キ上の空論

小説もどきや日常などの雑文・覚え書きです。

くらい

2016年01月06日 | リハビリ企画
 サナルドは彼の国で闇色を意味する言葉らしい。本名ではないものの、髪と目の色と一致しているためか、さして他の名で呼ぶ必要もない。
 夜の中にいても、空よりその色は濃い。
 寝付けずに散歩をしようと宿の外に出たら、見回りついでにそれとなくついてきた。
 成り行き上、王族貴族ばかりが一行に名を連ねている。力は負債に通じる。破壊神を封印するために創造神が残したものを、たまたま手に取った祖先がいたらしい。結果地位を得て、結果その借りを返すために世界中を回ることになった。借りたのは自分ではないが、誰かが返さないと文字通り丸ごと滅ぶ。一族の者が平穏を取り戻したとなれば、国に残った(面倒ごとを押しつけたとも言う)連中も喜ぶだろう。もののついでに死んでくれれば、なおのこと。
 サナルドの国の色は鮮やかな青だ。王と近衛は、特徴のある肩の部位が大きくなっている青い鎧をまとって戦場を駆ける。しかしながら、一行でまじめに甲冑を装着しているのはダルダ・ロナシアただ一人。ランファ王家にしか許されていない首・腰・袖に特徴のある布を使った活発に動くのに適さないドレスを着るラティーナも大概だが(これっぽっちも忍んでいない)、羽織っている打掛が目立ちすぎるランも充分おかしい。最初は王女の護衛として簡易ではあっても武装していたフィルバートも一応武器は持っているというくらい。けったいな髪と目の色の自分を含めると、外観がちぐはぐすぎて目立つことこの上ない。
 その中にいて、一人だけ地味な出で立ちをしているから却って目を引くらしく、一行に用件のある者はまずサナルドに声をかける。
 正装をしていれば、おそらく一番話しかけにくい雰囲気をそれだけで身にまとうことは想像に難くないのだが。
 だいたいちょうど話しかけやすいところに、話しかけやすそうな顔をしている。
「そんなに地味か」
 サナルドは良く見れば仕立ての良い服をまじまじと見る。
 俺は自分の口許に手をやった。特に他に集中の要るものはないから、開いてはいない。
「言っておこうと思っていたのだが、機を逸していた。だいたいのことはわかる。そういうのが付随する者も中にはいるようだ」
 これはアレだ。手短に説明しようとして色々抜け落ちすぎて却ってわかりにくくなってるやつだ。
 サナルドは眉間にしわを寄せて考え込んでしまった。
 知ってた。このおっさんは色々タイミングが良すぎる。時々要らんこともするが、他の連中にとってはありがたくもあるはずだ。だから。
 知っているはずだ。俺は破壊神との戦いでそこそこ役に立ちつつ死ぬために国を追い出されてきたと。人間の体に先祖返りのように現れた力はどうしても合わない。
「これはヴァーヴェイン王から借りたものだ。返しに来いと仰せだった。私は」
 服の話に遡った。意図しない感情の返りでもあったのか、また止まる。
「誰かに力を使わねば、無駄に丈夫に生まれた意味もないのだ」
 聖王は守護神の、邪王は守護魔の影響がそれなりにあると言うが、どんな守護神がいたらこんなのができるんだか。
 丈夫に無駄なんてない。そこにいるだけでと言われる立場なら当然。
「守護神はいない。刑死したと聞いた。だから邪王と守護魔を倒せと意味のわからないことを言ってきた神族の誰ぞかは、大陸から放り出した」
 わからなくはないだろう。神族と魔族の力の均衡を図りたい、でもちょっとだけ自分の方を有利にって話だ。原因が自爆ならバカもいいところだが。
「神族の言うことはわからないが、君の言いたいことはだいたいわかる」
 理解不要。最初の聖王に本気で斬られたのか。あと二人の聖王を同じようにこじらせたら神族終了のお知らせ。
「君の先祖に切られるだけのことはある連中だったということだ。彼らが伝承の通りの存在ならば、今の君の状態を解決するのに何の記録も、方法も残っていないはずがない」
 それはいくら何でも夢を見すぎというものだ。
「聖王は辞めた。が、力は残った。ならば他の仕事を探すしかあるまい」
 大まじめに言っているが、辞めて良いものと辞められると大変なことになるものがあって、これは後者。
「守護神もいないのでは名も役に立つものか怪しい。きっぱり辞めると決めた方が、良いものもある」
 言葉が含む別の意味が、ようやく届いた。
「人の心は読むのに、伝えるのはあんまり上手くないんだな」
「よく言われる」
 考える時間くらいはもう少し稼げそうだ。
 極彩色にゆがんだ遠い空が、明日の目的地。


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時間切れでした……。フィルバートの名前を忘れて過去の資料を探すのに時間がかかりました。
四半世紀前の自分に記録はしっかりしてくれと頼みたいところです。

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