「Fuck off」(「クソッタレ、あっちへ行け」と言う汚い言葉)と言っているだけであった。
 その瞬間、皆のリーダー的存在のジョンが近寄って来て、
「Yoshi、一寸待て。」
「フランク、君が悪い、Yoshiに謝れ。」 
「Yoshi、フランクが謝れば許してやるか。」と言って仲裁に入った。他の何人かも「フランク、Yoshiに謝れ」と言う声が上った。
  実際に2人だけになって本当に喧嘩して、そして怪我をして旅が出来なくなったら何にもならないのだ。私としては人前でフランクが恥を斯き、私の面子が立てば一番良いので、この仲裁に異論はなかった。                                                   それで私は、「フランクが謝ってくれれば私としては、それでOKだ」と言った。               
そうしたら、「アイム ソリー」(ご免なさい)とフランクはベッドに座ったまま口先だけで2度言った。
「それなら日本式で謝れ。私が教えてやる」と言って土下座で謝るよう、フランクに教えようとした。
「チョット待て、Yoshi。日本とヨーロッパでは謝り方が違うから良いではないか。それに、ここは日本ではなくイスラエル。そして集まっている仲間はアメリカ人、カナダ人そしてヨーロッパ人、だからヨーロッパ式で良いではないか」とジョンが言った。
「それなら、如何してフランクはベッドに座ったまま謝っているのだ。あの口先だけの謝り方がヨーロッパ式なのか。私はそうは思わない」と私言った。ジョンは黙った。
「おい、フランク。君が喧嘩したいならいつでも相手になってやる」と私はキッパリ言い放った。
すると今度、フランクはちゃんと立って、「アイム ソリー」と言って、私に握手を求めて来た。私も手を差し伸べ、そして握手をした。                                         これ以上私が怒っては楽しいパーティが台無しになってしまうし、皆に悪いと感じ取った。私はとにかく言いたい事は言ったし、フランクは皆の前で恥をかき、謝った。そして私の面子は立ち、彼との喧嘩に勝ち、私は大いに満足した。
 暫らくして、フランクはパーティから抜け出し、何処かへ行ってしまった。
「フランクはいやらしい奴だ。それにケチで、この間のパーティ代も払っていないのだ。Yoshiは記念コインをプレゼントしてくれた。有り難う」とジョンは言った。
「ジョン、仲裁してくれて有り難う」と私は彼に心からお礼を言った。
「Yoshiは正しい。勇気ある男だ」とエンディも言ってくれた。
「エンディ、私の言いたい事を皆に説明してくれて有難う」と彼にも感謝した。
 フランクの評判は、仲間内でも良くなかった。それ以後、同じ部屋でもフランクと余り口を聞かなくなった。勿論、彼の口癖であった日本語の「あ、そうですか」も発しなくなった。そして一週間後の1月5日、彼は黙ってキブツから去って行った。