雲海に浮かぶ「天空の城」、あるいは「日本のマチュピチュ」として竹田城跡(兵庫県)がまたたく間に人気観光地化したのは記憶に新しい。しかし世界に目を転じると、ロマンあふれる天空の城は、まだまだある。
世界各地から特に幻想的な44の城を集めた『世界の天空の城』(青幻舎刊)は、奇跡的瞬間をとらえた写真とともに、城にまつわる栄枯盛衰の歴史をコンパクトに解説。時の権力者の夢や野望に思いをはせ、旅心をそそる一冊だ。ちなみに、お城への行き方がおおまかにわかる「プチガイド」付き。
断崖絶壁の上にたつ、イタリア・リミニの<サンレオ城砦>は圧巻。築城は15世紀だが、特殊な地形ゆえに17世紀からは牢獄として使われたという。1795年、ここで獄死したのが希代の詐欺師と呼ばれ、マリー・アントワネットを巻き込んだ「首飾り事件」にも関わったカリオストロ。この城砦は、宮崎駿監督のアニメ『ルパン三世 カリオストロの城』のモデルとしてもよく知られている。
天空の城といえば「ラピュタ」を想起する人も多いのでは。ジブリ映画『天空の城ラピュタ』には、真偽のほどはわからないが、モデルとされる場所が世界各地にある。
そのひとつが、スロバキア東部の丘にそびえる<スピシュ城>。12世紀、タタール人の襲来に備えて築かれた城塞は時代ごとに拡大、強固なものにされていったが、1780年の火災で廃墟と化したという。周りは見渡す限りの大草原。静かにたたずむ廃城はまさに、兵どもが夢の跡。
アラビアのロレンスが「世界で最も素晴らしい城」とたたえたというシリアの<クラック・デ・シュヴァリエ(騎士の砦)>も、ラピュタのモデルのひとつとされる。12世紀、十字軍(聖ヨハネ騎士団)の拠点となった要塞で、広大なパルミラ遺跡や隣国レバノンまで見渡せるという。
アニメのモデルといえば、英北部スコットランド、北海に突き出す絶壁に築かれた<ダノター城>も味わい深い古城だ。築城は14世紀。本書によれば、ディズニー&ピクサーによる冒険ファンタジー映画『メリダとおそろしの森』のモデルであり、メル・ギブソン主演の映画『ハムレット』のロケ地でもあるという。
こうして見ると、夢のような天空の城はファンタジーと切っても切れない関係にあるようだ。「狂王」ことバイエルン国王ルートヴィヒ2世がメルヘンの世界を具現化させた<ノイシュヴァンシュタイン城>は、シンデレラ城のモデルと言われている。ドイツ皇帝を生み出したホーエンツォレルン家の居城で、現在もその子孫が所有するという<ホーエンツォレルン城>も、霧の中に浮かぶ姿がこの上なく神秘的だ。
風化が進み、崩壊が危ぶまれる「死にゆく城塞都市」も。イタリア・ラツィオ州の<チヴィタ・ディ・バーニョレージョ>は、今から2500年以上も前にエトルリア人によって築かれた城塞都市。今も暮らしている人がいるそうだが、早めに訪れてみたい街だ。
日本が誇る「天空の城」もいくつか紹介されている。竹田城跡のほか、白い雪と霧に包まれた福井県の<越前大野城>、司馬遼太郎が美しさをたたえたという岐阜県の<郡上八幡城>、現存天守を持つ山城としては最も高い所にある岡山県の<備中松山城>…。
なぜ人はこんな過酷な場所に城を築いたのか。天空の城への興味はつきない。(文化部 黒沢綾子)