男から女になった未悠さん(22) 大学卒業、そして社会人に…

中川未悠さん(2018年4月/東根歩夢撮影)

 幼少期から男性であることに違和感を持っていた未悠さん。高校で両親に告白。大学には女装をして通い、3年生のときに性別適合手術を受けた。今春大学を卒業し、アパレル会社に就職した。未悠さんのこれまでを動画と共に紹介する。

■ずっと女になりたかった

 阪神大震災が起きた1995年に神戸市長田区で生まれた中川悠哉。幼稚園の頃に気づいたオチンチンがあることへの違和感は、男性器そのものへの嫌悪感を生んだ。自慰の経験もない。中学生になると女友達と化粧のまねごとを始めた。高校生の頃には女性に「戻る」ことを決断、手術に必要な費用を準備するため蕎麦屋でアルバイトに励んだ。大学に入ると女装し、ホルモン注射も始めた。

 両親にカミングアウトしたのは高校2年のとき。父親は泣いた。母親は複雑な気持ちを抱きながらも「男の子と女の子、二人子どもをもったと考えればいい」と、応援する側に回ってくれた。一方、友人たちは温かい理解を示した。それは未悠が「隠さず、構えず、飾らず」を貫き、自らの思いを曝け出す勇気をもっていたからだ。周辺の人たちは自然に未悠の理解者になっていった。大学のサポートもあった。教師たちは話し合い、名前の呼び方を「中川くん」から「中ちゃん」に変えた。女性トイレの使用にあたっては学生たちに了解を求めた。

 「完全な女性として社会に出たい」未悠の思いを受け、性別適合手術は3回生の春休みに行なわれた。術後のケアには半年を要した。2017年5月、男性から女性への戸籍変更受理の通知が裁判所から届いた。

ナグモクリニック名古屋:山口悟院長・性別適合手術の様子/田中幸夫撮影ナグモクリニック名古屋:山口悟院長・性別適合手術の様子/田中幸夫撮影

■日本では、なぜ性別適合手術が遅れているのか

 昔はモロッコ、現在はタイのバンコクが本場と言われる性別適合手術、なぜ日本は遅れているのか。

「それは歴史的経緯があるから」と、未悠の担当医・山口悟医師は語る。「1964年の通称ブルーボーイ事件。日本の産婦人科の医師が十分な診察をせず手術を行ない、優生保護法違反により逮捕され有罪に。それ以降、性転換手術はアンダーグラウンドに追いやられたのです」

 それから30年、1998年に埼玉医科大学でオフィシャルなかたちでは日本初の性転換手術が実施された。が、手術数が大きく増えることはなかった。それは手術が保険適用外のため病院や医師側のリスクが大きく、それ故、何よりも経験が問われる手術そのものの場が少なかった。結果として、日本は大きく遅れることになったのである。

 2020年の東京オリンピック開催を控え、ここ数年の性的少数者問題への社会的関心は高い。行政や企業のLGBTへの取り組みも進んだ。今年2018年4月、性別適合手術が保険適用に。岡山大学で適用後初めての手術も行なわれた。

シンポジウムに参加/渡辺望撮影シンポジウムに参加/渡辺望撮影

■夢を叶える人生への第一歩

 大学のファッションデザイン学科では企画を専攻した未悠。3回生から始めた就職活動は「自分が本当にしたいことは何か」を考える良い機会になるともに、LGBTに対する社会の無理解、偏見にも遭遇することになった。東京で行なわれた企業説明会では担当者の口先だけのLGBT対策に失望、神戸に帰る新幹線の中でビールを呷った。デザイン業界、ウエディング業界、アパレル業界…何十もの企業を回った結果、関西にセレクトショップを展開するアパレル会社ガルシアに就職を決めた。何よりも、能力と人柄をストレートに評価してくれたことが嬉しかった。専務取締役の梅木典子は「明るく元気で人見知りしない。新しいデザインの企画と製作にも携わってもらうつもりです」それに応えて未悠は「早く一人前になって、もっと信頼される人間になりたい」と語る。

 未悠は仕事の傍ら、自らの経験を伝える活動やシンポジウムにも積極的に参加する。筆者が彼女に密着して撮ったドキュメンタリー映画「女になる」が2017年10月に上映されたこともあり、東京や九州、北海道など、全国各地から声が掛かるようになった。「私と同じ悩みをもつ人たちを元気にしたい!」未悠の女性としての人生は今、始まったばかりだ。

*中川未悠(みゆ)

1995年 中川悠哉として神戸に生まれる

     地元の小学校、中学校、高校を経て…

2014年 神戸芸術工科大学ファッションデザイン学科に入学

2015年 ホルモン注射を始める

2017年 2月 名古屋で性別適合手術を受ける

    5月 男性から女性への戸籍変更が受理される   

2018年 3月 大学卒業 

    4月 アパレル会社に就職

*「女になる」 映画公式サイト onnaninaru.com

 2017年 劇場公開  2018年 全国各地でホール上映開始

  

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