どうすれば、この危機を回避することができるのか?
女王幼ごころの君を健康を取り戻し、ファンタージエン国を救う方法を探す役目は、「緑の肌」と呼ばれる大草原に住む種族の少年、アトレーユに託されました。
そしてアトレーユは苦難の末に、幼こころの君に新しい名前をつけることができれば、女王もファンタージエンも救われることを突き止めました。
では、だれがその新しい名前を女王に差し上げることができるのか?
そのことを告げられるのは、南のお告げ所にいるウユララだけです。
アトレーユはお告げ所に行き、魔法の鏡の門を通り抜けて“静寂の声”であるウユララに答えを求めます。
それはこんな答えでした。
それではだれが女王さまに、
新しい名をさしあげるのか?
おまえでもなくわたしでもない。
妖精でもなく魔鬼でもない。
幼ごころの君をお救いし、
ふたたび健やかなお体にし、
われらを禍から解き放つもの、
それはわれらのうちにはいない。
われらは本の中だけの生きもの、
つくられたままに動くのみ。
ものがたりの中の像や夢、
あるがままにあるのがつとめ。
新しいものを創りだすのは、
賢者であっても王であっても
子どもであってもできはしない。
けれどもファンタージエンのかなたに、
「外国(とつくに)」という国があるのです。
そこに住むのは――富める人びと、
このわれらとはちがうのです!
地上の国のその自由民たちは、
いみじくもアダムの息子イブの娘、
人間種族、力あるみことばの血兄弟と呼ばれます。
かれらはみな、世の創まりより、
名づけの才に恵まれています。
いつの世にも、幼ごころの君に、
新たな美わしい名前をささげ、
君のお命をもたらしてきたのです。
ところが、すでに絶えて久しく、
人間はファンタージエンにこないのです。
かれらはもはや道を知らず、
われらがほんとうにいるのを忘れ、
信じなくなってしまったのです。
ああ、人の子が一人でもくれば、
それですべてはよくなるものを!
ああ、一人でも信じてくれれば!
かれらには近いが、われらには遠い、
かの国への道はあまりに遠い。
「外国」はファンタージエンのかなた、
そこへゆくのはわれらにはできない――
だが、若き勇士よ、
ウユララのことばを
心にとめてくれますか?
(『はてしない物語』岩波書店より)
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