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SIMPLE LIFE

小説、映画、テレビなどへの個人的所見などを。(ほぼ独断)

それにしてもDARLIN'

2019-06-09 17:05:05 | 田原俊彦
前の記事で宇多田さんの「嫉妬されるべき人生」が日本のPOPSの頂点かもって書いた私でしたが
いや、そうじゃない!実は26年前に、すでに到達してたっ!て思ってるの、実は
これも、完全な私論ですの。ええ、いくらでも笑って
山下達郎さんとか、そういうミュージシャンの曲じゃない
何故かトシちゃんの一曲にそれを見出すのは、私ぐらいでしょうけど
いいのっ、やっぱり誰も読まないんだから(笑)好きに論じさせて
ただ単に、私が、この曲が好きすぎるだけかもしれないけど

この「それにしてもDARLIN'」は、93年に発売された「MORE ELECTRIC」のラストナンバー
そうっ!気が付きました?私はアルバムのラストナンバーにやられる節がある
これで、このアルバムが最後っていう寂しさが付きまとうじゃん、やっぱり
それに、どんなアーチストも歌手も、最後の曲は、オープニング曲とともに力の入った曲を持ってくる
でもってね、この「MORE ELECTRIC」は、多分、彼が独立する前に出した、最後のオリジナルアルバムじゃないかな
そういうことも重なって、なんとも言えない気持ちになるのよ
歌詞がね…とにかく歌詞が、そうさせるの
きっと、トシちゃんは、な~んも考えずに歌ってた気がする(笑)
暢気そうだもん、つかいちいち考えてたら、やっておれん!て言いそう

一見、普通の曲なんですよ、これ
取り立ててどうということはない感じがするの
このアルバムの他の曲が、結構変化球が多いので、それに比べると直球かも…って
ところが、聴けば聴くほど味わい深いのよ、私には
絶妙なバランスで出来上がってるの
曲調は元気いっぱい、と言いますか、派手で明るいといってもいい
ところが、歌詞は、スゲー暗いの!
前の記事の「嫉妬されるべき人生」の逆なんです
あれは、暗~いメロディに、恋の始まり、幸せ一杯!っていう歌詞が乗っかっている
この「それにしてもDARLIN'」は、明るくて派手なメロディに、恋を失った男の嘆きを乗せている
このセンス!誰?このアルバムのディレクター、この人天才よ!
何もかもが、ぴっちりと収まって、最高の一曲になっている
明るいメロディにちょっぴりのペーソスを滲ませる作曲家
自分勝手な男の怒りと悲しみのモノローグを紡ぐ作詞家
そして、完璧な編曲!
全員、毎度おなじみの方々ですが、それをこのディレクターが奇跡的な手腕でまとめて、このアルバムを締めくくるの
何というか、この終末感に打ちのめされる自分がいる
終わり、終わり…って宣言されてる気がするの、色んな意味で
こんな元気にトシちゃんが歌ってるのに、何故か泣きたくなる
弱ってるときは、キツイわ、実際(笑)

このアルバムは、凄く贅沢に作られている気がするんです
作家陣もそうですけど、とにかく編曲が凄い
「MORE ELECTRIC」っていうから、テクノミュージックなのかと思うと、全然そうじゃない
印象としては70年代のファンクを準えているのかな
だから、コンピューターではなく、生のブラスが全面に押し出されている
もう、カッコいいのなんのって!
だって、80年代終わりから、90年代初めなんて、ユーロビートに代表される打ち込み系が主流だったころですよ
なのに、このアルバムのアナログ感
サイコーっしょ!やっぱり生楽器の演奏でしょ!って言いたくなる
ブラスだって、弦だって、全部コンピューターで作れちゃうときに、あえて人間に奏でてもらう
贅沢よ~だって、やっぱり一番高いのは人件費だもの(笑)
でもって、この「それにしてもDARLIN'」も、ブラスバンバン鳴ってるんですけど
他の曲がファンク系、70年代ブラックミュージック的なノリであるのに
この曲は、それとも違うの
これはブラスロックでしょ!シカゴとかBS&Tとか
やる?90年代に、それもトシちゃんのアルバムでそれをやる?
やるんだな~で、カッコいいんだなあ(しみじみ)

でも、それだけじゃない、この曲の凄さは
このバリバリの洋楽志向に乗っかってくる歌詞がね…
松井五郎さん、あなたは、もうもう…って言いたくなるの
だって、単なる失恋ソングに、このフレーズ

さよならだけが人生なのか

まさか、ここで井伏鱒二?!
俺、振られたんだわ、って歌詞に鱒二?
それもさ、井伏鱒二の詩は「さよならだけが人生だ」って言ってるのに
この歌詞は、そうなの?ホントにそう?って尋ねてる
いや、嘆いてる
ホントはそうだって、今女が出て行って、実感しているけど、信じたくないの
だから、尋ねてる、いや胡麻化してる
さよならだけが人生なのは、重々承知だけど、信じたくない俺がいるんだな、って

抱きしめてた いい想い出も
花のように 時間(とき)が運ぶ
なぜ なぜ なぜ


さよならだけが人生なのか
ひとりきりの 夢のなかで
なぜ なぜ なぜ


たったこれだけのフレーズで、孤独のなかで途方に暮れる男の姿が浮かび上がるの
これからも、何人もの女と出会うだろうけど、結局、同じことの繰り返しだと分かってる男
己が招いたことだけど、どうしようもない
だから、なぜ なぜ なぜ、と不毛な問いかけを続けている
誰に?自分に
もう、やだっ!この歌詞、泣きたくなってくるじゃん
トシちゃんが、あっけらかんと元気に歌ってるようで、でも、なんだか哀しげに聞こえて
彼の歌唱も含めて、この曲完璧です!
この時点で、もう既にレトロ感があったブラスロックに
井伏鱒二、いや原詩は唐の詩人のものですけど、東洋的な無常観を乗せ
それを、色男アイドルに歌わせるこの感覚
最高すぎて、びっくりするわ!
J-POP、ここに極まれり!ってね
で、知る、日本の歌謡曲は、侮れないぞ、と
才能のある人がいるのね、当時の私は気づかなかったけどね(笑)








嫉妬されるべき人生

2019-06-08 00:08:47 | レビュー
去年出た宇多田ヒカルさんのアルバム「初恋」をですね、最近久々に聴き返しまして
いや~やっぱり才能のある人だわ~と思いました
で、前には特にピンとこなかった曲がね、急に刺さるわけです
アルバムのラストナンバー「嫉妬されるべき人生」
これはね、ホントにすごい曲
これぞ宇多田っていうか
徹底的に個人的で、内省的で、思い込みも激しく
こんな女、怖いよっ!て男は思うんじゃないか?と
私は女ですので、怖くはないが、あんた、一旦落ち着きなよ、と忠告したくなっちゃうね
この人の曲って、一人の人間の半径1メートル以内のことを歌ってる気がするんです
その外のことは、知らん!私の関知する事柄ではないわっ!て思ってるのかも
そんなようなことをツイに載せて、評論家に諫められてた気がする
いいよ、君はそれでいいと言ってやりたい私
世界平和を歌っていいのは、マイケルジャクソンだけ(笑)
でかい話を歌うと、絶対陳腐になるから、間違いなく
数々のJ-POPがそれを教えてくれますから!
この「嫉妬されるべき人生」題名からして、凄いじゃん、何?その驕り高ぶった感じ(笑)
確かに、宇多田は嫉妬されるべき存在だわ、と思うけど
……いや、あんまそうでもないか。才能と引き換えに、平和な子供生活を送らせて貰えないなんて、ヤダわwww
でも、これはそういう話じゃなかった
一人の男に一目ぼれしたっ!て感じの歌
で、その瞬間、自分の人生が決まっちゃった、と思い込んでるの
永遠にその男に身を捧げると分かったと
捧げようと思うんじゃなくて、そうなることが運命づけられている、ってね
怖い…でも分かる、というか、そういう愛を誰もが欲しているでしょうな、ま、無理だけど(笑)
だから、嫉妬されるべき人生なのね、そんなことは、ほぼあり得ないから
この歌の凄いところは、たった4行で、時間という概念を表現しきっていること
それも、とても平易な言葉で

今日が人生の最後の日でも
五十年後でも あなたに出会えて
誰よりも幸せだったと
嫉妬されるべき人生だったと


今現在から、五十年後までを一瞬で想起させ
そして、そのどの時間軸の自分も相手を愛している、と確信している女
だから、アタシャいついかなる時も、完全に幸せだ!と
お前ら、私に嫉妬しなよ、いや、しないではいられないでしょ、って
いや~やっぱり驕り高ぶってるわ(笑)

ここからは、極論というか、個人的見解ですので
異論は大いにあると思いますけど、誰も読んでないでしょうから(笑)書くわ
私、この曲は、日本のポップスの頂点なんじゃないか?と思ったんです
こんなに暗い、不穏なメロディラインに幸福の絶頂みたいな歌詞を乗せるこのセンス
どこまでも、どこまでも自分のことだけ、感情だけを述べているんだけど
その芯は、どこか醒めている、というか妙に理論的で
この人の人物像が浮かび上がってくる歌詞になっている
そして、一番感じるのは、なんのジャンルなんだか分からない、ということ
デビュー作の「First Love」の時は、R&Bだった、洋楽の借り物だった
ところが、この「初恋」はそんな括りはもうない
ただただ、自分の中から出てくる歌詞とメロディ、そしてアレンジもおのれ
売れ筋とか、玄人受けとか、そんなことは、もはやどうでもいいのかも、とさえ思ってしまうほど個人的で
少なくとも、これは日本に住む人間に向けて作られたもの
ジャンルは宇多田ヒカル、対象は私たち日本人(もしくは、日本在住の人間)
そのドメスティックな作品を、何故かよその国の人も聴くわけです
つまり、人が曲を聴くときは、ジャンルも国も、何でもいいのね、と
最高の曲は、どこでも、何でも、最高なの
歌詞の意味さえ、知らなくても、この凄さは伝わる
……いや、知ってたほうがいいけどね、内容を誤解しそうなほど暗いメロディだから!

しかし、この「嫉妬されるべき人生」、絶対にカラオケで歌えないからね
歌ってもいいけど、盛り上がらないから(笑)
そうっ!本当の名曲は、本人しか歌えないと知る
…私、一度試して、大惨事になった(笑)