見出し画像

ミセスローゼンの道後日記

えらいこつちやえらいこつちやと流氷来

えらいこっちゃ。
パスオーバー(ジューイッシュホリデー)に、朗善先生が家族を下宿に招くことになったよ。といっても、息子と娘とはすでに会った。初めて会うのは、先生の元妻でコロンビア大露文科出のマギー。彼女はこの数年、先生が誘っても誘ってもここに寄りつかなかった、それなのに今回、「下宿人の十七子がさ、トルストイよりドストエフスキーのほうが偉大だと言ってるんだが、君どう思う? 十七子はなおサイデンステッカーのゲンジ観についても君とは異論があるみたいだよ、君とそのことでどうしても話したがってるんだが、来ませんかね?」と挑戦的なことを先生が言ったら、即座に「行きますよ」と返事したそうだ。オーマイガー。英語もロクに喋れない私にロシ文学者と対等にトルストイを語れと言いますか? ああ、さいですか? サイデンステッカーの「美しい日本の私」訳について私見でもさらさらーっと述べましょーか、なーんて、できるわけないやろっ。ぼけかすっ。あんたは極めつけの調子もんか何かか? と英語でぽんぽーんと言ってやりたいよ、トルストイのほうが立派な作家に決まっとるやろ、ドストエフスキーはエンタメのイロハも知らん抜けさくやろ、トルストイの千倍純粋やけれども、だいたい今日も今日や。仕事帰りにパン買いに行ったら、パン屋の店先で売りもんのバケットで地べたついて、よぼよぼ歩くまねしてボケかましよるから、しかたなーく、「そうそう、おじいさんが杖ついてよぼよぼ歩くんやつな、ってちゃうやろ、ケインとちゃう、そらバケットや」と言わされてしまったやん。運送屋のバイト級にへとへとの私に、英語でツッコミさすなよ。これからバケーション行くから水着がどこにあるか教えてーとか聞いてくんなよ、どいつもこいつもと、一瞬切れそうになった。
しかし、なんせ数年ぶりに朗善一家四人が一堂に介して食事するというから、めでたいことはめでたい。
料理はもちろん先生が担当する。先生は気がきくようできかない。ダイニングには折りたたみ式一人用テーブルしかないし椅子も二脚しかない、人数分の皿はあるがフォークがない。それなのに魚の心配ばかりしてる。それが最重要事項だと言う。何より先に居間を片づけてしまいたと私は思う。涼しい居間で何かつまみつつシャンパンでも飲んでもらいたい。マギーはチェーホフも嫌いで、詩人のアンナ・アフマートヴァが好きらしいよ、私はプーシキンしか読んだことないし、えらいこっちゃ。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「日記」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事