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まるの日<へミシンクとミディアムな暮らし> ※ブログ引っ越し中

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レムリアの記憶 第一章 <第4話>

2013-05-16 07:15:22 | 『日常』



家に帰ると、姉と母親が夕飯の支度をしていた。
家に帰りつくころには日も沈んでしまって、黄昏時の空が広がっている。
僕がデシックルを家の裏に置いていると、
食堂の扉を開けて、姉が顔を出して
「お、帰って来たな。腹減っているだろう、もうちょっと待ってな。」
そう言って笑う。
僕はその声を聞いて、自分の部屋に入って行った。
家は入り口から食堂までが一続きになっていて、そのまま土足で上がるようになっていて。
食堂の上からは靴を脱いで入る場所となる。

お客さんが来た場合も、この食堂で出迎える事が多く。食堂というのは外と家との間にある緩衝空間みたいなものになっている。

だから、食堂は広くて家の面積の半分くらいを食堂とキッチンと、そういうもので占められている感じ。
僕らもくつろぐときは食堂で椅子に座って暖炉に火を灯したりしているし。

食堂の奥は個室が並んでいて。そこからがプライベートな空間となる。ここは土足禁止。
個室はそれほど広くなくて、一人が横になって、あと少し空間があるくらい(例えば都内のホテルのシングルルーム的な感じ)。荷物は共同の部屋が奥にあるので、そこに並んで入れられているから。個室は「寝る部屋」といったほうが良いのかもしれない。
部屋に入って服を家用の楽なものに着替えて。そして端末を開いてみる。

そこには今日の打ち合わせて使った資料と、そこにアクセスするためのゲート(フォルダのような感じ)が設定してあって。
ゲートから開いて行くと、そこには端末上の対話空間が広がっている。
だれか居るかな、と思って見てみたけど、さすがに今はみんな食事なんだろうな。

と思っていると、端末の下に点滅するフォルダがある。それはセティファムからのメールだ。

それを開くと、今日の打ち合わせ内容についての、疑問点などが書いてあって。
相変わらず「事務的」な感じのメールであった。
セティファムはメールになると、妙に事務的になってしまうので。
文字だけ見ると固い人に見えてしまうけど、実際に話すとそんな事はない。
そんな事務的なメールを読んで、自分でその内容について返事を書いて。

そして、そのまま明日の事について書いてある部分を読んで、そして、最後の一文で手が止まる。

「アレッシュラットは、私に対してどんな歌をイメージするのかな?」

夕方の話の続きになってる、まだあの話題が頭に残っていたのか。

これは、歌を作れと言う催促なのか?
単なる好奇心か、それとも別の意図があるのか?

うーむ、

さっき感じた心臓の動きが、また復活しそうになるのを一生懸命抑える。

いやいや、まだ早い。

相変わらず何を考えているのか良く分からないところがあって、真意を測りかねるが。
単なる好奇心だと思う事にしておこう。
そう思った方が、僕も気が楽になる。


歌ねぇ。女の子に歌を作った事は。ちょっと前にやった事はある。その後の進展はまったくなかったけど。
その時は必至で作ったので、なんだか今聞くと恥ずかしい歌になっていて。
データを消してしまおうかと何度も思って、でももったいないからと未だに端末の片隅にあったりする。

そうだな、セティファムであれば、もっと気楽にイメージできるかな。
と何気に作曲用のゲートを開いてつなげてみたりしていると、

姉の、食事ができたと呼ぶ声が聞こえる。

久々に、歌を作ってみるかな。

と思いながら食堂へと移動した。

食堂には姉と母親の作った料理が並び、そこで3人で食卓を囲む。
一番上の姉がもう一人いるけど、それは別の集落に家を構えて子供と一緒に暮らしている。

料理は地元の農作物とか、近くでもらったものとかが主で、あまり買ってきたものは使っていない。
農業地帯なので、食べ物には困らないのだけど。
収穫時期によっては同じものが重なるので、毎日同じメニューになる時もある。
ま、それを飽きさせないで食べさせるのが料理する人の腕なんだろうけど。

食事の前に、少し目を閉じ、食物に対しての感謝の気持ちを送ってから皆で食べ始める。
すべてのものには意識があって。それに対して感謝の気持ちを伝えると、そのモノたちは自分達に対して悪く働く事は無い、という考え方なんだけど。
どんな食べ物でも、感謝の気持ちを送っていただけば、それはすべて良いエネルギーとなって体に吸収されていく。という感じ。

僕は軽食の時はしない場合も多いけど、やっている人は居る。

食事中には姉が学校について聞いてくる。
そもそも、学校をすでに出ているから街の仕事につくか、男性と「つながる」(結婚?この場所は「通い婚」が普通)事でもしていればいいのだけど。家にいて、母親の手伝いをずっとしている。
「なんで、レル姉は家にいるのさ。」
「私の自由でしょう。おかあさん一人で、あんた何も手伝わないでしょうから。私くらい一緒にいたほうがいいのよ。」
「でも家にいたらだれも「つなげ」に来ないよ。」
「あら、言うのね。私だってもてもてなのよ。」
「どこが?」
「だから家を出る必要もないんだからね。それに農業の仕事もあるし。家にいて悪い事何もないじゃない。あんたもご飯作ってもらえているんだし。」
確かに、男しか居ない家では僕くらいの年齢でも料理を作っている男子は居るし。僕は姉がいるのでそのあたりは楽が出来ているのかもしれない。
「でも、お父さんみたいに何も料理もできないと困るから。あなたもちゃんとご飯くらい作れるようになっておきなさい。」
と母親。父親は基本的にどっか別のところにいて。たまに来るくらい。
家は、母親と子供、が一単位で暮らしていて、父親は男の集団で一か所に家を持っている事が多い。特に、僕らの土地みたいに農業地域の場合は男が集まって一気に畑などを耕していくので、集まっているほうが何かと都合がいいのだ。
そこから、「つながった」女達の家家に出向いて、そこに居座ったり、一緒に暮らしたり、定期的に移動したり、それぞれのやり方でそれぞれ過ごしている。
僕の父親は定期的に移動している人で、毎月一週間くらい滞在しては移動している感じ。
4人くらい「つながる」人が居るそうで。母親は良くその人達と一緒に農作業の仕事に出向いている。

一人の女の人が何人の男と「つながって」いる場合もあるし。
僕も一番上の姉とは父親が違うしね。

女は家で子育てと、あとは男と共に農作業から細かい仕事までを一緒にしている。
レル姉のように機械を扱うのが得意なら機械を操作するし。




男女という性別にたいしての区別はあるけど、基本的に仕事内容で区別したりはしてない。
得意不得意で分けているだけ。

「ところで、あんたはどうなのよ。セティファムとは仲良くしているの?」
レル姉が聞いてくる。
「別にレル姉には関係ないだろうに。」
「何言ってんの、もしかしたらこっちの集落に来てくれるかもしれないでしょう。関係有るわよ。あんな、綺麗な子がこっちにきてくれるといいけどねぇ。」
「そういう空想上の話はしない。」
「いつまでも、なあなあな関係していると、どっかいっちゃうかもよ。優秀な子だし。」
「その時はその時だろうし。それに、僕がこの集落にずっといるとも限らないじゃないか。」
「でも、この集落も男が減っているから。あんたこのまま居れば、いろんなところと「つながる」事も出来るわよ。」
「たくさん「つながって」も忙しいだけじゃないか。」
「お父さんみたいに、寝る間も惜しんでまめに動くくらいしないと、男はだめよ。」
と姉が言うが。そこまで頑張る意味も良く分からないので僕には真似できそうにないなぁ。

そんな話をしながら食事も終わって、みんなで後かたずけして(料理作る時に僕が居ないのは、邪魔になるから)。
そしてそれぞれに食堂でくつろいだり、端末を見ていたり。
僕は長椅子に座って端末をチェックしていた。

同じクラスの男子からの明日の事についてのお知らせとか、やり取りとか。
基本的に会って話せばよさそうな事はメールに書かないので、あっさりした書き方が多い。
どうせ明日会えるんだし。メールで書くと面倒だし。

と見ていると、サラッティからメールが来ていた。
最近同じ男から歌を良くもらって、しかもその歌の出来が今一つで。
うっとおしいので、どうしたらいいのかな、
という内容のメール。
なんで、僕にそれを聞いてくるかね?という感じで。

とりあえず、上達するまで付き合ってあげれば?
とメール返したら、すぐに
「その前に私が飽きそう。」
と書いてきたので。
「ボランティア、ボランティア」
と書くと
「関係ない人は気楽でいいわね。」
と返事。そして続けて
「じゃあ、気分転換にアレットの歌も聞かせてよ。」
と来た。
ここでも歌か。

その後もいくつかやり取りして。
切りのついたところで顔を上げて窓の外を見る。
もう真っ暗ななかに、遠くに月の映し出される池の様子が見えていた。
農業地帯なので、ところどころの溜池が存在しているのだ。

「歌ねぇ。」

とつぶやくと、姉がすかさず
「お、ついに歌を送る決心したか?」
と言ってくる。
「そういうレル姉は歌をもらったことあるの?」
「失礼な事いうのね。こんなにもらっているわよ。」と二つ手を広げて見せた。
とはいえセティファムより少ないんだな、と思ったけど口には出さず。
「どんな歌?」
と聞いてみると
「身の毛もよだつような歌から、素敵なハーモニーまで。いろいろね。」
「それって、レル姉をイメージしてみんな作っているのかな?」
「そう聞いたけど?でも、歌を聞くとわたしがどういう風に人に見られているのかが分かって面白いわよ。」

なるほど、だから女の人は歌をもらいたがるのか。
とセティファムとサラッティのメールの意図を理解した。

「でもね、やっぱり自分が好意を持っている相手からもらった歌が、一番いいんだからね。」
そう言ってレル姉は笑っている。
そう言われると、僕も意識してしまうじゃないか。

とはいえ、歌なんてしばらく作ってないしな。
と思いつつも、とりあえず端末を少しいじってみる事にした。




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