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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

スペル

2009-11-12 07:03:00 | 映画(さ)
評価点:70点/2009年/アメリカ

監督:サム・ライミ

もしかしたら、最高傑作かもしれない。あるいは……。

銀行の融資窓口担当のクリスティン(アリソン・ローマン)は、新しくあいた上位職への昇格を狙っていた。
ライバルはスチュ。
彼は巧みに支店長のご機嫌を取ろうとしていて、彼女は焦っていた。
そんなところに、借金を返せなくて、督促状が届いた老婆ガーナッシュ(ローナ・レイヴァー)がやってきた。
融資をするべきかどうか悩んだクリスは、支店長に伺いを立てたが、やんわりと断るように指示される。
上位職を目指す彼女は、融資できないと伝えると、老女は興奮し始め膝をついて懇願した。
断ると、今度は激高し、恨み言をいって去っていった。
仕事を終えて帰ろうとした彼女は、ガレージに停めてあった車に乗ろうとすると……。

スパイダーマン」シリーズの監督、サム・ライミの最新ホラーがこれだ。
広告では衝撃の作品と謳ってあり、見に行くことにした。
「スペル」というタイトルしか知らず、ホラーであることだけを知ってほとんど予備知識なしで見に行った。
あまり時間もとれなかったからなのだが、これが奏功したといえるだろう。
この作品は、予備知識や前評判を知ってしまうと全然楽しめない作品だ。
いくなら今しかない。
行かないなら、たぶん、もう行かなくてもいいかもしれない。
だが、とんでもない作品であることは間違いない。

あまり何もいいたくないが、ただいえることは、恐ろしく完成度が高いということだ。
その完成度といったら、あの「サマーウォーズ」を超えるほどだ。
だが、その完成度に舌を巻くか、それとも駄作だとののしるか、それはその人の映画人生にかかっている。
いや、本当にすごい作品だということだけは言えるだろう。
この言葉を読んで、見に行って「金返せ」といわれても、僕は困るのだが。
見に行ってしまった人たちは、以下に続く批評をご覧ください。

▼以下はネタバレあり▼

僕はオカルトホラーが全然好きじゃない。
なぜなら、怖くないからだ。
エミリーローズ」では爆睡したほどだ。
「エクソシスト ディレクターズカット」では、気持ち悪いと思えるほど冷静に鑑賞してしまった。
だから、映画館で怖がらせるシーンでも、僕は笑ってしまったりする空気の読めない人間である。

しかし、この映画では初めて体験した。
「僕以外にもオカルトホラーを見て笑っている!」

見に行った人は思ったはずだ。
「え? この映画、もしかしてコメディ?」

おっと、あまりに興奮しすぎて、先にネタを書いてしまった。
もう少し冷静にこの映画を分析することにしよう。

この映画のすごいところは、恐ろしく展開が緻密に進むということだ。
それはホラー映画としては類をみないほどの精密なプロット構成だ。
たとえば、彼女が呪いをもらうそれまでの展開は、彼女に「仕方がないな」と思わせ、なおかつ感情移入させるには十分な描写に満ちている。
恋人ととの関係、会社での彼女の立ち位置、そしてサブプライム問題を彷彿とさせる融資の問題。
兄弟で書き上げたこのシナリオは、彼らの才能の豊かさを如実に表す。

もちろん、その後の展開も見事だ。
恋人が論理的思考の研究職についていて、非科学的な呪いを信じないという設定であったり、たまたま訪れた占い師が「ラミア」について詳しかったり。
その恋人の家庭が絵に描いたようなブルジョワジーな家系で、彼女はそれに対して農家のアルコール依存症の母親を持っている。
彼女は十代の頃は太っていて、だからベジタリアンになりアイスも食べることができないほど、それを強迫観念に思っている。
だから、余計に恋人との関係を崩したくないと思っている。
そういった背景にある設定が驚くほどしっかりしている。

僕が特に舌を巻いたのは、恋人クレイ(ジャスティン・ロング)の台詞だ。
「土曜日、別荘へ旅行に行こう」という一連のくだりだ。
この台詞によって、二つの意味を持たせている。
一つは、二人が固い絆で結ばれているということ。
もう一つは、この呪いが解けるにしても解けないにしても、それ以降の状況を想像させる物語の連続性を示しているということだ。
この台詞によって、もしかしたら旅行先でラミアと勝負することになるのか、あるいは旅行に行くシーンをラストにもってきて、ハッピーエンドを見せるのだろうか。
そういった広がりを感じさせ、期待させる台詞になっている。
どうでもいいのだが、こういった一つひとつの台詞が実によく効いている。
だから完璧なのだ。

もちろん、呪いの解き方についての設定も実に明確だ。
冒頭、ジプシーがネックレスを受け取らなかったのは、彼女が呪われていたからなのだ。
だから、少年は地獄に引きずり込まれてしまったわけだ。
コインとボタンを間違えるというお約束の展開もまた、緊張感を出し、サスペンス効果としては十分だ。

これほどおもしろいストーリーを、プロットを持ちながら、ホラーとしてあるまじきほど演出が凡庸で退屈だから、アンバランスだ。

この映画が何かが違う、と思ったのは冒頭だった。
冒頭のラミアに少年が引きずり込まれるシーンで、まったく怖くないし、そして何より画面が明るすぎる。
その時点で、かなり退屈な映画ではないかと危惧したのだ。
そしてアメコミのようなタイトルロゴ。
ほとんど「スパイダーマン」を流用したかのようなテイストで、この映画への期待度は一気に下がった。
そして、極めつけは、老婆が最初に地下ガレージでクリスをおそうシークエンスだ。
入れ歯を外して顔にしゃぶりつく老婆は、もう、笑うしかない。
怖いのではなく、気持ち悪い。
そして、そんな演技をよく真剣に演じたな、という役者魂に敬服した。
 
だが、まだまだそんなものではなかった。
昼夜を問わずおそってくる呪いに、演出はいきなり、大音量で驚かせる、という一辺倒の方法だけ。
しかも、びっくりするどころか、その前にきちんと「出てくる」ことを予測させるシーンが入るので、全く驚きもしない。
ただ、音がやかましいだけ。

口から大量の虫を吐いたり、再び死体に抱きつかれたり、おなかの中でハエがぶんぶんいったり、ケーキに目玉が出てきてフォークを吸い込んだり。
上司に鼻血をかけるシーンは、「裸のガン」でホットドッグのケチャップをかけたシーンのパロディかとさえ思った。

挙げ句の果てには、倉庫でおもりを落としたら、目ん玉がびょ~~~ん!
おもりを落とすまでは読めたが、まさか目ん玉が飛び出してくるとは。
誰が予想しただろう、その「マスク」のようなアメリカン・コミック的な古典ギャグ。
呪いを打ち砕くための降魔の儀式も、途中で意味のない亡霊が寄ってくる。
それだけで十分笑えるのだが、ラミアに乗り移られた使用人は、香港のワイヤーアクションよりも「吊られて」いた。
吊っているワイヤーが見えたようにさえ思ったのは僕の錯覚だろうか。

ラストの墓荒らしでは、女優の胸の形をチェックするために雨が降ってきたのかと思うくらい無意味なバトル。
観客の誰もがその封筒はコインが入っているんだよ、と思っているのでどれだけがんばっても何も思えない。
まさに役者だけが空回りしているかわいそうなシーンになってしまった。
もちろん観客は大爆笑なのだから余計に目も当てられない。

全編において、役者は驚くほど真剣に演じている。
だが、その演出はすべて空回りで、すべて怖さを生み出す演出にはほど遠い。
それは監督の手腕の問題ではない。
なぜなら、この映画の脚本はすばらしく、明らかにこのちぐはぐな演出は「意図してのもの」だからだ。
B級映画の定義は、「すごくばかげたことを真剣にやること」である。
「えびボクサー」に代表される愛すべきB級映画に、この映画も仲間入りだ。

それにしても、タイトルの「スペル」。
この邦題は、まれにみる秀逸な邦題だった。
なぜなら、この映画の中身を如実に示しているからだ。
どちらも「訳がわからない」。

いや、すべてにおいて、本当におもしろかった。

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