「私の従軍記」 子供たちへ

平成元年父の誕生日に贈ってくれた本、応召されて帰還するまでの4年間の従軍記を今感謝を込めてブログに載せてみたいと思います

ビンタ 2

2006-05-10 17:50:24 | Weblog
 ある時、千丁町出身の扇崎が多分、出征の時から持っていたのだろうが、「メンソレターム」のようなものを手に塗っているのが見つかり、ビンタを貰った。そしたら、扇崎は「耳が痛い」と言い出した。医務室で見て貰ったら、鼓膜が片方破れていることが分かり、牡丹江陸軍病院に通院することになった。殴った上等兵は何か処罰を受けたようだった。扇崎がその時、一寸顔を背けたので、ビンタに当たらず、耳に当たって鼓膜を破ってしまったのだ。「歯を食いしばれ」は、殴られた時、歯を食いしばっていないと顎が外れることもあるし、歯を折ることも、又、口の内部の切れ方が大きくなる。歯でも折ったら、責任問題だからそうさせるのだ。
 又、ある時、物干し場で、上等兵に難癖を付けられて、ネチネチと油を絞られた同年兵は時間を空費するのがもったいなくて、又、どうせビンタをとられるのだからと、「殴るのだったら早く殴ってください」とやったものだから、「ヨシ!それならば」とコテンコテンにやられてしまった。しかし、ネチネチとヤラレルよりも、パンパンと片付けられた方が良いと誰でも思っていた。 ビンタの話になると、残酷だと言う。ここに書いたような事は誰でもあることで、兵隊に行って、ビンタをとられなかった者は、1人もいないと言っても過言ではないと思う。「どうしてあんなことをするのか」と航空情報連隊で聞いたら、「どんな悲惨な状況になっても、絶対にくじけぬ精神力を養うためだ」と言った、もの分りの良い上等兵がいたが、これもそうかもしれないが、私的制裁が過半ではなかったろうか。無抵抗の者を面白半分にやっつけて不屈の精神を養うという事は縁遠いものではなかろうか。

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