↑2014年に『WOOD JOB!』というタイトルで映画化された。そのなかの1シーン。
『神去なあなあ日常』(徳間文庫)は三浦しをんのいわゆる「お仕事小説」
林業を取り上げている。
斜陽産業といわれてひさしい林業
その林業でたしかな業績をあげている神去村に
高校を出たての都会の若者が放り込まれた。
若者の目を通して描かれる、神去村と林業。
躍動感があって、ほんとにおもしろい。
ひょんなことから林業の修業をすることになった主人公を、
村の人はあれやこれやと実践をとおして鍛えていく。
★「日本の森林で、人間の手が入っとらん場所なんかないで。
木を切り、木を使い、木を植えつづけて、ちゃんと山を手入れする。
それが大事なんや。
俺たちの仕事や」
完全には納得できなかったけど、俺も斜面の地ごしらえに取りかかった。
杉を切りだしたあとなので、当然根っこはそのまま埋まっている。
灌木を切ったあとに杉の根っこもすべて掘りだすのかと聞くと、
「まさか」
と巌さんは笑った。
「おまえは土の威力を見くびっとるな。
根っこなんか、そのままでええんや。
すぐに腐って土になるでな」
では、切り倒した灌木はどうするかというと、これも枝を取り除いた形で、幹はそのまま放置していいのだそうだ。
「ここはまだそれほど、ボヤも密集しとらんしな。
あんまり地面をきれいにすると、地表が乾くやろ。
それが杉の苗には大敵なんや」
こんな会話が随所に挟まれる。
最後まで読み通すことで、林業について、あるていど理解した気がするのだ。
ただ、この小説を読んで、森について考えようとすると、
山そのものをご神体とする山岳信仰が
強烈に見え隠れしていることを納得する。
日本の森はきっと、ご神域。
神様のいるところ。
そういう位置づけだったのかもしれない。
この本を読んだ後に手に取った
ドイツ人の著者による
『樹木たちの知られざる生活~森林管理者が聴いた森の声』
のなかの森とくらべると、
森や樹木についての考察は類似しているものの、
そこに神様が絡んでくるところが日本らしいと言えるかな、と思う。
「長い長い年月をかけて木を育てる林業」
と三浦しをんは言っている。
樹木の時間は、人間の時間とは比べ物にならないほど長い。
地球のどこかに樹齢5000年の樹木もあるそうだ。
林業とは、気の遠くなるような時間を相手にする仕事だといえそう。
森の中には、自分を取り巻く人間仕様の時間感覚とは別の、
樹木たちのゆったりした時間が流れている。
そういうふうに捉えると、すごく面白い。