キ上の空論

小説もどきや日常などの雑文・覚え書きです。

告げ口

2006年12月20日 | みるいら
 電話口の兄さんの言葉はやけに歯切れが悪い。
 レポートを書く手が留守になっているのは、盗み聞きのためではなく、単に書くことを思いつかないからだ。
 哲学は男の学問だとか言った人がいたけど、嘘っぱちなんじゃなかろうか。石飛に「イデア論て、分子の構造図を思い出さない?」と言われたとき、ぼくは彼女の思考回路を本気で疑った。何語で話しかけられたかわからなかった。多分、高校で化学は習わなかったせいだと思う。思うことにした。
「実鳥」
 突然呼ばれて顔を上げると、兄さんが手招きしている。
 仕方なくこたつを出て、受話器を受け取る。
 電話は河合さんからだった。どうして歯切れが悪かったのか、なんとなくわかった。
 近況と、今レポートに詰まっていることを伝えると、
「そんな風に悩めるのは学生のうちだけだからね」笑っているのが伝わって来るような声だ。
 それから「なんだか決まり文句みたいだけど」と言い添えた。
 ぼくが鼻をすすったのに気づいたのか、「風邪かい?」と問う。
 河合さんの声を聞いていると何だか安心する。
「寒いだけです。エアコンないんで」
 兄さんがハッとぼくの方を向いたのが気配でわかった。
 ごめん、もう言っちゃった。

 二つの部屋両方にエアコンが設置されたのは、その翌日。
 河合さん、行動が早すぎ。でも、ありがとう。


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2007年1月10日ジャンルを変更。

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