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『流浪の月』、言葉が出ない

2020-02-18 | 2022夏まで ~本~
凪良ゆう『流浪の月』(東京創元社)。

読み終えて、言葉をなくし・・・涙も出ませんでした。
何気なく見ていた表紙の意味がわかり、
ただただ、切なくなりました。

表紙の写真は、アイスクリーム・・・です。
ああ、これが,この小説を象徴するのだなぁと・・・


第一章「少女のはなし」は客観視点。
第二章からは「彼女のはなし」「彼のはなし」で、それぞれ、語り手が変わります。

「彼女」は更紗、「彼」は文。

更紗は、小学校四年生の時、ロリコン趣味の男・文に誘拐され
数ヶ月後、文の逮捕で、解放された・・・と報道されている。

でも、更紗が本当に解放されたかったのは、
伯母の家からだったのです。

更紗は、奔放ながらも、両親から愛情を注がれ、幸せな家庭で育ちました。
ところが、父を亡くし、母に棄てられてから暗転。
伯母の家では、従兄によって、人に言えぬ苦しみまで味わっていました。

そんな暮らしから逃げたくて、
更紗は、自分の意思で、文の元にとどまったのです。

文は、世間が考えるような犯罪者ではなく、きちんとした青年でした。
ただ、幼い更紗には、彼も人には言えない何かを抱えていることだけしか、
わかりませんでしたが・・・

十数年後、二人は再会します。

更紗は、同棲相手から結婚を迫られているときでした。
事件以来、他人からの無遠慮な視線や、優しげな言葉に傷つくことにも馴れ、
更紗は、自分を殺して生きていました。

そして、文との暮らしだけが、孤独な少女時代に自分らしくいられた時だと
折に触れて思い出していたのです。

文との再会によって、同棲相手は嫉妬に荒れ狂い、更紗に暴力を振るいます。
文には、おとなの女性の恋人もいました。
周囲の人間は、更紗を案じ、あれこれ説得しようとしますが・・・

出会わなければ良かったと、人は言うかも知れないけれど・・・
更紗は・・・
そして、文にとっては・・・


・・・という小説です。

読んでいて、とにかく、苦しくて苦しくて・・・
更紗と文の置かれている状況にだけではありません。
私はどうなのだろうか?と、ずっと問い続けていたからです。

事件を興味本位に語らないだろうか?
自分の価値観で、物事を見ていないだろうか?
善意からでも、他人に、自分の価値観を押しつけていないだろうか?

意識的にではなくとも、無意識のレベルでは、どう?
・・・全部、イエスかも・・・・・(「かも」じゃなくて「絶対だね・・・)

昨今、多様性を認めていこうという動きが出ていますが・・・
その一方で、声の大きな人たちの意見が通っていくような気がしています。
そんな不安が、二人の姿に象徴されているようで・・・

とにかく、苦しくてたまりませんでした。


だからといって、この小説や作者が嫌いなのではありません。
むしろ逆で・・・こういったものの見方を示すことが出来るのは・・・
あたたかな心があればこそ・・・だと思うのです。

そして、二人は、どんなに苦しくとも、辛くとも、
出会えたことが絶対に幸せだったと・・・
結末の力強さから、それがうかがえ、羨ましいようでした。


人と人との結びつきは、従来のモデルだけでは、もう縛り切れないんだなぁ・・・
そういった形を受け入れる、少なくとも批判しない、
そんな心の柔らかさ、みずみずしさを、兼ね備えた人ありたい・・・

どんどん、かたくなになりそうな、年齢にさしかかった今、
自戒と共に、願ってやみません。



初めて読むどころか、初めて聞いた作者の名前でしたが、
どっひゃあ・・・な筆力・・・読ませる力に、ぐいぐい引きつけられました。
これから、別の作品も読んでみます♫

また、本作は、本屋大賞候補の一作です。
読み応えがあり、従来なら、十分、大賞に値すると思います。
さて、今年はどうでしょう?

まずは、他の作品も読んでみなくちゃねw

◆書影は版元ドットコムよりお借りしました。

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お読みいただき、どうもありがとうございました。
もう少し余裕ができるまで、コメント欄など非表示にさせてくださいね。
一方通行のブログでごめんなさい。

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