今回が5回目の東京医科大学病院 渡航者医療センター主催、渡航医学実用セミナー。私はこれで4回目の参加です。ベトナム・ロシアと各地の医療事情を勉強し、今回はインドです。インド…ここでは「なんでもアリ」。世界2位の人口12億人を有する大国ですが、特に近年の人口増加率は伸びており、インドで暮らす日本人の数もこの5年ほどで2倍に増えています。日本人学校ももう満杯状態だということです。
元・医務官として世界各地に赴任した経験を持つ、渡航者医療センターの水野 康孝先生からインド渡航者へのアドバイスをいただきました。水野先生がまずインドと聞いて頭に浮かぶのが、長年の経験から「腸チフス」。
インドに観光で行く方の多くが、ニューデリーからいろいろ回ってガンジス川というのが一般的なようです。これは、以前テレビのトーク番組で聞いたのですが、このガンジス川で沐浴して、次の日から激しい下痢に襲われたというのが、俳優の榎木孝明さん。彼は古武術も本格的で、旅にも慣れており、インドは何回も行っているのに、それでもこういうことになってしまう。こういうリスクを抱えているのが、インドです。
チクングニヤというのがあります。発熱と関節痛、時に頭痛や嘔吐を伴い、特に関節痛は時には1か月以上続く場合もあります。主な媒体はデング熱と同じネッタイシマカやヒトスジシマカです。日本にもいる蚊なので、日本に入ってくる可能性もあるようです。
特にインドでは輸入耐性菌が危惧されます。この耐性菌はNDM1などの大腸菌などで認められていますが、異種の菌にもこの耐性遺伝子が乗り移る怖さを持っています。インドからの帰国者から多剤耐性菌が検出される割合が他国に比べ異常に多いことがわかっています。近年は英国でも感染が認められており、ロンドンオリンピックでの人の流れが気になるところです。
インドの医療機関状況については、日本総研の海老澤淳氏からの報告がありました。インドでまず考えなければいけないのが、貧富の差です。未だに4割程度の国民が医療サービスにアクセスできず、あるいはアクセスしようとしない状況があります。実際に、祈祷や生贄に頼る人たちも多いのです。低所得者層には政府の提供するクリニックで原則無料で医療を受けられますが、施設はお粗末なものです。公立病院と私立病院の割合は今や逆転し、大資本の医療グループがその勢力を伸ばしています。富裕者層には日本に引けをとらないホテル並みの環境と高度な医療技術が提供されます。しかし、インドにはまだ日本人医師や医療通訳がいないため、日本の医療の高度な管理技術・ホスピタリティを輸出したいというのが、現状のようです。
最後に渡航者医療センター センター長である濱田篤郎先生から、海外渡航者のワクチン接種ABCの基礎編をセミナーいただきました。このセミナーの参加者はほとんどが産業医などの医療関係者です。彼らが渡航が決まった社員に対して、どのワクチンを勧めるか…悩むところです。これに正解はないようですが、いかにリスクを減らすかというのが、第一目的です。短期滞在か長期滞在か、どの地区に滞在し、どの地区に足を延ばすか。渡航者の年齢と性別、既往症、健康状態、そしてワクチン接種歴も必要です。会社からいくらの補助が出るかも現実的な問題です。
※東京医科大学病院 渡航者医療センター http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/index.html