数日前、うちに招かれざるお客さんが来た。ねずみのアルアラビーヤ君(仮名)だ。
夜中、いつものようにパソコンに向かっていて、ふと顔を上げた時、冷蔵庫の下から出てくる大きなねずみと目が合った。手乗りサイズよりも少し大きいくらいで、濃い褐色の毛をしたやつだ。彼(彼女)はつぶらな黒い瞳で一瞬私を見つめ、「やばっ、まだ寝てなかったか!逃げるが勝ち!」という風に、そそくさと冷蔵庫の下に戻ってしまった。
そのしばらく前にも、昼寝から目が覚めた時、カーテンレールの上でじっとしているねずみを発見したことがあるので、同じ個体かもしれない。
暗くてわかりにくいけど、これ
その時は、窓を全開にして、タオルを振り回してそちらに誘導し、お帰りいただいたのだが、今回は冷蔵庫の下なので届かない。
私は毎日窓の外側のサッシのところにすずめさんたちのために米やビスケットを置いているので、それにねずみが目をつけて、「ここんちは何か旨いものがありそうだから、入ってみて、良さそうだったらここで暮らそう」と考えたのではなかろうか。時々窓の外で巡回している姿を見かけたし(4階なのに)。うちは安いボロアパートで、網戸とガラス窓の間に大きな隙間があるので、窓を開けている時にそこから侵入したのであろう。たまにすずめもうっかり迷い込んで、慌てふためいたりしているし…
私は便宜上、そのねずみをオスだと想定し、「アルアラビーヤ」と呼ぶことにした。「アルアラビーヤ」は、サウジ資本・ドバイ発のアラビア語の衛星テレビ局。ネットでライブ視聴できるが、サウジ・UAEのプロパガンダ色が強すぎるため、私はほとんど観ない。最初は「アルジャジーラ」と名付けようと思ったが、愛着が湧くと困るので、ここはあえてアルアラビーヤにしておいた。
名前が決まったところで、私は冷蔵庫の下に隠れている彼に向かって話しかけ、穏当に外に出ていってもらうため説得しようと試みた。「アルアラビーヤよ、うちにはあなたが食べる物は何もありません。ここはひどいところです。元いた世界にお帰りなさい。それが一番いいのです。あなたにとっても、私にとっても、云々」
当然、アルアラビーヤ君は出てこなかった。思い立って、長い棒状のプラスチック(安物の家具から剥がれ落ちたパッキン部分)を冷蔵庫の下に突っ込んで、追い出そうとしてみたが、無駄だった。長期戦になりそうだったので、とりあえず冷蔵庫の後ろの窓を開け放して、好きな時に出てもらえるようにした。窓の外のサッシのところに、おびき出すためのエサとしてチーズも置いた。彼がチーズの匂いにつられて外に出たら、すぐ窓を閉める算段だ。しかし、アルアラビーヤ君が動く気配はなかった。
そうこうしているうちにお腹が減ったので、私は夕食(野菜とパンを一緒に炒めた横着な一皿料理)を作って食べた。冷蔵庫の下のアルアラビーヤ君もお腹が空いているだろうが、分けてあげるわけにもいかない。ねずみはバイ菌をいっぱい持っているので、飼うのは危険だといろんな人に忠告されたのだ。大体、トイレのしつけもできないような野生動物を飼うわけにはいかない。しかし、一人でご飯を食べることには、なんとなく罪悪感を感じてしまい、そのせいか、頭の中にこういうナレーションが流れ始めた。「ねずみのアルアラビーヤはお腹がペコペコでした。近くからいい匂いが漂ってきます。彼はため息をついて考えました。ああ、あの大きなヒトが早く寝てくれないかなあ。そしたら、台所を探検して、何か食べるものを探せるのに」(ねずみに感情移入し過ぎ)
ピーターラビットの絵本に出てくるねずみの奥さん。可愛い・・・
アルアラビーヤ君は、結局2日間うちで過ごしたが、2日目の夜中、私が気づかないうちに窓から出て行ったようで、それ以降は姿を見かけていない。うちに住んでも幸せになれないことを悟ったのだろう。もう2度と戻って来ないで、外の世界で自由に楽しく暮らしてね~
というわけで、彼やそのお友達にうちに侵入する気をなくさせるため、ねずみの忌避剤を買ってきた。
ねずみが嫌いなハーブと猫の匂いの成分配合らしい。ハーブの匂いしかしない気がするが。
ちなみに、アルアラビーヤ君が登場した翌日、仕事先で中国語の通訳の人たち(バイリンガル)に、ねずみ対策について質問したところ(ネズミホイホイがお勧めらしい)、「そういえば、中国の病院にねずみがいたので、捕まえて病院スタッフに渡したら、喜ばれた」「中国のホテルで布団をめくったら、ねずみの一家がいた」などと教えてくれた。ワイルドだな、中国・・・その中の猫を飼っている人は、「家が近かったらうちの猫をお貸しするんですけど」と言ってくれた。猫、借りたかったな~
猫とねずみといえば、トムとジェリー。でもトムだと、ジェリーは捕まえられないな・・・
(終わり)