外国で一時的個人的無目的に暮らすということは

猫と酒とアルジャジーラな日々

中国旅行(4) 老西門の小食堂での癒しのひととき

2012-06-17 23:19:14 | ウイグル・中国

魚の形のお皿にのったホイコウロウ



上海に滞在した3日間(旅の初日と、最後の2日間)、私は毎晩宿の2軒隣りの大衆食堂でごはんを食べていた。
この食堂は狭苦しくて、庶民的で、しかも料理が美味しいので、私の好みにぴったりだった。女将さんはすぐに私を覚えてくれ(外国人観光客なんて、めったに来ないせいだと推測される)、初日に冷たいビールを注文すると、その次からは「ビールください」と言っただけで、冷たいやつを出してくれるようになった。

話はそれるが、中国ではビールを室温で飲むのが普通らしく、「冷たいビールが欲しい!」と主張しないと、ぬるいものが出てくることが多い。むろん室温で飲むほうが身体にはいいだろうが、しょせんアルコールなんだし、身体に悪くてもいいから、思いっきり冷やしたやつが飲みたい。ぬるいビールと冷たい赤ワインには、できるだけ関わらずに生きていきたい、というのが、私のささやかな願いなのだ。

1日目はスパイスがいっぱい入った魚のスープを、あとの2日間はホイコウロウと、揚げナスのあんかけ鍋をそれぞれ食べた。どれもとても美味しかったが、ナスのあんかけは非常に熱かったので、舌を火傷した。私は猫舌なので、普段はあんかけ料理を避けるようにしているのだが、この時はメニュー(もちろん英語や日本語のメニューなんてない)の中国語を解読するのが面倒だったので、適当に指差して頼んだら、これが来てしまったのだ。火傷するかも、とびくびくしながら食べたら、やっぱり火傷した。でもナス大好きだし、美味しかったからいいの。

この店では、料理をするのも、給仕をするのも女性であった。
最終日、一人で食事をする私の様子を、壁にもたれて休憩しながら眺めていた、調理係兼給仕係の小太りの女性が、私の手の指がひび割れだらけなのに気がつき、「どうしたのこれ?何の病気?!」と叫んで、気の毒そうにマユをしかめた。それを聞いて、もう一人の給仕の女性もやってきて、「どれどれ」と私の手を取り、仔細に観察した。

私は慢性的なアトピー体質なのだが、特にこの時期、手の荒れがひどかったのだ(今も全然治ってないが)。両手の指や手の平がやたらに乾燥して痒くなり、ステロイドの塗り薬の副作用で皮膚が薄くなったせいもあって、指のところどころがひび割れて、パックリと傷口が開いていたのである。

「小さい頃からアトピー体質で、手が乾燥して荒れているけど、大したことないから気にしないで~」と言いたかったが、そんなことを中国語で説明できるわけがない。途方にくれて首をかしげている私を前にして、二人は大声でなにやら相談し始め、やがて最初の女性が、なにか透明な液体の入ったビンを取ってきて、「これが効くから」というようなことを言って、その中身を私の両手にパシャパシャと振りかけた。匂いから察するに、どうやらそれはお酢だったようだ。さすが医食同源の国(?)である。酢をふりかけられた手は、最初鋭く痛み、その後やたらに痒くなったが、しばらくしたら収まった。旅先で思いがけず遭遇した、この素朴でストレートな親切に胸を打たれ、私は半ばウットリしながら残りのナスを食べ、ビールを飲み干した。

彼女たちにお礼を言い、別れの挨拶をしてホステルに戻ったら、フロントの陽気な男の子に、「You smell vinegar(あなたは酢の匂いがする)」と言われたので、自分でも両手の匂いを嗅いでみると、確かにお酢の匂いがプンプンしていた。「酢の匂いのする女」って、小説のタイトルみたい・・・コメディーの。

翌日には手の皮膚が乾燥してポロポロ剥がれてきたが、パックリ開いていた傷口は、ほぼふさがっていた。お酢療法のおかげかもしれない。数日後には、また開いてしまったが。自分でもう一度試してみようか、とも思うが、私は基本的に民間療法を信用しない質なので、どうも気がのらない。

いつかまた上海に行って、また老西門のあの小食堂でご飯を食べたい。
そして、全身にパチャパチャとお酢をふりかけて欲しい(うそ)・・・
その日までは、とりあえず西洋医学の世話になろうっと。


サントリービールの中国バージョン。プラスチックのコップがイカすでしょ。

コメント (2)
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