私が12歳で中学一年の時に郷ひろみさんはデビューした。
自分の青春は中学の時から始まったと考えているので、
想い出のバックには郷ひろみさんのみならず
色々な方の音楽があるのだけれど、
なぜか郷ひろみさんがよかった。し、
今でもあの頃と同じ気持ちで聴き入ることが出来る
唯一のアーティストだ。
高校の時だった。
友達の身内の方が松竹に勤めていた関係で
友達と行くと、松竹映画撮影所に入れた。
同じ市内にあったし、気軽に行けた。
かなりの人気歌手が撮影所に出入りしていたので、
門の外でファンが待っていることも多々あった。
そんな中、私たちは、
「おはようございます」と
スイスイと守衛さんの前を通り受付をパスして入っていった。
制服姿で夕方の撮影所に、
おはようございます、も可笑しなものだった。
いくら人気のある歌手や俳優が来ていても、
自分の目当ての人がいないと
つまらなかった。
「ひろみさんが来てる」との連絡(どこからだよ~)が入って
慌てて学校の帰り駆けつけた日があった。
けど、撮影を見ることは出来なかった。
帰ろうとした時、ひろみさんの車を
砂利の敷き詰めた駐車場に見つけた。
その当時、ひろみさんは、
メタリックブルーのフェアレディーZ、2シーターに
乗っていた。
見つけた車に間違いは無く、
ご本人に会ったら、渡そうと思っていた
ファンレターなるものと
御守(ひろみさんは遅くなった大学受験を控えていた)を
車のドアの隙間に入れてみた。
けど、大きくて目立つし、すぐに下に落ちそうだった。
結果、「がんばってください」と書いたメモと
御守だけをドアの隙間に挟んだ。
ドアを開けて、下に落ちたのに気が付かず
砂利に埋まってしまったかもしれないし、
挟まっているのに気が付いて、一旦は手にしたかもしれない。
あの御守はどうなったのだろうか、と今でも時々思う。
そして、一人で笑ってしまう。
そんなことがあった何日か後だった。
またまた、ご連絡が。
その日はひろみさんファンの友達Nっぺと二人で
撮影所に出向いた。
勿論学校帰りだったからセーラー服のまま。
名前を言ってくれれば入れるから、と
撮影所のコネ主である友達は
ひろみさんのファンでもなかったので行かなかった。
撮影所について、ドキドキしながら、受付へ。
「おはようございます」
「は~い。だれ目当て?」
「ひろみさんです」
「今から箱根にロケだよ」
「えーーー、もう出ちゃったんですか?」
「今行くとこ。」
は~ぁ、ガックリ、とうなだれた二人の前に、
メタリックブルーのZがススッと近づいてきて・・・・・
撮影所の門が開いた!
自分達の横を通った。
何が何だかわからず、思いっきり手を振った。
車の助手席の窓がスーッと下がって、左の手が振られた。
その場には私たち二人しかいなかったので、
私たちに向かって振っていることは間違いなかった。
かなり長く振っていてくれた。
見守る車が小さくなっても、手だけが車から出ているのが見えていた。
車が見えなくなるまで
千切れるほどに手を振りかえす私たち。
その場に残されて
一瞬ボ~ッと立っていたが、
「きゃ~ぁ!!」と言って、Nっぺと
二人で向かい合い、手を取り合ってピョンピョン跳ねた。
ウレシイ瞬間だった。
わざわざ窓を下げて手を振ってくれた、というだけで
満足だった。
その瞬間が私たち二人と、
ひろみさんとひろみさんの車を運転していた人の4人だけの
空間だったことが、なんか良かった。
Nっぺと、「明日から勉強頑張ろう!」と
約束した。
30年もの歳月が流れたけど、
この日のこの事は今でも鮮明に憶えている。
Nっぺも、きっとこの日の事は憶えていると思う。
そして、この事は、私の中では、
「見た」のではなく
「出会った」事として胸にしまってある。
自分勝手な大変都合のいい話だ。
勉強が頑張れたかどうか、も疑問が残るけど、
他の人にはわからない、不思議な力が湧いたことは
確かなような気がする。
10代の頃の気持ちってこんなものだったかな。