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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

アトランティスの記憶 <終末期 20 >

2013-03-31 08:18:58 | 『日常』


あの事件から、2年が経過した。

ついに、シェズとアレスの悲願であった。
「粒子技術」の復活に、めどがついてきたのだ。

粒子技術の内容は小出しに国民に知らされていて。常に飽きられないような工夫が行われ。
そして、粒子技術の復活に対して懐疑的な雰囲気になるときは、他国へと武力による攻勢に出かけて国民の意識をよそへと向けてかわして。
という事を続けるうちに、シェズに対して反対の意見を言うものもほとんど居なくなり。
シェズの独裁政治がそこに存在していた。
一応、議会はあるのだが、議長に「拒否権」が付けられ、議案でも議長の最終判断が無いとそれが通らないという仕組みに変えられていたり。
情報に関しては完全にシェズの政府がすべてを管理し、カズール達の事は一切表に出てこないようになっていた。
個人が情報を発信する仕組みもなく。
多くの国民は、発表される情報の通りにそれを信じ、そして行動していた。

その頃、アレスは粒子技術の復活をほぼ確信していた。
情報粒子への書き込み、読みとりを行えたり、力粒子によるモノの移動も成功している。
もちろん、ある程度の訓練が必要なので、志願している新しいフラワーズ達だけの話ではあるのだが。
その情報も国民は知っていて。早く自分達のところにもその技術が来ないかと、夢の技術の提供を心待ちにしている。

あとは、広い範囲での実験をなんどか繰り返せば大丈夫だろう。

今度、塔の近くにあるスタジアムを利用して、そこで粒子の実験を行う事にしていた。
複数の人間が同時に存在している中で、その技術を使用するとどうなるのか。
それを見極めてからの全体への公開。
アレスはその準備に追われていた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
カズールは、フルカと丘の上に座って、オレンジをかじっていた。
「今年は、果樹園の管理は僕がやったんだ。どうだい?出来がいいだろう?」
とフルカが聞いてくる。オレンジの味なんて、同じだろうに。と内心思いつつも、ここで自信を失くされても困るので。
「ああ、美味い。」
というと、それを聞いてフルカは花の開くような笑顔を見せた。
フルカも、農園ではそれなりに充実して過ごしているようで。何をするにも凝り性なところはあるので果樹園での作業もかなり身につけてはいるようだ。

「フルカには、今度出発する船団の一部を指揮してほしいのだが。それは大丈夫か?」

「このまま、僕が農民になってしまいそうな事思っていたんだろう。大丈夫だよ。カズール達からの文章もちゃんと目を通しているし。
この農園でもその話は出ている。すでにグループ分けされて、それぞれで役割分担もされてきているし。一万人くらいの移動であれば、8グループにまとめて行けば何とかなるだろうし。
その中で、連絡を取り合う人員の確保さえできていれば問題ない。」

「それは心強い。」
カズール達は、来るべき日に備えて。あらゆるところで動いていた。
この政治犯の収容施設では、もともと支配階級の者が多いので、人をまとめて動かすすべは心得ている者ばかりであった。
なので、グループごとに役割を決め、箱舟ごとに乗る人員もすでに決められていた。
そして、それをつなぐ横のつながりを充実させておく必要があったが。同じ農園に居るためにそのあたりのうちあわせもスムーズに行われ。
逆に集中しているからこそ、仕事を進めやすいところもあったのであった。

農園というゆるい体制であるのもあって。このような動きに気付いている者も少ないようであった。

「もうじき。動く。」
カズールがそいうと、フルカが頷いた。
農園の丘の上。そこからは美しく育った農作物の姿が見えている。
この農園の作物も、少しずつ地下の通路に貯蓄して、長旅のための保存食料の元にもなっていたのだった。

脱出を心に決めた人々がそれを行っており。
気がつくと船を作る場所であった地下の施設が食料作りの施設に半分くらいを占められてしまって。
トエウセンが苦情を言っているという話も聞いた事がある。
しかし、これも重要な作業なので、同時に行われていた。

箱舟計画も進み、この発動は、粒子技術の公開と同時に行う予定になっていた。
なぜなら、粒子が国中に満たされた時、その時に26の存在が目覚めるからだ。



ヤベーへはその後、ほとんど姿を現さない。
フルカはその姿を見た事はなく。一部のメンバーだけが知っている存在でもあった。

それぞれの思惑のなかで、それぞれの動きが満ちてきて。



そして、流れが動き始める。





・・・・・・・・・・・・



アレスとシェズは、スタジアムに来ていた。

ここで、不特定多数のいるなかに粒子を満たし、そこでフラワーズ達がちゃんと粒子を使えて、そしてそこに居る不特定多数の人物に対して影響は無いのか。
というものを調査するのだった。
狭い領域での実験では、何の問題もなかったが、これが数万人規模になるとどうなるのか。
という実験である。

観客席には、主に犯罪者として収容された者が並べられ。
身動きできないように椅子に固定されていく。とはいえ、ほとんどがシェズの思想に反対していたモノたちであって。
独裁政権により、何らかの罪状をあてはめられて収監されている人達であった。

シェズとしては、もしもこの実験が失敗した場合は。
犯罪者の暴動として一気に片付けるつもりであり。もしも成功した場合は犯罪者にもちゃんと粒子技術の素晴らしさを体験してもらって、早く社会復帰をしてもらえるようにしているという宣伝にも使うつもりであった。

どっちになってもシェズに都合の良いようになる。いつもそのような備えをしているのがシェズと言う男であった。

アレスはそのような事はお構いなしに、自分の仕事を片付けて行く。
粒子の濃度、散布範囲。
そして、人の配置。

アレス直属の部下にすべてを指示し、ロールンと共にシェズの待つ指令室へとやってきた。
この指令室は粒子を通さない材質で出来たフィルムでコーティングしてあり、何か問題がおこっても、この内部には影響が出ないようになっていた。

モニターにはあらゆる角度から写されているスタジアムの内部が見えてくる。
指令室には軍の部隊も入っており、あらゆる角度からのチェックが入れられていた。
スタジアム各所には、シルバーコートに身を包んだ軍の人員も配置され、それらは重火器により武装されている。
暴動や、何か不測の事態が起こった時に対応できるようになっている特殊なメンバーであった。

すべての準備が整った。

満席になった、二万の囚人が見守る中、フラワーズが入場してくる。
中央の舞台に登り、そしてライトがあたる。

「粒子注入。」

アレスが指示を出す。
指令室にいる技術神官達が、それに答える。
「粒子注入開始。」

数値が上昇していく。いつもの部屋で行っている実験濃度まで上げる。
「粒子濃度固定!」
「粒子濃度固定」

復唱する声が響く。

「粒子密度報告!」

「1~4正常」
「5から8やや微弱。」
「9から12、正常」

「7の濃度レベルを上げろ!」
「7のレベル上げます。」
「5から8、正常値」

それと共にレバーやスイッチの入れる音。
機器が唸り、部屋の温度も上昇していく。
人々の緊張感も上がって来たためか、機械の作動熱によってか。

そして、アレスはシェズに伝えた。
「準備完了です。」
シェズは頷く。そして、実験スタートのスイッチを押した。
このスイッチは、ただのランプスイッチで。ステージの横にあるブース内に明りが灯る。
それを見て、フラワーズに指示が飛ぶ。
「第一フェーズスタート!」

最初は、情報粒子へと情報の書き込みを行う。

バンダナへと意識を集中し、踊りの中から書き込みたい情報を選択し。
そして粒子へと記録させる。
中央の一人が情報を書き込む。

見た目にはダンスをしているように見えるが、その踊りの動きそれぞれに意味があり。
それを繰り返すことで情報粒子に記録をさせて行くことが可能となっていた。
古代に行われていたやり方とは違っているが、今まで発掘してきた資料から作り上げた。
今自分達にできる手法である。

昔に行われていた、踊り子の行うやり方をアレンジしている感じであった。

書き込み中は特に何もなく。すべてが順調である。

「すべてのデータは正常。」
「異常報告も無し」

スタジアムに居る軍の監視者からの報告、機器からの情報が読み上げられていく。
「書き込み完了。」

アレスにその言葉が伝えられた。
スタジアムには特に異常はない。

「第2フェーズに移行。ダウンロード」

現場で、中央で書き込みをしていたフラワーズメンバーが舞台から降りて、他の複数のフラワーズメンバーが舞台に上がる。

そしてダンスを行い、先に書きこまれた情報をダウンロードする。
その踊りは、踊っている人だけに降ろすのではなく、周囲にいる観客たちにもその情報が伝わるように踊っているのだった。

「粒子の動き正常の範囲内」
「被験者への情報到達予想、5秒後。」

指令室にいる全員がカウントの数字を見つめる。
いやに長く感じる5秒。

そして、カウントが0になった時。
観客席にいる囚人たちから、どよめきの声が聞こえてきた。

身動きできないように椅子に固定されているが、脳にイメージとして送り込まれてきた情報に、皆が驚きの声を上げている。

「粒子正常」
「被験者に異常者ナシ」
「フラワーズメンバー、異常なし」

この時、情報に送られた内容は。輝かしい粒子技術を復活させた時に行われる予定の、シェズの演説であった。

そう、シェズは国中に粒子が満たされた時、こうやって演説内容も伝えようと考えていたのだった。
直接脳に情報として送り込む演説。

シェズは無意識に微笑んでいた。
ついに、自分の世界がやってくる。
そして、世界を変えた男「シェズ・アーム」の名前は歴史に残る。

「無事成功ですね。」
アレスが背後から声をかけると、シェズは振り向いて、そしてアレスの手をぐっと握った。
「ありがとう、これからもお願いする。」

その瞬間を報道カメラが納めている。
どこまでも、自分を目立たせたいのか。
アレスは手を握られながら、そのショー的なやり方に嫌悪感を感じつつも、実験の成功には素直に喜んでいた。
誰も命を落とさず、あれからの実験は成功しかしていない。
これで、やっとフェール達に報いる事ができる。

犠牲の上にある粒子技術。
これは今後も失われないようにしなければいけない。

シェズと握手した姿を、複数の報道カメラが撮影し、フラッシュも焚かれる。
アレスとシェズ。

その姿を見て、ロールンは部屋の隅で涙をぬぐっていた。
二人の心情をしっていて、二人があらゆる事を行いつつもこの技術の復活にかけてきた気持ちを知っているから。
シェズの孤独な心。そしてアレスの大切な人を失った喪失感を超えて実現した技術。

「おめでとうございます。」

ロールンは二人に向けて、そっとつぶやいていた。







・・・・・・・・・・・・・・

その時、塔の中央。その地下で1つの動きが起こっていた。
ヤベーへが地下の通路から、26の存在の眠る部屋へとやって来たのだった。

そして、ヤベーへは自分の入っていた丸いクリスタルへと情報を送る。
塔の地下にあるこの部屋には、中心にある巨大な柱の周囲に配置された、26の丸い巨大なクリスタルに、26の存在が一人一人封じ込められていていた。

ヤベーへは空になった自分のクリスタルに光を送る。
すると、それはすべての、26の存在が封じ込められているクリスタルに伝わり。
クリスタルが波打つ。
硬質なクリスタルが水のように波打ち。
そして、中にいた存在達の目が開かれる。

「そろそろ。起きる時間だ。」

ヤベーへの声がその空間に響き渡った。






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