『赤毛のアン』の5番めのキーワードは「ぞくぞくする」でしたよね。
アンはどんなときにぞくぞくするのか?
アンがプリンスエドワード島にやってきて、マシューと出会い、グリン・ゲイブルスに馬車で向かう途中。バーリーの池の近くをと取り掛かったときのことです。
そのバーリーの池は「下のほうには、長くてうねうねしているので、川のように見える池があった。真ん中あたりに橋がかかっており、下手のはずれには、こはく色の砂丘が帯びのようによこたわって、その向こうに見える紺青の湾との境をなしていた。橋のへんからその砂丘のほうにかけて、はなやかなさまざまな色が池の水を染めていた。──クロッカスやばらや、透きとおるような、草の緑が、この世のものとも思われぬ影を落としている上に何とも名のつけようもない、とりどりの色が消えたり、あらわけれたりしていた。……(描写はまだまだつづきます)」
アンは、この池が“バーリーの池”と呼ばれるのは不満です。
「あたしなら──ええと……『輝く湖水』とするわ。そうだわ。これがぴったりした名前よ。ぞくぞくとしたからまちがいなしよ。ちょうどぴったり合うのを考えだすとぞくぞくっと身ぶるいがするのよ。小父さん、そういうことがあって?」
このアンの問いかけに対して、マシューは次のように答えるんです。
「そうさな、あるよ。きゅうりの苗床を掘りおこすと出てくるあの、きびのわるい白いうじ虫な、あれを見ると、いつもわしはぞくぞくっとするがな。うあのようすがいやだね」
アンはこういいます。
「あら、それはあたしが言ったぞくぞくとは違うと思うけど、小父さんはおなじだと思って? うじ虫と『輝く湖水』とではまるっきりつながりがないんじゃないこと?…」
つまり、美しいものを見たり感じたりするとき、アンはぞくぞくするというわけです。
ぞくぞくは『赤毛のアン』のなかによく出てきます。
たとえばこういうときも…
「ああ、マリラ、世界に十月という月のあることが、あたし、うれしくてたまらないわ。もし九月から、ぽんと十一月にとんでしまうのだったら、どんなにつまらないでしょうね。まあ、この楓の枝を見てちょうだい。スリルを感じないこと?──つづけざまに、ぞくぞく、ぞくぞくっとしないこと? あたしの部屋にさしておこうと思うのよ」
ぞくぞくは、“a thrill”
ぞくぞくするは“it gives me a thrill”
村岡花子さんの翻訳の優れているのは、「スリル」という原語をさりげなく登場させて、「ぞくぞく」が「スリル」なんだということを教えてくれている点です。
そういうわけで、わたしだって、寒い冬の明け方に朝日がきらきら昇るのを見たときは、ぞくぞくします。
あのー、もしもし。そのぞくぞくって、「寒い」のゾクゾクでは?
まるっきりつながりがないかも?
アハハッそうかも。
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