サラ☆の物語な毎日とハル文庫

カズオ・イシグロの『クララとお日さま』

↑ 『クララとお日さま』(早川書房)

 

@サラ☆

 

カズオ・イシグロのノーベル賞受賞後の第1作。

今年の3月2日に、世界同時発売だったそうだ。

AIロボット・クララと、「向上処置」という、どうやら体質や能力?を改善する処置を

受けた女の子との友情物語。

 

クララはAF(AIのフレンド→人工親友)と称され、(AIは人工知能のこと)

食器や雑誌なども扱う店の商品として登場する。

最初のころで、ショーウィンドーに展示されると、太陽の光を浴びられるし、

外もよく見えるのでいいなーと思っている。

 

後々意味をもつ2つのシーン

 

そしてすぐにクララがショーウィンドーに並ぶ日がやってくる。

そのときに見た印象的な2つの光景。

 

1つは、雨が上がり、お日さまが照りはじめたとき

レインコートのご老人とコーヒーカップ体形のご婦人が

道路を挟んで横断歩道のところで出会うシーン。

若いころ恋人同士だった二人が、何十年かぶりに偶然に再会したのだ。

 

もう1つは、物乞いの人と連れの犬。

通りの向かい側でいつも物乞いをしているはずが、

灰色にくすんだその日の午後

通りの端で抱き合いながら倒れていた。ずっとそのままだ。

クララはきっと死んでいると思った。

ところが次の日の朝はすばらしい日和で、

物乞いと犬は生き返り、元気そう。

「きっと、お日さまが送ってくれている特別の栄養のせいです。

それがあの人と犬を助けたのだと思います」とクララは考える。

なぜなら、AFたち自身、太陽光からエネルギーを得ているからだ。

(ソーラーシステムなのかな?)

 

この2コマのシーンが、後々意味をもってくる。

 

クララが思うこと、見ることを通して語られるミステリアスな物語

 

クララの思考を通して、

つまりクララの知識の拡がりをなぞって、物語が語られるので、

AFについても、向上処置についても、オブロン端末での授業についても

交流会についても、なんとなく言葉として出てくるコミュニティについても

読者には何の知識も説明も用意されていない。

ただ、なるほど、そういうことかな、

と推測し納得して読み進めていくしかないけれど、その過程が面白い。

 

それから情景描写も、AIであるクララの視覚がとらえたものが

語られる。

なので、ときどき目の前の光景がいくつかのパネルに分割されていたり、

ボックスで別れたり、

そのボックス単位で、いろんな見え方をする。

そのAIロボットなりの見え方でもって、情景がていねいに語られるので、

なるほど、こんなふうに見えてるんだな、と納得させられてしまうところが、

スゴイと思う。

(そして、美しい情景です。)

 

なんといっても誠実で健気なクララ

 

クララは、誰も気づかないことを気づいて、それもいっしよに記憶する

「鋭く物事を見通す目、観察力」をもったロボット。

そのクララは、向上処置を受けたせいで病気になっているジョジーを

守ろうとして必死になる。

自分の推論と意志にもとづいて、果敢に戦うのだ。

ある意味、自分を犠牲にしてまで。

 

賢くて、優しくて、謙虚で、意志が強くてヒロイック。

お日さまの力を信じ、ジョジーのボーイフレンドや父親を巻き込んで

何としてもジョジーを救いたいと行動する、ステキな女の子ともだち。

 

クララと聞いて、アルプスの少女ハイジのクララを思い出した。

ハイジとクララが立場を逆転して

クララがハイジならぬジョジーを守っている、という構図。

 

「なんという迷信を!」と思っていると、それがミラクルな展開をみせて、

思わず感動のあまり、心がふるえることに。(泣けてしまう)

 

ラストは…、どうかなー……?

 

お日さまは神秘だし、物語は美しいし、物珍しいし、素敵だけど、

かといって、ラストはちょっと納得できないかも。

 

いま「ペットは家族です。最後まで責任を」とか言われてるじゃない。

それなのに…、おかしくない? とかブヅブツ言ってます。

「だから文学」と言われれば、それまでだけど。

 

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