□■□■───────────────────────□■□■
風と砂と星★と
□■□■───────────────────────□■□■
サン=テグジュペリの書いた『人間の土地』は、スゴイ!
定期航空の職業パイロットとして、はじめてスペイン方面に飛んだ日のこと…。
アンデス山中に墜落し、ピッケルもザイルも食糧も持たずに、
4500メートルの高い峠を越え、絶壁に沿って、
氷点下40度の寒気のなかを6日間も歩き続けて生還した、僚友ギヨメの話…。
本を開いて、さっそくこんなすごいエピソードを聞かされたから、
づづいては平板な話が並ぶのだろう…(そういう本が多いから)
と思っていたら、とんでもなかった。
次の章も、その次の章も、スゴかった!
モール人たちの奴隷が毎晩サン=テグジュペリに、
「飛行機に隠して、マラケシュに連れていってください…」と嘆願する。
しかし、キャップ・ジュピーの空港主任でしかないサン=テグジュペリは、
そんな大それたことはできない。
モール人たちの怒りをかい、虐殺という形で復讐されるかもしれないじゃないか。
けっきょくサン=テグジュペリはモール人たちから、
その奴隷を買い戻すことにした。
各方面から資金を集めて、モール人と交渉。
自由になった奴隷は、マラケシュに帰る。
突然自由になった老奴隷のバークは
「だがあまりにも無制限に自由なので、
自分の重量を地上にまるで感じないほどだった。
彼には、気ままな歩行を妨げる人間相互関係の制圧がかけていた。
……彼にはつまり、彼を他の人間たちに結びつけ、
彼を重厚にするあの無数の関連が欠けていた」
それらから生じる涙が、別れの悲しさが、譴責が、よろこびが、やさしさが…
だからバークが何をどうしたかって?
そこんとこはちゃんと本の中に書いてあるから…。
人間関係の網の目のような絆がなければ、
人は自分をどうしていいかわからなくなるのだろうか?
人間関係は人を地上につなぎとめる重石の役割をしているのかな?
僕はため息をついた。
《こんな本は、ほかのだれも書けやしない。
人類が自分たちの存在を誇れるような宝の本だ。》
どうやら、このあとの章で、
リビア砂漠に不時着して生還したときの話が書かれているらしい。
一人の可愛らしい王子さまが、砂漠に不時着した飛行士のところに突如あらわれ、
「ねえ、ヒツジの絵を描いて…」と頼んだ あの話の下敷きになった冒険譚。
サン=テグジュペリが敵機に撃墜され、
地中海に飛行機ごと沈んで 帰らぬ人となったことを知っている僕には
とても愛おしく思える話。本。
僕はいま、彼の文章がつづる見も知らない世界のことに触れ、
心をうばわれ、感動している。