ちょこっとGUM

今、自分が出来ること。やれること。それを精一杯やっていかなくちゃ!!

コラム備忘録【11/8】

2019年11月08日 21時44分29秒 | マリーンズ2019
≪2019/11/8≫

FA権を行使した ロッテ・鈴木大地が持つ3つの魅力

「安定感」「万能性」「リーダーシップ」

 11月に入ってFA宣言した選手との交渉が解禁となり、ストーブリーグが本格的に動き始めた。FA組に先立って、筒香嘉智(DeNA)がポスティング制度によるMLB移籍を正式に表明すると、秋山翔吾(西武)も海外FA権を行使してMLB挑戦を決断した。

 国内に目を向けると、福田秀平(ソフトバンク)、美馬学(楽天)そして鈴木大地(ロッテ)の3人が、残留も視野に入れたうえで国内FA権を行使。今のところ、福田や美馬に関心を示している球団が多いものの、実績だけで見たら鈴木は興味をそそる選手だろう。

 プロ2年目となる2013年シーズンから2019年シーズンまでほぼ全試合に出場し、7年連続で規定打席に到達。打率3割を残すような選手ではないものの、毎年2割6分から2割9分のあいだで安定した成績を残しているし、その数字以上に好機で勝負強さを発揮している印象が強い。

 また、セカンドとサードに加えて、今季は主にファーストとしてスタメン出場し、交流戦の期間などはレフトに入ることもあった。3番(一塁手)から7番(左翼手)までをこなす、ハイレベルなユーティリティープレーヤーと言っていい。ベストナインにも過去2度選ばれ、二塁手のポジションでゴールデングラブも受賞した。

 また、それ以上に評価されているのが、鈴木の持つリーダーシップだ。鈴木は2014年シーズンから2017年シーズンまでキャプテンを務め、チームをまとめ上げてきた。2018年シーズンからは、チームとしてキャプテン制を敷かなくなったことで肩書きこそ外れたものの、変わらずナインを鼓舞し続けている。

 鈴木は、プロ入り前の東洋大学時代も、そして大学日本代表でもキャプテンを務めていた。当時、東洋大を率いていた高橋昭雄監督からも、「長い東洋大の歴史のなかでも最高のキャプテン」と称されていたほど、そのリーダーシップは折り紙付きだ。

巨人と楽天が獲得へ

 その「安定感」と「万能性」、さらには「リーダーシップ」を兼ね備えた鈴木には、巨人、中日、楽天の3球団が調査をしているとのことだったが、中日が福田の獲得に注力するために交渉を凍結しているとの報道。現時点では、巨人と楽天の2球団が交渉の席に着いている。

 巨人はリーグ優勝したものの、内野陣を見ると長年の課題である二塁手が埋まっていない。2016年ドラフト1位の吉川尚輝が期待されてはいるが、腰痛の影響で2019年シーズンは開幕早々にリタイア。シーズン終盤に二軍戦で復帰したものの、腰への負担を考慮して二塁ではなく外野の守備についた。2020年シーズンもどのように起用されるかは不透明な状況だ。

 また、吉川尚の離脱を受けて二塁手での先発起用が多かった若林、田中俊にしても、巡ってきたチャンスをものにしたとは言い難い。鈴木が加わればまさにピンポイントの補強であり、状況によっては一塁手としても、三塁手としても起用可能と、様々な計算が立つ。

 そして楽天は、残留濃厚な三塁のウィーラーがピークを過ぎた感もある。今季は渡辺佳が台頭し、今秋のドラフトでは遊撃を守る小深田大翔(大阪ガス)を1位で指名しており、茂木栄五郎を三塁にコンバートすることも想定される。しかし、小深田は社会人出身の即戦力候補とはいえ、通用するかは蓋を開けてみなければわからない。

 一方、実績のある鈴木であれば十分に計算が立つだろう。また、これまでチームをまとめあげてきた嶋基宏が退団したこともあり、新たなリーダーとしての期待もかかる。石井一久GMも、鈴木の人間性に加え、毎年のようにポジション争いを強いられながら、自らの力でポジションを勝ち取ってきた姿を評価しているとのこと。若手が多くなってきたチームの中で、鈴木の持つリーダーシップは魅力的なはずだ。

 当の鈴木は、「移籍が前提ではない」とコメントしており、ロッテも宣言残留を認めている。とはいえ、レアードの残留が発表され、ファームでは安田尚憲が本塁打と打点の2冠王を獲得するなど、3年目の飛躍に向けて牙を研いでる。どの道を選択しても同じかもしれあいが、残留しても安泰ではない。

 来る2020年シーズン、鈴木はどの球団のユニフォームを着ているのか――。当面はFA戦線から目が離せない日々が続くことになりそうだ。

(ベースボールキング)

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≪2019/11/8≫

1月に右肘を手術したロッテ・大嶺、この1年は「前向きに取り組んでいこうと」

戦力外通告、球団から育成契約打診

 10月3日に球団から来季の契約を更新せず、育成契約の打診を受けたロッテの大嶺祐太は現在、ロッテ浦和球場で行われている秋季練習に参加し汗を流している。

 今年1月17日に『右肘内側側副靭帯再建術および鏡視下滑膜切除術』を受けた大嶺は、11月3日にはブルペンに入り、捕手を立たせて10球、中腰で10球、捕手を座らせて少し高めに10球、捕手を座らせて真ん中に10球、合計40球を投げ込んだ。8日に行った投球練習でも捕手を座らせて少し高めに20球、捕手を座らせて真ん中に20球、合計40球投げた。

 大嶺によると現在は「6、7割くらいで投げられたりしています」と話し、投げ終わった後も痛みは「最初の方は筋肉痛よりも強い張りはありましたけど、今はほぼないですね」と説明した。

 シーズンオフは「キャンプが終わってもブルペンが入れる日は入って、30〜40球くらいしっかり座って投げられるような形まで戻っていきたい。リハビリの段階ではあるので、リハビリと強化をしながら、今投げているなかで弱い部分とか、筋力的にも出てきていると思います。そこを重点的にやって、1月からしっかり投げて、2月のキャンプインに入っていければいいかなと思います」と引き続きリハビリとトレーニングを続けていく予定だ。

どんな思いでシーズンを過ごしたのか——

 今年1月にトミージョン手術を受け、ブルペンで投球練習を再開するまでに回復した大嶺。この1年間どんな思いで過ごしていたのだろうか——。

 「どんなことがあっても前向きに取り組んでいこうというのは、手術する前から思っていました。状態によっては良い日もあれば、悪い日もありました。なるべく悪くてもいいように捉えるような形でやっていこうとずっと思っていました」。

 「また、手術してから悪くなるということは絶対にないと、自分のなかで思っていました。そういう変な気持ちにはならなかったです。あとは上にあがっていくしかないという気持ちばかりを考えていました」。

 「リハビリはキツかったといえば、キツかったですけど、そんなに光が見えないというわけではなかったです。やりがいを感じながらできました。今もそうなんですけど、トレーニングすることはできるので、それに関しては苦じゃないです」。

 復帰まで全治12カ月の大きな怪我。気が滅入ってしまいそうだが、前向きにリハビリに取り組んだ。ロッテ浦和球場でリハビリをしているときも、辛いそぶりを見せることなく、トレーニングしている姿が印象的だった。

再びマリンのマウンドを目指して

 復帰を目指しリハビリに励む中、10月3日に球団から来季の契約を更新せず、育成契約を打診すると発表された。大嶺は「今年は試合にも投げていない。ただ、ようやくブルペンに入れるようになった。来年頑張って、リハビリした1年間が無駄じゃなかったことを証明できればいいかなと思っています」と前を向いている。

 「自分のボールをここ何年か投げられていなかったので、それさえできれば、どうにかなるんじゃないかなと思っています。支配下になるというのは目標ではありますけど、その前に自分のボールをしっかり投げて、あとは周りが判断してくれると思います。それを信じてやっていきたいと思います」。

 長く険しかったリハビリの先に、必ず明るい光が待っているはずだ。熱い熱いマリーンズファンが待つZOZOマリンスタジアムのマウンドに必ず戻って見せる。

取材・文=岩下雄太

(ベースボールキング)

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≪2019/11/8≫

江本氏、順大医学部と提携したロッテは「非常に良いこと」

現在放送中の『ザ・フォーカス フライデースペシャル』に出演するショウアップナイター解説者の江本孟紀氏が、順天堂大学医学部と提携を結びメディカル体制の強化を計るロッテについて言及した。

 江本氏は「今まではケアとか故障に対しては、そういうことが起こった後にどういう治療をするかとか、後のケアの話ばかりが多かった。これは怪我を事前に防ぐためのプロジェクトですから。どういうことをやるかわかりませんし、僕も聞いていないのでわかりませんが、印象としては非常に良いことですね。怪我をしやすい状況を事前に知るというのは必要なこと」と評価した。

 さらに江本氏は「怪我したら治療していくという話だけではなくて、どうやったらいい成績を上げられるような健康管理ができるようになるか。プロ野球全体に広がっていけばいいですね」と話していた。

 ロッテはこれまでチームのトレーナー主導で選手たちのサポートを行ってきたが、来季からは順天堂大学医学部附属順天堂医院と、順天堂大学医学部附属浦安病院が医療面、栄養面、コンディショニング面のすべてを全力でサポート。医師の指導の下で、選手が安心して全力プレーできる環境を整えていくという。

 また、健康管理だけでなく、選手がケガを負った時や、身体に何らかの変調が出た時には各病院が24時間体制で選手たちの回復をサポート。最先端医療を駆使した適切な処置・治療、早期復帰への計画やリハビリなどを実施する。

(ニッポン放送ショウアップナイター)

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≪2019/11/8≫

野次馬ライトスタンド
“ZOZOマリン最強の売り子”なな。
これは、もう1つのペナントの物語。


「ペナントレースが終わって徐々にですけど、優勝したっていう実感が湧いてきたような気がします。まだ2年目の私が勝てたことは周りの人たちの助けがあったおかげです。支えてくれたお客さんに、仲間や先輩たち、裏方さん、家族……すべての人たちに感謝を捧げます」

 シーズンオフのZOZOマリンスタジアム。人気のない記者会見場で深々と感謝の辞を述べる彼女の笑顔は、インタビュー中、一度だって途切れることはなかった。

 彼女の名前は「なな」。22歳。昨シーズン後半に名門アサヒビールに加わった2年目のフレッシュ売り子。

 千葉で生まれ千葉で育ったドジでお茶目な野球好きは、野球部マネージャーを務めた高校時代にマリンのウグイス嬢を経験するなど、ZOZOマリンを聖地として育ってきた純正の千葉娘。

 2019年。売り子界においてまったく無名の存在であった彼女が、荒廃の中から健全な精神を培い、わずか1年にして、ZOZOマリンの強豪、難敵、レジェンド売り子をなぎ倒し、新・女王の座につくという奇跡を起こした。

 もうひとつの知られざる戦い“売り子ペナントレース2019”。この物語は熱血売り子たちの記録である。

スーパースター、今井さやかの存在。

 昨年に引き続き2年目の開催となったこの売り子のウィンブルドンともいうべき大会は、ZOZOマリンのスタンドを根城にするアサヒ、サッポロ、キリン、サントリーのビール各社、ソフトドリンクのコカ・コーラに清酒大関、やっぱり俺は菊正宗の各社が参加し、マリンのスタンドを舞台に誰が最強の売り子なのかを決定する日本で唯一の催しである。

 ルールは昨年から変更となり、3・4月〜8月までの毎月、月間1位の杯数を売り上げた5人が勝ち抜け、9月の1カ月で優勝決定戦を行うことになった。

 さらには昨年までの“5年目まで”という年数制限が取っ払われたことで、勤続年数・売る商品によって斤量が変わるハンデ戦へと変わっている(1年目は売上杯の150%、2年目140%、3年目130%、4年目120%、5年目以上なし。コーラ・日本酒は200%)。

 開幕前に大本命と目されたのは、ZOZOマリン売り子界の名門アサヒビールの女王・今井さやか(12年目)。元カンパイガールズのリーダーにして、台湾ラミゴモンキーズの「LamiGirls」も兼務するスーパースター。

 もしスタンドがお花畑だとしたら、さやかさんは蝶。風も起こさず静かに舞う美しいアゲハ蝶。蝶のように舞い、蜂のように注ぐ。その美しいプレースタイルに魅入られた常連さんやファンは数知れず。

 ななにとって同じアサヒの大先輩でもある今井さやかは、遠くから見て憧れるだけの存在。お蝶夫人に憧れる岡大海……もとい岡ひろみのようなものだった。

「私にとってはさやかさんは、雲の上の存在です。やさしくて、気さくで、かっこよくて、笑顔がステキで。格が違うっていうか、ベテランなのに決して偉ぶらず、こんな新人の私にもフランクに声を掛けてくれる。

 ペナントレースがはじまっても、いきなり最初の3・4月でバーンって1位で抜けたんですよ。すごいなぁ……すごいなぁぁぁ! って見ていたんですよ。え、私ですか? 全然です。ランキング内にも入れませんでしたし、ペナントで勝ちたいとも勝てるとも思っていませんでした」

100杯で一人前、200杯売れば一流。

 なんとなく野球が好きで、マリーンズが好きで、球場も近所だからと、昨夏からはじめた売り子のバイト。

 200杯を売れば一流、100杯売れば一人前と言われる売り子の世界。バイト初日は30杯と惨敗し、その後も100杯にも届かなかった自分が、総勢146名が競い合うこのペナントで、相手になんてされるはずもなく、開幕前までは自分とは関係のないものだと思っていた。

「ただですね、この3・4月でさやかさんが圧倒的な力で勝ち抜けただけでなく、ほかのアサヒの先輩たちもすごい頑張っている姿を見て感銘を受けたんです。どうせ売り子をやるなら、ただやるよりも一生懸命やってみたい。自分も頑張ってみようかな……といつしか考えるようになっていました」

 5月。若葉の季節。さわやかになるひととき。首位はマリンのレジェンド近藤晃弘さん(24年目/コカ・コーラ)が貫禄の1位抜けを果たした。その陰で、ななは、はじめてランクインしている。

「やった! 載った! わーい! という感じでした。自分の中でも頑張れたと思える1カ月だったので嬉しかったですね。一度も休まなかったんですよ。やっぱり、杯数を意識する上では、試合に出ることが大前提。1日休んでしまうと約100杯近く差がついてしまいますからね。

 先輩たちの動きを研究してみると、常連さんを多く抱えている分だけ、杯数が安定していらっしゃるんです。私はまだはじめたばかりですし、まずは勝負より土台を作ること、休まずに出勤して1人でも多くのお客さんに顔を覚えてもらうことからはじめようって思ったんです」

小さい頃、マリンで会ったお姉さん。

 売り子は1杯いくらの歩合で生きている。スタンドでは誰でもひとりきり。限られたパイを奪い合うシビアな戦いの場は、たとえ“ペナント”という仕掛けがなくとも、自分なりに戦う術を身につけなければ生き残ることはできない。

 ななは考えた。どうすれば先輩たちのように顔を覚えてもらえるのだろうか。思い返したのは幼い頃、家族で野球を観に来たマリンスタジアムの光景だった。そこには、いつも笑顔で明るく接してくれていた売り子のお姉さんがいた。彼女たちのことは今でもハッキリと覚えている。

 やさしくて、かわいくて、その笑顔にこちらまで楽しくなってしまうようなお姉さん。

 そうよ、大切なことは「お客さんに楽しんでもらいたい」という気持ちになること。ななは自分なりのルールを課した。

一、 笑顔を絶やさずにいること
一、 目を見てちゃんと会話をすること

「特別なことなんてできないです。だから2つだけ。笑顔を絶やさないこと。ニコニコニコニコしていたら、一緒にニコニコしちゃいますよね。だから、私はどんなときでも笑顔でいようと決めたんです。スタンドだけじゃなくても、人がいる場所ならコンコースでもバックヤードでも、ずっと笑顔でいるようにしました。

 大事なのは盛り上がりに欠けて、ビールも売れない試合。重い樽がさらに重く感じられて、気を抜くと疲れた顔になりがちなんですけど、そういうときこそ明るく、笑顔を絶やさない。基本的なことだけど、これが一番難しいんですよ」

 技があってもそれに見合う精神力がなければダメよ――。

 お蝶夫人の言葉を借りるのであれば、泡を注ぐ技術や、お客さんを見つける鷹の目があったとしても、お客さんにお客さんに気持ちよく買ってもらう気持ちがなければ次はない。

 ななにとって、笑顔は打席に立つための最低限の条件だった。

重度のマリーンズファンがプラスに。

 ZOZOマリンは大都会の球場と違い、樽買いをするようなお客さんはほとんどいない。だから、一杯一杯を大事に地道に売っていくことが一番の近道だった。

やがて、日を追うごとにスタンドに知った顔が増えていくと、それに比例するように杯数の売り上げも伸びて行く。幸運だったのは、なながマリーンズの重度なファンであったことだ。

 趣味の野球観戦は、規定により売り子がマリンでの試合観戦が禁じられていたため、ニ軍の浦和や鎌ヶ谷に頻繁に出掛けていた。しばらくすると「昼にニ軍球場で見かけた子だよね」とZOZOマリンのスタンドで声を掛けられるようになり、さらには“ニ軍の若手情報”や対戦相手となるビジター側の情報という大きな武器を自然に手に入れることになる。

 6月が終わり同じ2年目の新鋭、氷結使いのあやかさん(2年目/キリンビール)が会話を大切にした接客スタイルで2284杯を売り上げ、ベテラン以外ではじめての頭を獲った。ななは378杯差で4位。大丈夫。方向性は間違えていない。

「だんだん、ビジターのお客さんの傾向がわかってきたこともあります。一番飲むのはやっぱりソフトバンクで、西武も楽天も飲む人が多いです。日ハムはサッポロさんが強いです。あんまり飲まないのはオリックスでしょうか。

 マリーンズのお客さんにも知った顔が随分と増えてきましたし、ZOZOマリンに来た他球場の売り子さんにも『お姉さん、雰囲気いいね』と言ってもらったり、嬉しいことが増えてきました」

 順風満帆と思われた7月。首位を獲ったのはりかさん(3年目/サッポロビール)だった。ななは、首位どころかランキングから姿を消していた。

「休んでしまったんです。それまでの連戦で疲労が溜まっていたんでしょうね。夏の暑さで体調を崩してしまいました。このペナントレースは1試合でも休んでしまえば、もうランキングには入れません。体力勝負ですから、体調管理は本当に重要なんだと改めて思い知らされました」

 背中に18.5kgの樽を背負いながら毎日平均5〜6時間球場の中を歩き回る。屈んだ膝は黒く汚れ、衣服は汗でぐっしょり。

 冷夏と言われた7月前半の寒さと、梅雨明けの本格的な暑さの寒暖差もあったのだろう。7月を失ったことでいよいよ後がなくなった、なな売り子SOS。反撃の時がはじまる。

8月、念願の1位。そして決勝リーグ。

 8月。

 最終月。泣いても笑ってもこの月で1位を取れなければ決勝リーグには進めない。ななは初めて「勝ちたい」と願った。一年で最も熱いこの季節。きらめく風が走り、太陽が燃える。7月の教訓を得て体調管理は万全を期しても体力は容赦なく奪われていく。ある試合では、疲労で意識が遠のき、階段を踏み外したこともあった。樽を支える肩のベルトが掛かる箇所は、可哀相なぐらいの青アザになって今も残っている。

「元気ないな、休んだ方がいいんじゃないか?」

 バックヤードで樽交換をしていると、宗方コーチ似(推定)のチェッカーさんが心配そうに声を掛けてくる。

「やります。やらせてください!」

 ななは笑顔を絶やさずスタンドの中を懸命に動き続けた。

 8月31日。すべての戦いが終了し、結果が出た。ななは念願の1位になった。

「おめでとう」

 アサヒビールの先輩たちが口々にななを祝福してくれた。

 だが、よろこぶ間もなくすぐに決勝リーグがはじまる。各月のチャンピオン5名による決戦。マリンでのゲームは9試合。シーズン初めには夢にも思わなかった場に自分が名を連ねていることが信じられなかった。

「決勝はすごい先輩たちに囲まれていたので、1日でも気を抜いたら、絶対に歯が立たないという思いがあったのでとにかく必死でした」

「私は、あの人に勝ちたい」

 決戦リーグは、いきなり女王・今井さやかがその力を見せつける。2日間で748杯を売り上げる貫禄のビール捌きは他の追随を許さない。9月に入ってからはななも1日200杯ペースとアベレージを伸ばしていたが、圧倒的な力の差を感じていた。

「私は、あの人に勝ちたい」

 ななのそんな思いを、決勝リーグに進めなかったアサヒビールの仲間たちも後押ししてくれた。

「これはシーズン中からだったんですけど、“その日は、どのエリアが売れているか”という情報は売り子にとって欠かせない情報です。樽交換をしにバックヤードへ戻る時、『今日は4階が売れているよ』とか、『レフトにアサヒビールを待っているお客さんがいっぱいいるよ』とか、歩いてでしかわからない情報をみんなが教えてくれました」

マーティンのホームランが直撃。

 CS争いも佳境となった9月11日のオリックス戦。3回にマーティンが放ったこの日2本目となるライトスタンドへのホームラン。滞空時間の長いアーチが落ちた先は、接客をしていたななのふくらはぎだった。
(https://baseball.yahoo.co.jp/npb/video/play/1919198/ 参考動画2分13秒)

 完全に後ろを向いていたななは、突然襲われた激痛に何が起きたのかわからず混乱してしまう。歓喜していた周囲のマリーンズファンが、直撃した自分を心配そうに窺っている。あッ、いけない! せっかく楽しんでいる皆さんに心配を掛けてはいけない。

 大丈夫? 医務室に行った方がいいよ。

 なな、こんなところで挫けてどうするの!?

 がんばれ、なな!

 Yes、マーティン。

 いろんな人たちの声が聞こえた気がした。何もなかった自分が開幕からひとつずつ積み上げて、やっとここまで来たんだ。こんなところでリタイアするわけにはいかなかった。

「大丈夫です! 行ってきます!」

 ななは込み上げる涙をこらえながら必死で笑顔を作ると、再び戦線に戻り何事もなかったようにビールを売り続けた。

 天才とは無心である――。

 かつてのお蝶夫人の言葉を借りるのであれば、今のななは紛れもなく売り子の天才であった。

「アドレナリンが出ていたんでしょうね。復帰してからは痛みもなくなっていました。わたし、ドジだからいろいろケガもするんですけど、痛いなぁとか樽が重いなぁというものは、試合がはじまってしまえば不思議と感じなくなるんですね。この決勝リーグは尚更でした。気合いと根性です」

中間発表、75杯差の1位。

 プロ野球も売り子も、ペナントはフタを開けてみなければわからない。日本一のホークスにマリーンズが17勝することもあれば、完全ノーマークの女の子がトップに立ってしまう事もある。

 9月6日。決勝リーグの中間発表、1位にはななの名前があった。

「途中経過をみて驚きました。確かに9月になってからはコンスタントに200杯を越え、300杯に届く日も出てきました。うん。でも、表にはリリースされていないんですけど、ここからすぐに2位に落ちるんです。サッポロビールのりかさんが1位になって、一時は100杯ぐらいの差が開いていました。だから最後まで気が安まらなくて……最終決戦の9月23日、24日は緊張でずっとおなかが痛かったです」

 9月23日、福浦和也の引退試合。スタンドが超満員に膨れ上がるこのメモリアルゲームでななは自己最多の370杯を更新すると、翌最終戦の24日を前に最終の途中経過が発表される。

 3234杯。それは再びトップに返り咲いた証だった。しかし2位のりかさんとはわずか75杯差。気を抜けば1日で逆転されてしまう僅差だった。

最後の最後に笑顔を押し殺した。

 9月24日のパ・リーグ最終戦。

 千葉ロッテvs.埼玉西武の試合は、西武が勝てば優勝。ロッテが勝てばCS出場が決定するという互いに譲れない一戦。超満員の観衆で埋まったZOZOマリンのスタンドは、売り子ペナント最後の戦いの舞台としてこれ以上ない環境だった。

「この試合はマリーンズのCSがかかっていたので、私も同じ気持ちで戦っていました。スタンドにいると、みんなが声を掛けてくれるんですね。『いま1位なんでしょ、応援してるよ』、『今日で最後だろ、がんばれ』と、1年前には誰も知らなかったスタンドでした。でも、この1年で私に声を掛けてくれる常連さんがたくさんできていたんです。それが何よりも嬉しかった」

 この試合、マリーンズは序盤から大量失点し7回裏が終了して3−12。マリーンズが敗色濃厚のなか、売り子ペナントレースは終了を迎えた。バックへ戻りチェッカーさんに杯数の計算をお願いすると、結果が出るまでの30分の記憶はほとんどない。グラウンドでは優勝を決めたライオンズナインが辻監督を胴上げしているようだった。

 やがてくたくたになっているななの下に、関係者が小走りに駆け寄ってくると、上ずった声で耳打ちをした。

「おめでとう。ななさんが優勝です」

 その瞬間、飛びあがりそうになるよろこびの感情が沸き起こったが、ななはそれを必死に押し殺した。この待機場所にはアサヒビールだけでなく、サッポロビールやコカ・コーラの3社の人たちがいるのだ。

 しかも今日は最終戦。今季で売り子を引退する先輩たちもたくさんいる。その人たちが別れを惜しんでいる最中に、勝ったからといってひとり浮かれるわけにはいかない。

「ありがとうございました」

 1年間、笑顔であり続けたななは、最後の最後にグッと笑顔を押し殺し、湧き出て来る涙を噛み締めると、精一杯の感謝を小さな声で述べた。

ハンデがなければ、1位は今井さやかだった。


 ちなみにこの日のななの記録は、自己最多を再び大きく更新している。412。その3つの数を足すと、ナナになったのは、何の因果だろうか。新女王となったななやんに、敗れた女王・今井さやかが歩み寄る。

「おめでとう。がんばったわね」

 ななの涙腺は崩壊寸前だった。ああ、なんて大きな人なのだろう。やはり私はこの人にはかなわない。年数ハンデのない、純粋な杯数の勝負ならば1位は今井さやかだった。敗れて言い訳をしない今井こそ本当の女王なのだろう。この戦いの後、今井は新女王のななをこのように評している。

「ななちゃんは可愛くて笑顔もキュート。ビール販売中は笑顔を絶やさず仕事に対する熱意のある、とってもいい子です。来年も切磋琢磨しながら一緒に頑張っていけたらいいなあと思っています」

 さすが。さすがである。

ハワイ旅行よりフェニックスリーグ?

 さて、ペナントレースの優勝賞品はハワイホノルル2泊3日の旅行。11月17日のファン感謝デーで贈呈される。ななはこのハワイ旅行を子供の頃にマリンへ連れてきてくれた両親をはじめ家族でいくことに決めているとか。

「ハワイも嬉しいんですけど、いまは宮崎のフェニックスリーグと来年の石垣キャンプに行くことの方が楽しみです。来年は……どうでしょうね。ただ、今年私が勝てたことは、さやかさんをはじめ、アサヒの先輩たちがすごくやさしくいろんなことを教えてくれたからです。だから今度は私が新しく入ってきた後輩たちにいろいろと教えてあげられるようになりたいですね」

 誰もいない記者会見場。アスリート然と答えるななに、最後の質問をぶつけた。

——優勝を決めた最終戦。あなたがうったタマはなんですか?

「売ったものは日本一美味しいZOZOマリンのビール。届けたものは笑顔です」

 千葉マリンは日本でも屈指のビールが美味しい野球場である。海風を浴びながら飲むビール。その泡の向こう側に映る新女王のなな、そして今井さやかやりか、近藤先生をはじめとする売り子たちは一体どんな戦いを見せてくれるのだろうか。

 来年のZOZOマリン。売り子界のエースは。その前に売り子ペナントはやるのか。新エースをねらえ――2020に続く。

文=村瀬秀信

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2 コメント

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Unknown (ロッテ墓)
2019-11-08 22:37:39
鈴木大地への評価は本記事にあるような表現が正論なのであり、
正に万人が賛嘆すべき不世出のプレイヤーだと思います。

残念なのは現政権の、この現ミスターロッテに対する扱いであり、安定性、万能性、リーダーシップを備えた大地選手へ
のプライオリティを間違えていると思います。

大地本人がご両親から授かったこの生き方なりを死に物狂いで体現してきたと思うし、プライドを侵された
と心の奥で感じているのではないかと悔しさを感じる一人です。

なだけにマリーンズファンの誰もが最終的には大地の最終決断を尊重するんだと思います。
同時にマリーンズからは絶対に失いたくない。
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野球守備以外の…外野の喧騒 (ささどん)
2019-11-10 11:13:25
ロッテ墓さん♪

チーム1,2を争う人気選手の大地くん。
大地くんのFA行使の記事に悲喜こもごも、一喜一憂、時に辛辣…。
冷静に静観できないのは、ファンとしては愛するが故に仕方ないのかもしれませんね。
今回のFAに複数球団が獲得に動いたこと。
複雑ではありつつも、他球団から大地くんを評価してもらえていることに嬉しさを感じていることも事実です。

数字だけでその価値を表せられない唯一無二の存在。
それを各球団に正しく評価して頂けると有難いです。
ただ記事にされているような、あまりにも高騰しすぎる金額競争はちょっと違うのかな。。。(;Д;)

とは言え、大地くんの人生は現役生活だけじゃなく、その先も続くわけですし、じっくり考えて後悔のない選択をしてほしいですね。
(そしてその決断がロッテ残留なら本当に嬉しいですが。。。)


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