水川青話 by Yuko Kato

時事ネタやエンタテインメントなどの話題を。タイトルは勝海舟の「氷川清話」のもじりです。

・「ハミルトン」のこと (6)

2017-04-08 18:16:59 | Hamilton

(5から続き)

<第二幕>

 

(アメリカという実験。新政府、産みの苦しみ。ライバルとなるジェファーソンがフランスから帰国。強い連邦政府の財政基盤を固めたいハミルトンと、州政府の権限を強化したいジェファーソンたちとの対立。ワシントンは引退してハミルトンは後ろ盾を失う。敵対する第2代マディソン大統領に解任されたハミルトンは、憲法解釈や政策提言書を書きまくるが、焦りとともに疲弊していく。そしてそんな中で、美人局にひっかかってしまう。しかもその情報を誤解したバーたちが、公金横領の疑いでハミルトンに圧力をかけようとしたため、ハミルトンは確かに不倫はしたが金銭的には潔白だと一部始終を公表してしまう。世間に公表された文書を通じて夫の裏切りを知ったイライザは……)

 

15. 「Burn」

(イライザ)

あなたが書いてくれた手紙は全部とってある

読んだ瞬間から

あなたは私のものだって分かってた

僕は君のものだってあなたは言ったし

あなたは私のものだって思ってた

 

あなたから最初の手紙が届いたとき

アンジェリカがなんて言ったか知ってる?

 

「あの男には気をつけて

生き延びるために何でもする男よ」って

 

あなたとあなたの言葉が

私の感覚に流れ込んであふれかえった

あなたの文章に私は抗いようもなかった

段落を積みあげてあなたはお城を造り

大聖堂を築き上げた

 

あなたが書いた手紙を繰り返し読んでいるの

一行一行に答えがないかと必死に探しているの

何か印がないか

あなたが私のものだったとき

世界はまるで

 

燃えるようで

燃えるようで

 

あの人の手紙をあなたは出版してしまった

あの子をどうやって私たちの寝床に連れ込んだか

あなたは世界中に知らせてしまった

自分の名誉を晴らしたいばかりに

私たちの暮らしをボロボロにした

あなたが何をしでかしたか知って

アンジェリカがなんて言ったと思う?

「あなたはイカロスと結婚したのよ

 彼は太陽に近づきすぎた」って

 

あなたとたくさんの言葉

自分が何を後世に残すのかばかり気にして

文章はほとんど意味をなさない

すべての段落で気がふれたみたいに

自分がどう見られてるか疑いまくって

 

何もかも自分、自分、自分のことばかり

 

私はあなたの物語から自分を消します

未来の歴史家たちは首をかしげればいい

あなたがイライザの心を打ち砕いたとき

彼女はどう反応したのか

あなたは私の心を八つ裂きにしたの

私の目の前で

燃え尽きていく

燃え尽きていく

世間には私の心を知る権利などない

私たちの寝床に世間を入らせたりしない

私がなんて言ったか世間に教えたりしない

私は思い出を燃やします

あなたを救ったかもしれない手紙を燃やします

私の心へのすべての権利をあなたは放棄したの

私たちの寝床への権利もあなたは放棄したの

あなたは自分の書斎で寝なさい

思い出だけを抱えて

自分が私のものだったときの

あなたも燃えてしまうといい

  

(不倫スキャンダルで地に堕ちた父の名誉を回復しようと、父親を侮辱した相手とフィリップが決闘することに。ハミルトンは決闘立会人としてのかつての経験から、10を数えたら空に向かって撃ちなさい、そうすればお互いを傷つけることなく名誉も守られると息子に教える。ほとんどのいさかいはそうやって誰も撃たないまま、解消されるのだからと。フィリップはその通りにして、そして撃たれる。駆けつけたハミルトンとイライザは危篤の息子の前で久しぶりに再会。フィリップは、両親に看取られながら死んでしまう)

 

18. 「It’s Quiet Uptown」 

(アンジェリカ)

言葉がとても届かない瞬間もある

名前がつけられないほど恐ろしい苦しみもある

自分の子供をできる限りきつく抱きしめて

想像もつかないことを押しのける

あまりに深いぬかるみにはまってしまい

ただ下流に泳ぐ方が楽な気がするときもある

 

(アンジェリカ、コーラス)

ハミルトン一家はアップタウン(NY市内の北側)に引っ越した

そして想像もつかないことを受け入れようとした

 

(ハミルトン)

僕は庭で何時間もすごす

店までひとりで歩く

アップタウンは静かだ

静かなのはずっと嫌いだった

日曜には子供たちを教会に連れて行く

入り口で十字を切って

そして祈る

前にはなかったことだ

 

(アンジェリカと女性コーラス)

通りで彼を見かけたら

ひとりで歩いている

独り言をつぶやいている彼を見かけたら

哀れんであげて

 

(ハミルトン)

フィリップ、君ならここが気に入るよ

アップタウンは静かだ

 

(アンジェリカと女性コーラス)

想像もつかないことを受け止めようとしている

 

(男性コーラス)

髪が白くなった 毎日をやりすごしている

市内を縦に歩いているらしい

 

(ハミルトン)

君に僕はやられてグダグダだ

 

(カンパニー)

想像できる?

 

(ハミルトン)

僕たちが今どこにいるか見て

僕たちがどこから出発したのか見て

自分が君にふさわしくないのは分かってる

でもイライザ、聞いて

それだけで十分だから

 

あの子を助けられるなら

自分の命を引き換えにできるなら

あの子は今ここにいるはずだ

そうすれば君は笑って

それだけで十分だから

 

分かったふりをするつもりはない

この大変な出来事が何なのか

なくしたものはもう取り返しがつかない

君には時間が必要だ

でも僕は心配してない

自分が誰と結婚したのか分かってるから

ただこうして君のそばにいさせて

それだけで十分だから

 

(カンパニー)

通りで彼を見かけたら

ひとりで歩いている

独り言をつぶやいている彼を見かけたら

哀れんであげて

 

(ハミルトン)

イライザ、ここは好き?

アップタウンは静かだ

 

(カンパニー)

想像もつかないことをやろうとしている

公園を歩く2人を見て

すっかり暗くなったあとも

市内の様子を眺めている

 

(ハミルトン)

まわりを見渡して

まわりを見渡して

イライザ

 

(カンパニー)

2人して想像もつかないことを

やろうとしている

 

(アンジェリカ)

言葉がとても届かない瞬間もある

名前がつけられないほど力強い恩寵もある

決して理解できないものを押しのけて

想像もつかないことを押しのける

 

2人は庭に立っている

イライザの隣にアレクサンダー

イライザが彼の手をとる

 

(イライザ)

アップタウンは静かね

 

(カンパニー)

許しを……想像できる?

 

許しを……想像できる?

 

通りで彼を見かけたら

彼女の隣で歩いている彼を

彼女の隣でささやいている彼を見かけたら

哀れんであげて

2人は想像もつかないことを経験しているのだから

  

(……この曲の「forgiveness…」で毎度泣くんだけど、ただでさえ泣いていたNYでは「…………!!」と変な声が漏れた)

 

(第3代大統領選びで、ハミルトンはジェファーソン支持を表明。ジェファーソンの言うことにはこれまでことごとく反対してきたが、ジェファーソンには信念がある。一方のアーロン・バーは何も信じていない、そんな男を自分は大統領に支持できないからと。これまで何度となく自分の出世をハミルトンに妨げられてきたと逆恨みしているバーは、ついにハミルトンに決闘を申し込む。ハドソン川の向こう、ニュージャージーで)

 

22. 「The World Was Wide Enough」

(前半の「Ten Duel Commandments」と同じ曲調、歌詞で始まる。一幕でバーが歌う信条宣言のような「Wait For It」のレプリーズも。ほかに、幼いフィリップとイライザがフランス語で1~10を数える曲「Take a Break」も二幕の前半に)

 

(カンパニー)

1、2、3、4、5、6、7、8、9……

 

(バー)

10のことを

知っておく必要がある

 

(カンパニー)

ナンバー1!

 

(バー)

夜明けと共にハドソン川を渡った

友人のウィリアム・P・ヴァンネスが付き添ってくれた

私の……

 

(カンパニー)

ナンバー2!

 

(バー)

……として

ハミルトンも同行者をつれてきた

ナサニエル・ペンドルトンと知り合いの医者だ

 

(カンパニー)

ナンバー3!

 

(バー)

ハミルトンが現場の様子を点検するのを見ていた

奴の頭の中で何が起きているか言えたら

こいつは私の政治活動を邪魔してきた!

 

(カンパニー)

大半のいさかいは立ち消えになって

誰も撃たない

ナンバー4!

 

(バー)

最初に構える権利を得たのはハミルトンだ

使命をかかえた男に世界には見えただろう

こいつは狙撃手の腕前の軍人だ

医者は背を向けた

知らなかったと言うために

 

(カンパニー)

5!

 

(バー)

当時は知らなかったことだが

でも私たちは

 

(バー、フィリップ)

あなたの息子が死んだ

同じ場所に近くにいた

だからなのか

 

(ハミルトン)

息子が死んだ同じ場所の近くだった

だからなのか

 

(カンパニー)

6!

 

(バー)

だから銃をあれほどとことん

点検したのか?

ひきがねを正確にためす様子を

私は眺めていた

 

(カンパニー)

7!

 

(バー)

告白の時間?

私の言い訳はこうだ

私の軍隊仲間はみな言うだろう

私は射撃がすごく下手なんだと

 

(カンパニー)

 

ナンバー8!

 

(バー、ハミルトン、男性陣)

交渉する最後のチャンスだ

付添人に話をさせろ

ここでカタをつけられるかどうか

 

(バー)

このことは学校で教えないが

調べてみろ

ハミルトンは眼鏡をかけてた

どうして? 正確に私を撃ち殺すためじゃないのか?

あいつか私か 生き残るのはひとりだ

世界は二度ともとに戻らない

殺戮の前に私の頭にはたったひとつだけ

この男にはやらせない

娘を孤児にはさせない

 

(カンパニー)

ナンバー9!

 

(バー)

相手の目を見つめてそれより上を狙うな

ありったけの勇気を振り絞って

そして数えろ

 

(カンパニー)

1、2、3、4、5、6、7、8、9

10歩あるいて! 撃て!

 

(ハミルトン)

あまりに死を想像しすぎて

もはや死は思い出のような気さえする

ここでつかまるのか?

立ったまま? 数フィート先で?

やってくるのが見える

逃げるか銃を撃つか

あるがままにするのか

ビートがない メロディもない

バー、最初の友達で仇敵

もしかしてこの世で目にする最後の顔

自分の一発を無駄にしたら

僕はこのことで記憶されるのか?

自分が後世に残すのはこの銃弾だったら?

 

後世に残すって 残すって何のことだ

それは決して見ることがかなわない庭に

種を植えるこどあた

僕は歌の出だしに音符をいくつか書いた

いつか誰かが僕のために歌ってくれる曲

アメリカ、この偉大なる未完成の交響曲

あなたが僕を呼び寄せてくれた

あなたのおかげで僕は 少しでも世界を変えられた

たとえ孤児の移民でも 指紋を付けて立ち上がれる

そんな場所

そろそろ時間切れだ 僕は走ってる

時間がない もう上がりだ

割り切って 上を見ろ

(I’m running out of time. I’m running, and my time’s up. Wise up. Eyes Up ー言葉遊び、語呂合わせ、とても訳しきれない)

 

向こう側の様子がちらっと見える

ローレンスが向こう側で兵士のコーラスを指揮してる

息子が向こう側にいる

母さんと向こう側にいる

ワシントンが向こう側で見つめてる

 

さよならの言い方を教えて

 

立ち上がって 立ち上がって 立ち上がって

イライザ

 

愛しい人 ゆっくりとでいいから

向こう側で会おうね

自由にグラスを捧げて

 

(バー、カンパニー)

銃を空に向けたぞ

 

(バー)

待って!

 

(バー)

あいつのあばらの間に命中させた

近づいてみるが 引き離されてしまった

ハドソン川を渡って彼を運んだらしい

私は酒を飲みにいった

 

通りで泣き声が聞こえる

「隠れた方がいい」と誰かに言われる

 

聞いた話では

 

(バー、アンジェリカ)

アンジェリカとイライザ

 

(バー)

臨終のときに二人ともそばにいたらしい

死は差別しない

罪人も聖人も

ただひたすら奪って奪って奪って

歴史は抹消する

あらゆる歴史の絵の中で

私はあらゆる過ちと共に描かれる

アレクサンダーが空に銃を向けたとき

最初に死んだのは彼かもしれない

でもその代償を払ったのは私だ

 

私は生き延びた しかし代償を払った

 

今や私は

皆さんの歴史の中の悪役だ

私は若すぎて ちゃんと見えていなかった

なぜ分からなかった

なぜ分からなかった

ハミルトンと私が二人ともいられるくらい

世界はじゅうぶん広かったのに

ハミルトンと私が二人ともいられるくらい

世界はじゅうぶん広かったのに

 

23「Who Lives Who Dies, Who Tells Your Story」

(第一幕でワシントンが歌う「History Has Its Eyes On You」など、劇中の様々な曲のモチーフがリフレインされる)

 

(ワシントン)

教えてあげよう

若くて栄光を夢見ていたころに

知っていれば良かったと思うことを

自分ではどうしようもできないんだ

 

(ワシントン)

誰が生きて

誰が死ぬか

誰が自分の物語を語るのか

 

(バー)

ジェファーソン大統領

 

(ジェファーソン)

これだけは認めてやろう

彼が作った金融システムは

天才のわざだ

やろうとしても解体できない

やろうとしたんだ

 

(ワシントン、カンパニー)

誰が生きて

誰が死ぬか

誰が自分の物語を語るのか

 

(バー)

マディソン大統領

 

(マディソン)

この国を金融破綻から救い

繁栄をもたらした

認めたくないが

彼がどれほどこの国に信用(credit)を与えたか

まったくきちんと評価(credit)されていない

 

(ワシントン、カンパニー)

誰が生きて

誰が死ぬか

誰が自分の物語を語るのか

 

(アンジェリカ)

ほかの建国の父は全員、物語を語ってもらえる

ほかの建国の父は全員、年寄りになるまで生きられた

 

(バー)

そしてあなたがいなくなったら

誰があなたの名前を覚えていてくれる?

誰があなたの炎を燃やし続ける?

 

(カンパニー)

誰があなたの物語を語る

誰があなたの物語を語る

あなたの物語を

 

(女性たち)

イライザ

 

(イライザ)

私は物語の中に戻ります

 

(女性たち)

イライザ

 

(イライザ)

もう涙で時間を無駄にしない

あと50年は生きるので

それでも足りない

 

(カンパニー全員)

イライザ

  

(イライザ)

あなたと共に戦った

すべての兵士に話を聞いた

 

(マリガン、ラファイエット、ローレンス)

僕たちの物語を語ってくれる

 

(イライザ)

あなたが書き残した何千ページもの文章

なんとか理解して整理してみた

本当にあなたったら

せき立てられるみたいに

書いていたから

まるで足りないみたいに

 

(イライザとカンパニー)

時間が

 

(イライザ)

私が頼るのは

 

(イライザ、アンジェリカ)

アンジェリカ

 

(イライザ)

姉さんが生きている間は

 

(イライザ、アンジェリカ)

2人であなたの物語を語った

 

(イライザ)

彼女はトリニティー教会に埋葬された

 

(イライザ、アンジェリカ)

あなたのそばに

 

(イライザ)

私が特に助けてほしかったとき

姉さんはしっかり

 

(イライザ、カンパニー)

間に合って

 

(イライザ)

それでもまだ終わりじゃない

あなたなら何をしただろうって自分に聞くの

あなたにもっと

 

(イライザ、カンパニー)

時間があったら

 

(イライザ)

お優しい神様は

あなたがいつも欲しかったものを

私にくれた

神様は私にもっと

 

(イライザ、カンパニー)

時間をくれた

 

(イライザ)

私は首都でワシントン記念碑を

建てる資金を集めた

 

(ワシントン)

私の物語を語ってくれる

 

(イライザ)

私は奴隷制に反対した

あなたならもっともっと色々なことができたのに

もっと

 

(イライザ、カンパニー)

時間さえあれば

 

(イライザ)

そして私の時間が尽きるとき

私は十分やったかしら?

 

(イライザ、カンパニー)

私たちの物語を語ってくれるかしら?

 

(イライザ)

そうだ

私の一番の自慢を見せてもいい?

 

(カンパニー)

孤児院を

 

(イライザ)

私はニューヨーク初の

民営孤児院を設立したの

  

(カンパニー)

孤児院を

 

(イライザ)

何百人もの子供たちを手伝って育てた

子供たちが大きくなるのを見守れた

 

(カンパニー)

孤児院を

 

(イライザ)

あの子たちの瞳にあなたを見るの、アレクサンダー

私はあなたを見るの どんな

 

(イライザ、カンパニー)

時でも

 

(イライザ)

そして私の時間が尽きるとき

もう十分やったと言える?

私の物語を誰か語ってくれるかしら?

 

ああ、早くまたあなたに会いたい

あと少しだけ 過ぎるのを待てばいいのね

 

(イライザ、カンパニー)

時間が

 

(カンパニー)

あなたの物語を語ってくれる?

誰が生きて誰が死ぬのか

誰があなたの物語を語ってくれるのか

 

誰が生きて誰が死ぬのか

誰があなたの物語を語ってくれるのか

 

 

 

<終幕>

 

 

 

(もう、この最後の曲の「the orphanage....」は……。初めて聴いたとき、朝の通勤中だったけど、歩道で声を上げてしゃがみ込んで泣いてしまったし、NYで観たときも分かってても声が漏れたし、これを訳していても、音楽はかけてなかったのに、涙が溢れ出て作業をしばらく中断した)

A Celebration of the Original Broadway Cast of Hamilton