モアノー探偵事務所 ケンちゃんの友達がいじめに 第11回目 2/7
グレックビルの階下のガードマン室では手続きに手間取っていた。
こんなことはかつてなかったのだそう。
それでも純平の母は訪問者リストに名前を書き込むまでにこぎつけた。
ボールペンを持ったら手が震えているのに気がついた。 字が思うように書けない。
純平の姉も名前を記す。
エレベーターの電源を入れる。
早く、はやく、はやく
純平の母は握り締めたゲンコツの中で叫び続けた。
屋上では岡本の振り下ろした拳を純平は払いのけた。
おちつけよ
と純平は岡本の両肩を押さえこもうとした。
岡本はあっけにとられている西山に「こいつをやっちゃえ」と怒鳴った。
西山ともう一人は命令された子分のように純平に迫った。
3人は純平を内側のフェンスにジリジリと追いつめていった。
純平は内側のフェンスに沿って3人を振り切ろうとしたが、両サイドから迫られ逃げ道がない。
フェンスを乗り越えられるか手探りで触ってみた。
その時、純平の後でチ、チという音が聞こえた。
すると1羽のカラスが純平と3人を割るように飛び込んできた。続いてもう1羽。
岡本はのぞけった。
今や3人の目は純平ではなく、カラスを追った。
カラスはゆっくり上ると空中で様子を見ている。
西山の体が純平に傾いた途端、ビューという羽音がしてカラスは下降してきた。
ガチャンと鉄の扉が開いたのはその時だった。
純平の母たちが屋上に入ってきた。
カラスはスーと上昇して行った。
君たち、ここで何をしている!
ガードマンの怒鳴り声がした。
カラスたちが音もなく飛び去って、スズメも散って行った。
チュン太は外側の高いフェンスに下りると人間たちを見ていた。
もう一人のガードマンが2人の巡査とともに入ってきた。
念のため来てもらった巡査に促され3人は出て行った。
純平の母は「どうして黙っていたの? 一言言ってくれればこんな騒ぎにはならなかったのよ」と
涙と笑顔の交じった声で言った。
ごめんなさい。 どう言えばいいのかわからなくて。 かあさん、岡本はやっぱりお金をとられていたんだよ。
岡本と二人で話したかったんだ。
純平の母は手を伸ばして純平の髪をなで、それから母より背の高くなった息子をグイと引き寄せて抱きしめた。
その午後、純平と母は地域の警察に出向いた。
そこは純平の両親がいじめをすでに相談していた署だった。
二人は初めからそれぞれの話をした。
女性の巡査はしっかり記述すると、後日また話をお伺いしますから。
と二人をその日は解放してくれた。
翌日から純平は登行するようになった。
無事に期末試験も終わり、純平はケンちゃんと自分の部屋でくつろいでいた。
テーブルの上には純平の母が作ったオレンジタルトと飲み物があった。
暖かい日差しの降り注ぐ窓は開いていて、出窓の縁でチュン太もタルトの皮を食べていた。
バターが一杯のタルトの皮がチュン太は大好きだった。
純平は何度目かの「チュン太、ありがとう」を言った。
ケンちゃんも「チュン太、大手柄だよ」と褒めちぎった。
チュン太はてれくさかった。 そして「なに、せめてもの御礼です。 みなさんのおかげで生き延びられるのです。」と、日本語ができたら言っただろう。
チュン太はカー子を呼んだ。 でもカー子は返事だけして、来なかった。
カラスはとてもシャイなのだ。
チュン太はいい気分だった。 これからも人の役にたちたい。
こうやって始めたのがモアノー探偵事務なのだ。
そして話は初めに戻って、チュン太の初仕事「ハニーキャット」が始まるのだ。
筆者の後日談です。
岡本はその不始末に怒った祖父母によって、遠い町の全寮制の学校に転校させられた。
でも誰も裏で何があったかケンちゃんや純平には知らせなかった。
純平は突然いなくなった岡本を残念がった。
でも筆者は岡本のような子供を忘れませんので、そのうち再登場させますね。
次の話はまたまったく違うものにしました。
お楽しみに。
グレックビルの階下のガードマン室では手続きに手間取っていた。
こんなことはかつてなかったのだそう。
それでも純平の母は訪問者リストに名前を書き込むまでにこぎつけた。
ボールペンを持ったら手が震えているのに気がついた。 字が思うように書けない。
純平の姉も名前を記す。
エレベーターの電源を入れる。
早く、はやく、はやく
純平の母は握り締めたゲンコツの中で叫び続けた。
屋上では岡本の振り下ろした拳を純平は払いのけた。
おちつけよ
と純平は岡本の両肩を押さえこもうとした。
岡本はあっけにとられている西山に「こいつをやっちゃえ」と怒鳴った。
西山ともう一人は命令された子分のように純平に迫った。
3人は純平を内側のフェンスにジリジリと追いつめていった。
純平は内側のフェンスに沿って3人を振り切ろうとしたが、両サイドから迫られ逃げ道がない。
フェンスを乗り越えられるか手探りで触ってみた。
その時、純平の後でチ、チという音が聞こえた。
すると1羽のカラスが純平と3人を割るように飛び込んできた。続いてもう1羽。
岡本はのぞけった。
今や3人の目は純平ではなく、カラスを追った。
カラスはゆっくり上ると空中で様子を見ている。
西山の体が純平に傾いた途端、ビューという羽音がしてカラスは下降してきた。
ガチャンと鉄の扉が開いたのはその時だった。
純平の母たちが屋上に入ってきた。
カラスはスーと上昇して行った。
君たち、ここで何をしている!
ガードマンの怒鳴り声がした。
カラスたちが音もなく飛び去って、スズメも散って行った。
チュン太は外側の高いフェンスに下りると人間たちを見ていた。
もう一人のガードマンが2人の巡査とともに入ってきた。
念のため来てもらった巡査に促され3人は出て行った。
純平の母は「どうして黙っていたの? 一言言ってくれればこんな騒ぎにはならなかったのよ」と
涙と笑顔の交じった声で言った。
ごめんなさい。 どう言えばいいのかわからなくて。 かあさん、岡本はやっぱりお金をとられていたんだよ。
岡本と二人で話したかったんだ。
純平の母は手を伸ばして純平の髪をなで、それから母より背の高くなった息子をグイと引き寄せて抱きしめた。
その午後、純平と母は地域の警察に出向いた。
そこは純平の両親がいじめをすでに相談していた署だった。
二人は初めからそれぞれの話をした。
女性の巡査はしっかり記述すると、後日また話をお伺いしますから。
と二人をその日は解放してくれた。
翌日から純平は登行するようになった。
無事に期末試験も終わり、純平はケンちゃんと自分の部屋でくつろいでいた。
テーブルの上には純平の母が作ったオレンジタルトと飲み物があった。
暖かい日差しの降り注ぐ窓は開いていて、出窓の縁でチュン太もタルトの皮を食べていた。
バターが一杯のタルトの皮がチュン太は大好きだった。
純平は何度目かの「チュン太、ありがとう」を言った。
ケンちゃんも「チュン太、大手柄だよ」と褒めちぎった。
チュン太はてれくさかった。 そして「なに、せめてもの御礼です。 みなさんのおかげで生き延びられるのです。」と、日本語ができたら言っただろう。
チュン太はカー子を呼んだ。 でもカー子は返事だけして、来なかった。
カラスはとてもシャイなのだ。
チュン太はいい気分だった。 これからも人の役にたちたい。
こうやって始めたのがモアノー探偵事務なのだ。
そして話は初めに戻って、チュン太の初仕事「ハニーキャット」が始まるのだ。
筆者の後日談です。
岡本はその不始末に怒った祖父母によって、遠い町の全寮制の学校に転校させられた。
でも誰も裏で何があったかケンちゃんや純平には知らせなかった。
純平は突然いなくなった岡本を残念がった。
でも筆者は岡本のような子供を忘れませんので、そのうち再登場させますね。
次の話はまたまったく違うものにしました。
お楽しみに。