昨年末ぎりぎりにサラ・パレツキーの新作が出た。
『カウンター・ポイント』
617ページの大作だ。
もっとも、本来のタイトルはBRUCH BACKなので、
そのまま使えばいいのにと思う。
野球の用語で「打者の体すれすれにボールを投げてのけぞらせる」という意味。
一方、カウンター・ポイントは対位法とか対位旋律という意味があるそうだ。
どっちにしろ英語をそのままタイトルにした場合、意味が端的に伝わらないのなら、
原作のままに『ブラッシュ・バック』でよかったのにと思ってしまう。
617ページもあるので、読み終わるまでにけっこうな時間がかかる。
それだけ、楽しみがたっぷりあるということ。
内容は少々煩雑で、そこに軽口やら皮肉やらジョークがさしはさまれるので、
油断しているとストーリーの行き先を見失いそうになる。
それもまた、パレツキー本の特徴というか、醍醐味かもしれない。
パレツキーは1947年生まれだから、そろそろ70歳。
それでこれだけの分量のミステリーが書けるのだから凄いというほかはない。
主人公の女探偵V.Iは今回も殴られたり、ピストルの弾が被っているヘルメットにあたって
脳震盪を起こしたりと、ハードな立ち回り。
タフで美人でセクシーで頭脳明晰。
体を張って不正を正し、守るべきものを守ろうとする姿勢には、脱帽である。
しかも、少しも嘘臭くないところがいい。
『カウンター・ポイント』は、昔の作品『レイクサイド・ストーリー』で殺されてしまった。
V.Iの従姉妹のブーム・ブーム・ウォーショースキーが、過去の記憶として再び登場する。
ある日、高校の頃に6ヵ月間つき合っていたボーイフレンドが
二〇数年ぶりにV.Iのもとを訪れることから、物語は始まる。
自分の娘を殺した罪で二〇数年服役した母親が出所し、自分は無罪だと主張しているというのだ。
母親の無実を証明して欲しいというのが、フランク(つまりボーイフレンド)の依頼だった。
さて、事件は謎の解明に向けて、どう展開していくのか。
最後のV.Iの仕掛けが痛快。
読後感は、いいんじゃない、それでと納得である。
パレツキーは今回も濃密なストーリー展開と、スカッとする読後感をちゃんと提供してくれた。
いくつになっても読者を裏切らない、信頼すべきミステリー作家だ。