紙芝居のおっちゃんが死んだ。
大腸がんで急死したのだとか。享年69歳。
ローカル的なこのニュースをたまたま見ることになった。
本当の終焉を報せるかのように。
おっちゃんはやっさんと呼ばれていた。
やっさんの紙芝居は良かった。それは子供が自ら考える紙芝居だった。
この世は実に不公平だとか、理不尽なことはいっぱいあるとか、それを独特の言い回しで、
妙な説得力で、景品をあげながら喋っていた様が一番印象的だった。
やっさんの本業は紙芝居だが、長い間、土日楽校をやっていた。
おそらくは問題をかかえてやって来たのだろう子供達や父兄相手に、自分の教育哲学を通した。一通り話を聞いていて、実に納得のいく教育現場だと感心した。
卒業して、大人になって、やっさんを慕って、能勢に移住して来た者もいた。
私は紹介されただけだからやっさんのことをよく知っているわけではない。
が、会ったのは一回こっきりでも、実は別の意味で、もしかするととてもよく知っているとも言える。なぜなら、その一回は本質に迫る会談だったからだ。
その日主人は、やっさんのお師匠さんや取り巻きのいる所で寝てしまった。
それがすべてを物語っていた。
話は実はうまく核心にふれないところで行われた。
やっさんは政治家だった。やっさんは実業家だった。
だから人は期待した。人気もあった。その時の私達に政治は必要なかったが、人は無償のものより有償のものを有難がる傾向にあり、ビジネス的発想は何より好まれる。
生まれつきそのように教育されているからだが、それに気付かない自分がある。
気付く必要もない者達の集まりというのがある。
異端者がそこに入ると、さっきまで子供のようだった人が、警戒心あらわになって、全く言葉を発さない。そういうことはよくある。子供のように喋る場なのにである。
異端者の本質を探ろうとするのだ。
彼らはおそらく自分をリーダー的資質だと思って行動するが、
私達の目に彼らは俗物に映る。
死者を鞭打とうというのではない。
私はやっさんより若者を信じたかったし、事実そうすると伝えた。
ただ「人生五十年」と決めていた私の、五十以降の人生があの日を境に決まったから、
忘れられない一夜があったことを振り返ってみたのだ。
それは今となっては、苦い馬鹿げた思い出でもある。
理想を説いていたその人は亡くなったが、
彼の教え子達はそこに根付き、そこで頑張っていくのだろう。
私の理想はもうあの地にはなく、あれ以来、心の中のものだけになった。
大腸がんで急死したのだとか。享年69歳。
ローカル的なこのニュースをたまたま見ることになった。
本当の終焉を報せるかのように。
おっちゃんはやっさんと呼ばれていた。
やっさんの紙芝居は良かった。それは子供が自ら考える紙芝居だった。
この世は実に不公平だとか、理不尽なことはいっぱいあるとか、それを独特の言い回しで、
妙な説得力で、景品をあげながら喋っていた様が一番印象的だった。
やっさんの本業は紙芝居だが、長い間、土日楽校をやっていた。
おそらくは問題をかかえてやって来たのだろう子供達や父兄相手に、自分の教育哲学を通した。一通り話を聞いていて、実に納得のいく教育現場だと感心した。
卒業して、大人になって、やっさんを慕って、能勢に移住して来た者もいた。
私は紹介されただけだからやっさんのことをよく知っているわけではない。
が、会ったのは一回こっきりでも、実は別の意味で、もしかするととてもよく知っているとも言える。なぜなら、その一回は本質に迫る会談だったからだ。
その日主人は、やっさんのお師匠さんや取り巻きのいる所で寝てしまった。
それがすべてを物語っていた。
話は実はうまく核心にふれないところで行われた。
やっさんは政治家だった。やっさんは実業家だった。
だから人は期待した。人気もあった。その時の私達に政治は必要なかったが、人は無償のものより有償のものを有難がる傾向にあり、ビジネス的発想は何より好まれる。
生まれつきそのように教育されているからだが、それに気付かない自分がある。
気付く必要もない者達の集まりというのがある。
異端者がそこに入ると、さっきまで子供のようだった人が、警戒心あらわになって、全く言葉を発さない。そういうことはよくある。子供のように喋る場なのにである。
異端者の本質を探ろうとするのだ。
彼らはおそらく自分をリーダー的資質だと思って行動するが、
私達の目に彼らは俗物に映る。
死者を鞭打とうというのではない。
私はやっさんより若者を信じたかったし、事実そうすると伝えた。
ただ「人生五十年」と決めていた私の、五十以降の人生があの日を境に決まったから、
忘れられない一夜があったことを振り返ってみたのだ。
それは今となっては、苦い馬鹿げた思い出でもある。
理想を説いていたその人は亡くなったが、
彼の教え子達はそこに根付き、そこで頑張っていくのだろう。
私の理想はもうあの地にはなく、あれ以来、心の中のものだけになった。