サラ☆の物語な毎日とハル文庫

フロスト警部に終わりはない

いかにも人間臭いミステリー、

冴えないのか冴えているのか不明のフロスト警部が繰り出す

事件また事件に翻弄されつつ、

そのお下劣なジョークに笑ったり、そんなのありかとあきれたり、

それでも下品とはいいがたいすれすれの知性が垣間見える

最高に面白い警察小説が最終作となった。

 

作者のRD.ウィングフィールドが亡くなったからだ。

というか、10年前に亡くなっていて、その最後の作品がやっと翻訳されたという話だ。

どの作品も飛びつくように読んできたから、

4作目の『フロスト気質』(2008年創元推理文庫で刊行)の解説に

そのことがちゃんと書いてあるのを、読んでないはずはない。

しかし、あまり長い年月が経ったもので、ついつい忘れていた。

 

だから今回のこの本の広告で最終という文字をみたときは、

作者はこのシリーズを完結させ、今後は中・短編の小説でも書いていくつもりなのだろう、

とのん気なことを考えたのだ。

 

10年前になくなっていたとは!

しかもそのとき79歳。

この『フロスト始末』の原稿を書き上げた後、

本になるのを待たずにガンで亡くなったのだそうだ。

1928年生まれ。日本でいうと昭和3年生まれだ。

第二次世界大戦を10代で経験している。これまた日本的に言えば戦中派。

老獪なところもあるフロスト警部の人となりを描けるのだから、

若い作家だとは思っていなかった。

もともとラジオドラマの脚本家で、作家デビューは56歳ということだから、

スタートそのものが遅かったのだ。

 

フロスト警部シリーズを読み、濃厚な読書の喜びを与えてくれたことに、

心から感謝したい。

生きてるのも満更ではないと、作品を読むたびに思ったものだった。

しかし、亡くなってから10年のタイムラグがあるとは、どうしても思えない。

デントンの町は未だにイギリスに存在しており、

そこではフロスト警部以下の面々が、次から次に発生する事件を解決するべく、

今でも奔走しているはずだ。

そんなリアルタイムの臨場感がこの小説からあふれている。

ああ、これで終わってしまうとは。

 

でも最後にフロスト警部は

お尻を音楽に合わせて振りながら検視解剖を行う女性検視官と

デートの約束を取り付けている。

悲しい事件ばかりだったけれど、どの事件も解決した

そして、結局他所の警察署に飛ばされる件も、うやむやになりそうだ。

いいじゃない。

あとは何度もウィングフィールドが残した6作品を読み返せばいいのだ。

きっと「もう過去の作品だ」などとがっかりさせられることはないだろう。

いつだってそこには極めつけにヘビースモーカーのフロスト警部がいるのだから。

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