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まるの日<へミシンクとミディアムな暮らし> ※ブログ引っ越し中

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アトランティスの記憶 <終末期 14 >

2013-03-25 09:14:46 | 『日常』



その事件はあっという間に国中に広がった。
ついに、粒子発生装置が動き始める。そんな見出しで情報は発信され、シェズの判断がそれを導いたという話も入れ込まれていた。

粒子技術の復活、その視察に現場に入り直接指揮をする。
そんな話も出てきた。技術神官達は、その記事を見て顔をしかめた。

カズール達はなぜフェールが踊るとこうなったのか。その原因を探っていたのだが。
技術的に何がフラワーズ達と違うのかは、見えてこない。

何度かフェールにもまた踊ってもらったが。粒子発生装置に流れ込む粒子の動きがあきらかに違っていた。

そこから導き出されたフラワーズとフェールの異なっている唯一の点は、感情の動きから出てくるデータだった。
たのしく、喜びをもって踊る。

そして、アレスとカズール達技術神官が頭を揃えて何日も会議した結果、
導き出されたのは、心臓の上にプレートを載せて使った点に意味があるのだろう、という事であった。

感情の動き、それを読みとるには頭の正面よりも心臓の前にあるほうがより受け取るエネルギーも強く、情報粒子にそれが伝わりやすくなっているらしい。
そして、額にある時は思考が先に出るので、「粒子技術を動かさないといけない。」という意識が先に働くので、「動かない発生装置」を「動かすには」という方法を探すために粒子を使う感じになっていたので、意識の中に「動かないもの」「動かす」という二つの感覚が存在して、それで粒子を動くけれど動かない状態に抑えてしまっていたのが、
「気持ち良く粒子発生装置が動く」目的をもって踊ったフェールの方に粒子は素直に反応しているらしいと言う事。
緑色のプレートは心臓のところに位置するように置くと、それが個人の情報を受け入れてその個人専用の情報読みとり装置になって行くらしい、というのも、他のメンバーで実験して理解が進んだ。
何度も実験を繰り返し、シェズが何度も視察にくるたびに良い結果を出していった。

そして、ついに、その結果を報道関係に出す日がやってきた。

シェズが報道のカメラもいくつもひきつれてくる。

そこで、フラワーズには緑色のプレートを身につけて踊ってもらう。

ふわりふわりとした独特の動きと、そこに踊るメンバーそれぞれが補い合うような不思議な動きで。
一人一人の動きで粒子が反応し、その反応が集まると更に大きな反応を示し始める。
粒子が活性化し、動き始める。
踊りに呼応して、粒子も踊り始める。

出てくるデータの数値もそれがはっきりと見えてきた。
波形も、まるで音楽のリズムのように形をとり始める。

そろそろ、来る。

カズールは手に汗をかいているのを自覚した。服で手のひらをぬぐう。
これまでにないほどの粒子の反応。
ついに、動くか。

横にいたアレスを見ると、同じように手を握りしめて、その数値を見ていた。
カズールと目が合うと、軽く笑う。

ついに、粒子が動き始めるのだ。
俺たちの、未来を広げる粒子が。

シェズ達もモニターで動く数値を眺めながら、今までと違う動きに興奮しているようだった。
しきりに、となりに居る技術神官長に話しかけている。その都度、やや面倒くさそうに反応する神官長の姿も見えている。

「さぁ、動くか!動くのか!」

シェズがカメラを意識して興奮したように叫ぶ。
うっとおしい演出だ。と思いながらもカズールとアレスは目の前のモニターに注目していた。

ひときわ高い警報音がなる。
モニターの向こうにある補助装置に点滅するランプが灯る。

アレス、カズールは一斉にモニターの数値、警告ランプ、警告の数値レベル、それらに意識を向ける。
どこにも、危険箇所は出ていない。

オペレーター達も全てグリーンのサインを上げていく。

シェズが立ち上がる。

同時に、低いうなりが部屋に伝わってきた。
粒子が、流れ出した。

点滅ランプが安定し、緑色に変化する。

補助動力装置が安定し、粒子の循環も安定していた。
フラワーズ達の踊りも静かなものに変化していく。


カメラの目の前で。粒子発生装置がついに動き始めた。数百年眠っていたそれが唸りを上げて。回転を始める。
すべての、国中の人々がその様子を見て歓声をあげる。

ついに、この時代から解放される。
そして、新時代がこれから始まる。
粒子を使って、昔のアトランティスのように世界中に影響を与えられるくらいの国にまた復活できる。

そんな希望が国中に広がっていた。

粒子技術の復活がすぐそこまで来ていた。


シェズは神官長や周りにいた人々と手をつなぎ、そしてモニターの前に居るアレスとがっちりと手をつなぐ。
そのシーンが全国に流れていった。

新しい世界の始まり。
新しい、希望に満ちた世界が動き始める。
ハズであったが。

先程までの高揚した感覚が落ち着いたとき、カズールは何か、自分の中にある違和感を強く感じていた。

なんだ、この感じは。これから先の未来が明るくなるはずじゃないのか?
なぜ素直に喜べない?

フェールのことか?フルカのことか?

それとも・・・・・・?






その後、シェズ達のほうで、いつごろにメインの粒子発生装置を本格的に稼働させるか、その打ち合わせが行われていた。
アレスが最近良く顔を出せるようになったので、カズール達はその状況を聞くことができるのだが、

会議の内容が、統計的に天候の良い日、とか、著名な人物の記念日と重ならないように。とか技術神官側の意見が全く採用されていないところに、皆苦笑していた。

すべての流れが決まるまで、たぶん3カ月以上は先だろう、という予想もあり。

技術神官側でも、その予定ですべての流れを積み上げて行く。
今流れている粒子は、本格的に稼働させるにはまだ不足しており、
すべてが順調に流れるにはもっと多くの緑色のプレートを使えるメンバーが多数必要となってくる。
技術神官で、カンの優れているメンバーはそちらに入り、粒子発生装置とその補助装置を動かすための粒子の性質やその力について勉強をしていた。

「しかし、覚える事たくさんありすぎて。これは無理だろう。」
カズールが休憩室でお茶を飲んでいると、隣にフルカがやってきてそう言う。手には分厚い紙の束。

「だいたい、古代の人々もこんなにものを覚えなきゃ粒子はつかえなかったのかな。」
その言葉に、ハッとした。
そうだ、粒子技術を使っていた時代は、そもそも紙の媒体自体が存在していないはずだった。
情報を伝えるのも一瞬で出来上がるし、いつでもその情報は粒子から引き出せたからだ。
そういえば、なぜ我々は紙を介してでないと情報を理解できていないのだ?

そう言う話をフルカとして見ると、フルカは
「粒子から得られる情報は、どうも信憑性が薄いんだ。今たとえば家の中の自分の部屋を想像すると、そこに何があったかを思い出せるだろう?しかし、それは正確かどうかは行ってみないと分からない。そう言う事を今繰り返しているからだよ。」
と粒子を扱えないカズールに、粒子を扱う側のスペシャリストになっているフルカが説明する。
古代の人々は、なぜ情報粒子の情報を信用できたのか?
そういう話になったが。結論として。
「慣れだろう。」
とフルカが一言。
歩いたり走ったりするのも、慣れているからできるんだし、ということで。

粒子を扱う、というのにもこれだけの訓練が必要であるならば、結局この技術は選ばれた人にしか使えないものになって。
結局支配の道具に使われるだけじゃないのか?

とカズールは思っていた。本当に、この世界が豊かになるのだろうか。

疲れているフルカに甘いレモンとはちみつの飲み物を渡して、カズールは資料室に戻る。
何かが、ひっかかる。
しかし、それは自分の中にあるフェールに対する整理できていない気持ちから発するものではないのか。
それを考えると、今の自分の感覚を信じられなくなる時もある。

人間は、面倒臭い生き物だ。
一人苦笑して、
資料室へと足を運び、粒子を動かすシステムについての資料を探ることにした。




技術神官の実験と、軍の現場での迅速な行動により着々と塔の中にある、巨大な粒子発生装置の本稼働に向けての動きが活発になってきた。

シェズも直接何度も見に来ては、テレビの前では激励の言葉を唱えていた。
現場でも、人心をつかむような、そんな演説を繰り返して現場の士気高揚にももっていく。

半分はその演説に感動し、半分はその演説を苦々しい気持ちで聞いていた。
「なら、お前がしろよ!」
と実行しているメンバーの内心にはそういう気持ちがあった。

アレスが一度家に戻るというので、カズールも一緒に行くことになった。
極秘の話は馬車などの移動中の中で行うのがいいからだ。家に戻る必要もあったのだが、口実でもある。

「粒子を動かして。本当に世界が豊かになると思うか?」
とカズールはいつも思っていた疑問を出してみた。アレスはしばらく目をつぶり。
「動いていないものは、動かしてみないと分からない。新たなテクノロジーが手に入れば、それは社会を活性化させることができる。粒子技術はその力を持っていると思うが。」
「シェズ独裁の道具に使われるだけではないのか?」
「あれは人から良く見られたい、という一念で議長にまでなった男だ。人から悪く思われるようなことはしない。」
「その意識が本当に続くのだろうか。」
「そのために、俺達は安定して情報を与え、シェズが焦って間違った行動を起こさないようにする。そのための仕事が俺達だと思っているが。」

そんなやり取りをして。そして、カズールは自分の思っている事を言った。
何か違和感があると。
粒子を得るため、動かすためにこれほどの人員が必要であれば、それを動かしていた古代の人々はいったいどうやってこの技術を身につけ、使っていたのか。

アレスは、いきなりそこまで技術を復活させる必要もないだろう。という話をする。
ヤッシュ議長の後にある時代。そこでは粒子を使って、今のテレビや紙媒体のような役割を持つものを動かしていた。
その時代は豊かで、人々はすべて繋がっていて。平和で安定した時期だったという。
アレスの目標は、その状態に戻すことであって、粒子技術だけで人々が暮らしていた古代の状態まで戻すつもりはない、という事を言う。

「技術屋のカンだが、粒子技術を、今復活させることは危険なんじゃないかと思えるようになってきた。」
とカズールが言う。
アレスは一瞬あの時に見た映像が蘇ったが、手で額を抑えて表情を隠し。
「そうかもしれない。新しい力は人を狂わす。しかし、力を加えないと動かない時もある。」
それを聞いてカズールが少し笑う。
「アレスも、すっかり政治家になったな。」
と言うと、アレスも苦笑して。
「本当は、フェールと海辺の土地でゆっくりと生活できれば、と思うよ。」
「それをやればいいじゃないか。」
「そのために、粒子技術を復活させる手だすけをしてる感じだ。」
「それを投げ出してみたらどうだ?」
「もう、投げだせないところまで来てしまっている。あとは先に進めるだけだ。現場だけでは分からない事もある。」
「同じように、現場でしか分からない事もある。」
そう言って、二人は笑いあった。

そして、馬車はアレスの家に着いた。
フェールが出迎えに出てくる。こんどはカズールの姿を先に見ていたので、いきなりアレスに抱きつくようなことはしなかったが。

柔らかな日差しのような笑顔で話しかけてくるフェールを見ていると、何か、今の状況すべてが無意味なモノのように感じられるくらい。ホッとするものがある。

そのまま、庭でしばらく3人でお茶を飲んで、他愛も無い話をする。
フェールが最近起こった出来事を話し、それにアレスとカズールが頷き、ほほ笑む。
ここでは、仕事の話は出てこない。日常にあった、たのしい出来事をただ話すだけ。

温かい日差しの中でゆったりとした時間が流れていった。

粒子がないから、俺たちはこんな関係で過ごしていける。
だから、今更粒子などは必要ないのではないか。

それが復活すると、今のこの世界が。自分の持っている世界が壊れてしまうのではないか。

そんなことをふとカズールは思ってしまった。

ひだまりのなかで、美しく輝くやわらかな金髪と笑顔がとても眩しく
お菓子の甘い味と、お茶から漂う花の香りがいつまでも心に漂い続けていた。


別れ際、フェールがプレートをまだ胸に下げているのを見つけて、カズールが指摘すると、
「これ、綺麗だしいろいろと使えるから。それに、忘れ物が減るし。」
と言ってほほ笑む。
それを聞いて、「確かに、これを身につけてからフェールのぼんやり加減が減ったんだ。」と言ってアレスも笑う。

「もしかして、このプレートは情報粒子を集めやすい性質があるから、それで記憶の力が補助されているのだろうな。」とカズールが言うと。
「あら、この子はそんなふうに役にたってくれているの?」
と嬉しそうにフェールが言う。
「情報粒子が街にも存在しているのか?」とアレスが聞いてきた。カズールはこれまでに得たデータから、日常的に粒子は空気中にごく薄い濃度で存在はしているらしいという話をした。
空気と同じで、加熱していけば温度差ができて風が起こる。粒子も「発生装置」でエネルギーを充填させると、それが動き始めて人の意識と繋がりやすくなる。
今は補助の粒子発生装置が動いているので、この町の粒子が少し刺激を受けて活性化している部分はあるという事を話す。
「なるほど、その活用法が確立すると、一般の人々も粒子を使えるようになるな。フェールにさえ影響が出ているくらいなのだから。」
「まぁ、私にさえ、ってどういう事ですか?」

そう言って二人は笑いあう。

その姿をまぶしそうに、カズールは見るしかなかった。




その後、アレスとカズールは神殿に戻り、アレスは緑色のプレートについて資料を集めて行って、カズールは技術神官の長との会議に戻っていった。

結局、アレスから直接気兼ねなくものを聞けるのはカズールだけなので。
技術神官の長も、カズールからアレスの動向を聞きだす事をよくやっていた。
「直接きけばいいだろうに。」と思うところだが、アレスの性格を知っているだけに、長の考える事も良く分かる。
アレスは俺から技術神官の情報を聞いてシェズとの話に使っているのだろうし。
まぁ、二人ともおなじような立場にいるということか。

とはいえ、相手の事を二人とも信用しているので、言うべき内容と言わないほうがいい内容については打ち合わせなどなくとも自分で判断していた。


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