外国で一時的個人的無目的に暮らすということは

猫と酒とアルジャジーラな日々

イエメン旅行(5)サナア旧市街はおとぎの国

2011-10-01 00:06:25 | イエメン


サナア旧市街の建物は、夢のように愛らしい。

温かみのある赤茶色の土レンガの壁面に、四角い木枠の窓が連なり、そのひとつひとつの上に、繊細な模様の半円形の飾り窓がのっかっている。窓全体をぐるりと白い漆喰で大きく縁取ってあるが、その縁取りのラインが、まるで子供のお絵かきのようにのびのびとして、柔らかい印象を与える。その漆喰がほのかな茶色味を帯びて、レンガの壁の色に調和している。見ているだけでふっと心が和んで、優しい気分になれるのだ。

サナア旧市街にはそんな建物がひしめき合っている。サナア旧市街は、人が住み続けている世界最古の都市と言われていて(シリア人も、ダマスカスのことをそう言っていたけど)、ユネスコの世界遺産に登録されている。どの建物も背が高い。といっても、せいぜい4階か5階建てなのだが、エレベーターがないので、上り下りはきつい。内部はひんやりと涼しく、夜は毛布が必須である。そもそもサナアは標高2,000m以上の高地にあり、高原性気候なので、夏でも気温があまり上がらないのだが。

私が滞在していた寮も、そんな建物のひとつだった。借りていた部屋は見晴らしがよく、広い窓から旧市街が見渡せた。ラマダン中で、日没まではお店が閉まっていたため、あまり長時間外を出歩いて観光する気もせず、私はよく部屋にこもって新聞を読んでいた。新聞を読むのに疲れると、外の景色をぼうっと眺めた。

空の色が淡く透きとおっていて、8月だというのに、まるで秋のようだ。ぼわぼわと広がった雲が、午後の陽射し受けて、真っ白に輝いている。建物と建物の間の狭い路地を、子供たちの一群が歓声を上げながら走りぬけていく。猫たちが堂々とした足取りで通りを横切り、どこかへ消える。黒子の女の二人連れが、スーク帰りらしく、大きなビニール袋をたくさん腕に抱えて、仲良くおしゃべりしながら通り過ぎる。大通りでは、ダッバーブと呼ばれる、小さな乗り合いバスや、タクシーやトラックが、ひっきりなしに行き来している。大きくて重い、プロパンガスのボンベを、轟音を立てながらゴロゴロと転がして運ぶ若者。所在なげにうろうろする、やせっぽっちの時代劇の男たち。

そんな風景を眺めていると、なんだか自分がおとぎの国に入り込んだような、不思議な気分になるのだった。窓から入ってきた、心地よい風に吹かれながら、私は目を閉じる。

ずいぶん遠くまできた。
まだこれからも、もっと遠くまで行くだろう。


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