子猫を連れ去ったあとも1週間ほど、ファーティハは毎日うちにご飯を食べにきていた。
しかし7月も終わり頃のある日を境に、ぱったり姿を見せなくなった。
翌日も翌々日もその次の日も、待っても待っても待っても現れない。
これは一体どうしたことだろう。
また何か気に障るようなことをしたのかしら?
いくら考えても、これという決定的な原因が思い浮かばない。
子猫はともかく、ファーティハまでいなくなってしまうとは予想していなかったので、私はたいへんさびしかった。
経験はないが、同棲していた恋人にある日突然出て行かれた人って、こんな気持ちなんじゃないだろうか(・・・いや、だいぶ違うのかも)。
考えてみれば、私たちは4月からずっと毎日共に暮らしていたのだ。
何かにつけてやたらに鳴きわめき、窓を開けてくれだの、お腹が減っただの、なに、これしかないの?もっといいご飯をちょうだいだの、新聞なんか読まずにアタシを撫でろだの、それは撫ですぎよ、しつこいわねえだのと絶えず自己主張する、コミュニケーション能力の高い猫だった(向こうからこっちへの完全な一方通行だが)。
出産に関してみせた特殊な行動からもわかるように、存在感のあり余るほどある、ドラマチックな猫だった。
おかげで一緒に暮らしていて、退屈することがなかったのだ。
君がいなくなった家はまるで、主人をなくしたあばら家のようだ(そのまんまやんけ)・・・。
なんだかよくわからないけど私が悪かった、ふぁ~子、帰って来てくれ~!
そんな具合に、私はしばらくめそめそ暮らしたが、やがて心を決めた。
ファーティハが帰ってくるのを気長に待つことにしたのだ。
猫には猫なりの事情があって出て行ったのだろうが、事情が変われば(あるいはお腹が減ったら)帰ってくるかもしれない。
もしかしたら一生帰ってこないかもしれないけど、とにかく待つの。
そうして、猫がいるとできないこと(邪魔されずに時間をかけて料理したり、友達と旅行したり)をしながら、猫不在ライフをそれなりに楽しむよう努めた。
そして失踪から約3週間後、ファーティハは帰宅した。
夕食後、台所で洗い物をしていたら、みゃあみゃあ騒ぎながら飛び込んできたのだ。
一瞬、「え、これどこの猫?」と思ったが、ちゃんと見たらファーティハだった。
すっかり痩せ細り、毛並みが荒れて枯れ枝などが絡まっていて、鼻の頭のへんが妙に黒ずんでいたせいで、別の猫に見えたのだ。
この様子では、いなくなってから路上生活をしていたようだ。
そしてお腹が減ってもう限界というところで、このうちに舞い戻ってきたらしい。
余分なお肉がすっきり落ちてスリムになってる・・・路上生活ダイエット、効果的だな。
缶詰のフードを出してあげると、ファーティハはニャニャニャニャ言いながら、すごい勢いでたくさん食べた。
そしてミルクも飲んで、満足そうに口の周りを舐め、ソファーの片隅でとぐろを巻いて寝てしまった。
明日は市場で鶏肉を買ってきて、茹でてあげようと私は思った。
無事の帰還のお祝いである。
その日からずっと、ファーティハはうちで暮らしている(今のところ)。
失踪中に子育ては終了したらしく、ご飯を食べたらすぐどこかに出かけていく、ということはもうなかった。
子猫たちのその後は、結局不明なままである。
初めてうちに来た頃のファーティハ
これで、うちの猫の出産シリーズは終了です。
えらく長くなった上、途中で長期のブランクが入ってしまい、申し訳ない。
一部でも読んでくださった方、本当にありがとうございました。
そして遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。
2014年もよろしくお願いしますね~。