ボリショイ劇場 & シドニ-オペラハウス観劇記

元モスクワ、現在シドニ-赴任の元商社マンによるボリショイ劇場やシドニ-オペラハウスなどのバレエ、オペラ観劇記です

新国立劇場バレエ団 『パゴダの王子』 2011年10月30日(日)

2011年11月02日 | Weblog

Nさんより寄稿頂きました。
ビントレー監督による世界初演『パゴダの王子』初日を
観ていらしたそうです。
なかなか不思議なバレエだったとのこと。


新国立劇場バレエ団 『パゴダの王子』2011年10月30日(日)
さくら姫:小野絢子
王子:福岡雄大
皇后エピーヌ:湯川麻美子
皇帝:堀登

北の王(ロシア):八幡顕光
東の王(中国):古川和則
西の王(アメリカ):マイレン・トレウバエフ
南の王(アフリカ):菅野英男

道化:吉本泰久

宮廷官吏:厚地康雄

雲:西川貴子 北原亜希 千歳美香子 川口藍 成田遥
  古川和則 輪島拓也 アンダーシュ・ハンマル 小柴富久修
  田中俊太朗 原健太 宝満直也 宇賀大将(交替出演)

星:大和雅美 石山沙央理 奥田花純 五月女遥 盆子原美奈 益田裕子

泡:さいとう美帆 高橋有里 寺島まゆみ 寺田亜沙子 堀口純
  丸尾孝子 井倉真未 加藤朋子 柴田知世 細田千晶

タツノオトシゴ:八幡顕光 江本拓 奥村康祐 福田圭吾
         小口邦明 清水裕三郎 林田翔平(交替出演)

深海:貝川鐵夫 厚地康雄

炎:大和雅美 奥田花純 盆子原美奈 益田裕子

舞踊部門芸術監督であるデヴィッド・ビントレーによる
『パゴダの王子』世界初演初日を鑑賞した。
以前にマクミランが振付けたものとは全くの別物で、
和の要素が詰まった作品に仕上がった。

さくら姫の小野さんは可憐で奥ゆかしく、
日本人形のような愛らしさがあった。
同時に、姫でありながらも皇后に反抗して
海や炎などあらゆる場所を乗り越えていく勇敢さを持った
魅力ある女性であった。

自然界を駆け抜けていく場面では、
終始同じ衣装でありながらもそれぞれの自然の一員のように
身体を自在に操り、見事であった。
さくら姫は終始白地の落ち着いた色合いの衣装だが、
華やかな衣装のダンサーに囲まれていても
真珠のような輝きとまろやかな気品満ちていて、
存在感が光っていた。

王子の福岡さんはまず登場が颯爽としていて、
静かな舞台をぱっと明るくさせる光のようであった。
そして、望まぬ結婚を迫られるさくら姫を救出するべく現れたヒーローの如き
凛とした姿で、水色の着物も似合っていた。

小野さんと福岡さんはペアを組む機会が増えてきただけに
最後の難易度の高いパ・ド・ドゥにおいても息がよく合い、
ファーストキャストに相応しい踊りであった。

エピーヌの湯川さんは物語を引っ張るキーパーソンとして
大活躍であった。
和装、洋装どちらにおいても艶やかな踊りで魅せ、
さくら姫を追う場での自然への変幻自在ぶりは凄まじく、
舞台の格をぐっと引き上げていた。
さくら姫や幼い王子への仕打ちも容赦なく、
物語の悲劇の部分を際立たせて厚みを加えていた。

東西南北の王達は国籍も衣装も個性豊かで、
特に西の王(アメリカ)のきらびやかさは
日本の宮廷内で目立つ。
さくら姫にとってどの方角の王も
これまでに見たことも無い地域の人であり、
怯えてしまうのも頷けた。

英国人が思い浮かべる日本文化をどうバレエに取り入れるのか、
『パゴダの王子』を日本を舞台にしたバレエとして
新たに作り直すというニュースが入ったときから
やや不安な思いではあったのだが、
バレエとして魅せるのはいかに難しいことであるかを痛感させられた。

1幕は平安時代の設定ようで、長い着物を着たダンサーが勢揃いし
今にも蹴鞠や歌会が始まるかのような雰囲気である。
しかしながら重量感のある裾の長い着物である分、動きが制限されて
日本舞踊のような踊りが繰り広げられるため、
バレエを観に来た者としては物足りなさを感じてしまうのが
正直なところである。

またこの時代、どう考えても星条旗のアメリカは無く、
アフリカから人が来日したとは聞いたことが無い。
平安に浮世絵を結びつけたり、
終盤にさくら姫と王子が力を合わせる場面で
孫悟空のような世界が広がっているなど、
違和感を覚えずにいられない箇所は多々あった。
英国と日本、それぞれの視点の溝を埋めるのは
困難なようだ。

対して3幕の着物は薄地で動き易い作りなため、
バレエらしい動きによる大団円が繰り広げられて安心した次第である。
大きな動きによって翻る裾が美しく、見栄えがした。
日本を舞台設定にしつつも、もう少しこういった
クラシックバレエの要素が占める割合が高ければ
全体に静と動のメリハリが付いて
バレエ作品としてより楽しめたのではないかと思う。

ブリテンの音楽は抑揚が少なくやや冗長に感じたものの、
奥ゆかしさといった日本の美徳とバリの響きが良い具合に混ざり合った
不思議な曲が満載であった。
変拍子が多くカウントが非常に大変そうであるが、
ダンサー達は皆ビントレーの期待に応えていた。
大きな拍手を送りたい。

作品のインスピレーションは歌川国芳の絵から得たとビントレーは語っていた。
衣装や踊りからは期待したほどは伝わってこなかったが、
背景画の波のうねりなどは通じるものを感じた。

作品の要所要所で水木しげるさんの作品を思わせる
妖怪4人組が登場するのだが、
強面ながらもどこか愛嬌があり、なかなか可愛らしい。
動きがユーモラスで笑いをも誘っていた。

突っ込み所を挙げたら切りが無いが、
ここは歴史年表や教科書を頭から切り離し、時代考証を一切せず
鑑賞に臨むことをおすすめする。
世にも不思議な和洋折衷の世界を堪能できるであろう。

次は長田佳世さん、芳賀望さん主演である。
先日のガラでは2演目で主要な役を踊り、来年3月の
アンナ・カレーニナのヒロイン役に決まった長田さんと、
山本さんの代役として主役に挑む芳賀さんが
どんな舞台を作り出すのか、楽しみである

 



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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
久しぶりのNさんのレポート (aruyaranaiyara)
2011-11-05 11:21:13
大変楽しみにお待ちしてました。

いつもながらの、客観的な表現は、お見事と言うしかないですが、、、。
今回は、新作ならではの、戸惑いを含めた私的な思いが垣間見えて、なにやら嬉しく思いました。

私は元来、アブストラクト、アバンギャルド?的なものが大好きなので、面白く楽しめました。

ただ、Nさんのおっしゃる、
>日本舞踊のような踊りが繰り広げられるため、物足りなさを感じてしまう。

全く同感で、この手の日本モノは、バレエにする時の衣装関係で、かなりの苦戦を強いられますね。

>孫悟空のような世界が広がっているなど、、、。

これも、?が点きましたね。
私にはカンフーにしか見えず、バレエとしてはいかがなものかと思いました。

>英国と日本、それぞれの視点の溝を埋めるのは困難なようだ。

まったく、埋まってませんでした。

>水木しげるさんの作品を思わせる妖怪4人組が登場するのだが、強面ながらもどこか愛嬌があり

ほんと、ほんと!
このキャラの登場で、舞台が、不思議な心地良い空間に変わり、楽しめました。
私の隣の異国の人が、あのバクテリア達は面白いと、絶賛でしたね。

今回は、かなり私見の入った、Nさんのレポート、
今まで以上に興味深く楽しめました。
ありがとうございます。


返信する
ありがとうございました (管理人)
2011-11-06 08:20:07
Aruyaranaiyaraさん
早速コメントありがとうございました。
ご覧になったのですね。
先ほどUPしましたが1日、3日の分の
Nさんの寄稿もUpしましたので
是非感想お寄せください。
返信する
コメントありがとうございます ()
2011-11-06 23:16:03
aruyaranaiyara様

Nです。
この度もコメントお寄せいただき
まことにありがとうございます。
隅々まで丁寧にお読みくださっていることが伝わり、
大変感激いたしました。

>私にはカンフーにしか見えず、
バレエとしてはいかがなものかと思いました。

そうですね、確かに。
日本刀であればまだ良かったのではと思います。
ただ福岡さんのアクションスターも顔負けの
ジャンプキックはキレ味抜群で、
ヒーローそのものでした。

>私の隣の異国の人が、
あのバクテリア達は面白いと、絶賛でしたね。

バクテリアという呼び方が興味深い表現ですね。
妖怪の外国語訳はなかなか難しそうです。
彼らが舞台に良いスパイスを与え、
音楽が今も脳内を回っています。
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