拾い読み★2012-089≪コラム記事≫

【スギのみぞ知る】ロッテ“ドラ１”藤岡の素顔…実は太鼓の達人





　昨秋のドラフト１位で３球団が競合し、即戦力として前評判が高かったロッテの左腕、藤岡貴裕投手（２２）。開幕ローテーション入りも決め、先発３番手として毎週、観客が多い日曜のマウンドを任されるようだ。

　実は私の長男・拓耶（２２）は、東洋大野球部で藤岡と同期生だった。藤岡の投球を初めて見たのも、息子の応援に神宮球場に行った５年前の新人大会だ。スタンドにいたヤクルトのスカウトは、群馬・桐生一高時代から藤岡に注目していた。「この子はたぶん、プロに行きますよ」と教えてくれた。小気味のいい投球とスライダーには光るものがあったが、当時の球速は１４０キロに満たなかった。

　急成長したのは２年の冬。息子いわく「かなり走り込んで、体が一気に大きくなった。特にケツがでかくなった」。息子とともに先日、本拠地のＱＶＣマリンに激励に行き、私も間近で「でかくなったな」と実感した。本人に当時の話を聞くと、東洋大の高橋昭雄監督に“ダメ出し”され、発奮した結果だという。

　高橋監督は練習中のブルペンで、楽天・永井、ソフトバンク・大場、日本ハム・乾といった歴代の東洋大のエースと比較して、「２年までに活躍していない投手は、上でやっていけない。おまえはもうダメだ」とばっさりやったそうだ。それで藤岡は「見返してやろうと思った」という。意識を変えて練習に取り組み、走り込みと体幹の強化で一冬を超えると体のサイズが大幅にアップした。

　藤岡は「今あるのは高橋監督のおかげです、と言っておかないと」と苦笑いした。向こうっ気はかなり強いタイプだ。これも息子の証言だが、試合中に監督がマウンドに来てハッパをかけても、萎縮するどころかいらだちを態度に出す。その後は球速が１０キロも上がるなど、投球内容が全く見違えるそうだ。

　こうしたマウンドでの表情は、普段の藤岡を知る人ほど信じられないだろう。陽気に人なつこい笑顔を振りまき、どこかホワンとして抜けているところもある。寮の自室では「太鼓の達人」という音楽ゲームにのめり込み、野球部一のバチさばきを見せるとか。

　「両親も本人もＡＢ型。二重人格なんじゃないの。僕から見ると、ちょっと変わったところもあるし」と息子がふると、藤岡は「野球をやっているときと普段ではだいぶ違うと思う。でも自分はそんなに変わってないと思うけど…」と笑っていた。変わり者ほど自覚がないというが、ＡＢ型は数が少ない割に大成した選手が多い。

　自己分析では「マイペースだと思う。人がどうとかよりは自分がしたいかどうかで動くので」。登板前に緊張したことがないという強心臓は、４月１日に予定されるプロ初登板初先発に向けても「ヒーローインタビューで何を言うか、考えておきます」と飄々と話す。

　東洋大の猛練習で鍛えられただけあって、プロの練習でリタイアすることもなく開幕を迎える。西本聖投手コーチは「完成されている投手。戦力として計算している」と期待を寄せている。私も「１０勝は最低目標だな」と藤岡に伝えた。

　今年の新人ではナンバーワンの投手だと思うし、新人王も当確を出したいくらい。唯一の心配は、大学時代はシーズンオフだった夏場だ。バテないように、しっかり対策してほしいと思う。

　■ふじおか・たかひろ　１９８９年７月１７日、群馬県渋川市生まれ、２２歳。桐生一高で野手から投手に転向し、２年夏と３年春の甲子園に出場。東洋大では１年春から出場し最速１５３キロの速球とスライダー、カーブを武器に東都大学リーグで通算２７勝９敗、防御率１・９１、３２３奪三振。ＭＶＰ２度受賞。昨秋のドラフトではロッテ、横浜ＤｅＮＡ、楽天が１位指名した。背番号１８。左投左打。１８３センチ、８５キロ。

　■杉村繁（すぎむら・しげる）　１９５７年７月３１日、高知市生まれ。高知高時代は小柄なスラッガーとして「土佐の怪童」の異名を取り、高校３年時の１９７５年春の甲子園決勝では、原辰徳を擁する東海大相模高を自らの決勝打で破り優勝。同年ドラフトでヤクルトに１位指名され入団。８７年限りで現役引退後は長く球団広報を務めた。００－０７年はヤクルト、０８－１１年は横浜で打撃コーチなどを担当し青木宣親、内川聖一らを指導。水島新司氏の野球漫画「ドカベン」に登場する微笑三太郎のモデル。今年から本紙評論家を務める。

（zakzak）