ミセスローゼンの道後日記

蜘蛛の巣にまみれし月下美人かな


NHK俳句マスターズの美人プロデューサー成見由紀子さんと、松山名物鯛そうめんの五志喜 にて。

今日はニックの誕生日なので、思い出話を一つ。
六年前の初冬、私はタイムズスクエア近くの古本屋でアルバイトし、リバーデールというアイルランド人とユダヤ人が半々くらいに住む街の古いアパートで、ニックとルームシェアをしていた。毎朝チェロの音階練習に起こされ、ニックの淹れたコーヒーを飲み、ピーナッツバター&ジェリーサンドイッチと林檎の紙袋を手渡され、ハドソン川沿いの駅まで車で送って貰い、夜も迎えに来て貰い、何とかかんとか英語で接客しながら、日本の本を売ったり買ったりしていた。家に帰ると、がたがたのダイニングテーブルの上に、ニックの作ったサラダや魚料理が、栓を開けたてのワインと共に待っていた。娘達に毎日会えない以外は楽しい日々だった。しかし、離婚と共に私の健康保険や歯科保険が無くなり、もし病気や虫歯になれば、死んだ方がマシ?と思うくらい高額の医療費を払わねばならない。アルバイト料がとんでく家賃を払い続けたら、日本に帰って人生やり直す資金が尽きてしまう。寂しいけど、ニックとお別れして、国民健康保険と姉と母の待つ日本へ帰国しようと決心し、ニックに打ち明けた。数日後、バイト先から帰ると夕飯が無かった。その代わりニックが小さな箱をくれた。さ、これをつけてお洒落して、マンハッタンへディナーに行こう!箱の中身は真珠のピアス。私の頭の中に、松任谷由実の歌が流れた。お別れディナー、と私は悟った。そして最後の最後まで楽しく過ごそうと誓った。
地下鉄の階段で、信じられないくらい巨大などぶネズミに出会った。不思議と怖くなかった。シンデレラの馬車ネズミか、不思議の国のアリスの兎のような感じに見えたのを記憶している。
コロンバスサークルのフレンチレストラン、パ・セに着き、待合席に通され、金髪の美女が輝く微笑で、私にピンクシャンパンを手渡して叫んだ。
ご婚約おめでとうございまぁす!
やんなっちゃうな、まだだよ、今から言うとこだったのに、とニックが美女をやんわり制し、白い絨毯にゆっくり膝をつき、ゆっくり懐から別の小箱を取り出し、何が起こってるのか信じられない私の目の前に差し出した。ニックはもう片方の手を胸に当て、Will you marry me? と私にたずね、にこにこした。この笑顔を前に、でも私は日本に帰るの、健康保険が、なんて無粋なことは言えない。お別れディナーを装う為に真珠のピアスまで用意するニックのパフォーマー魂! クライマックスを台なしにしたくない! と私のパフォーマー魂が囁いた。Yes、と私は答えた。金髪美女がもう一度叫んだ。
というわけで、弾みで結婚はしたが、日本に来てからも我々の暮らしはあまり変わらない。気持ちはルームメイトのままである。

コメント一覧

朗善
Re:おめでとうございます
他のドキドキならいいですが、ニックの山巡りはもう終わりにして欲しいです。あとは富士山に登るくらいですかね~。
更紗
おめでとうございます
ニックったらなんてニクイ演出!
「ニューヨーク日記」をドキドキして読んでた頃を思い出しました。
途絶えた更新。久々の再開。
そして・・・え?ん???ええ~っ!!なんと!!♪♪
人生何が起こるやら、面白いですね。
まだまだドキドキさせてください~。

朗善
Re:おめでとうございます
蘭ちゃんの恋話もこんど聞かせてね!
香雪蘭
おめでとうございます
なんかええ話ですね!
ニックも朗善さんもおめでとう!
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