薮内正幸さんという動物画家をご存じでしょうか。
私が薮内さんの作品と会ったのは、たぶん絵本の中で、図鑑の中です。気がつかないところでもっとたくさん出会っているかもしれません。
薮内正幸(やぶうちまさゆき・1940-2000)は大阪出身の動物画家。
1959年、19歳で高校卒業と同時に上京、福音館書店編集部に入社。国立科学博物館に通いながら、今泉吉典博 士の指導の下、動物の骨格標本や剥製をスケッチ。翌年より『世界哺乳類図説』のイラストを描き始め、これが、 動物画家としての出発点となりました。
1965年、『くちばし』(福音館書店)で絵本デビューし、以降、『どうぶつのおやこ』(福音館書店2009年1月現在100刷)、『しっぽのはたらき』(福音館書店)、『きょうりゅうのかいかた』(岩波書店)など多数の絵本が刊行されていま す。
『広辞苑』(岩波書店)や『世界大百科事典』(平凡社)の正確無比な挿絵も薮内の手によるものです。また、各地の 動物園の案内板や解説パネル、切手「自然保護シリーズ・アホウドリ」の原画などの仕事も手がけています。
「サントリー愛鳥キャンペーン」のイラストも担当し、この広告で朝日広告賞グランプリを受賞。この連載は13年間 続き、自然保護活動の一翼を担うことになりました。
1983年に第30回サンケイ児童出版文化賞、1989年に第9回吉村証子記念科学読物賞をそれぞれ受賞。
1985年、吉祥寺に仕事場を構え、亡くなるまでここで制作活動を行いました。
動物絵本を読んだことのない人でも、ポスターや広告、あるいは動物園の案内板など、どこかで薮内正幸の描い た動物や鳥に出会っているはずです。
(武蔵野市立吉祥寺美術館HPより抜粋)
「薮内さんの作品」と認識したのは、動物園でアルバイトをしていた時でした。薮内シリーズとして、マグカップや文房具などのグッズを販売しています。
2000年に60歳の若さで亡くなってしまったことを知り、この人の描いた動物たちの原画を見てみたいなと思っていましたら、2004年に「薮内正幸美術館」が開館しました。
…ところがこの美術館は山梨県にあって、なかなか行くことができませんでした。動物園に展示のお知らせが来るたびに「いいなあ、いいなあ」とうらやましく思っておりました。
そんな願いが通じてか、なんと、吉祥寺美術館で展示をしているというニュースをZOOネットで知りびっくり!井の頭自然文化園内でも絵本の展示をしているというのです。これは行かなくては。
まずは井の頭自然文化園。

絵本を楽しむ、ということで、絵本コーナーに作品の展示と、動物画のブラスラビング(右の写真下:金属板に彫られた画をこすって紙に写し取る)が置いてありました。





このブラスラビング、クレヨンで写したのですが、鉛筆でやればもっとうまく写ったかもしれなかった~。鉛筆を持っていけばよかったと後悔しつつ、でも写しとったという興奮で私は満足(笑)
見にくいですが、ホンドテン、ホンドタヌキ、オシドリ、ニホンカモシカ、ホンドキツネです。日本の動物をこうしてきちんと紹介するってことが大事なのです。
薮内さんの作品の何が感動してしまうかというと、日本の動物たちが生き生きしているというところ、です。
若い時は(笑)というか、動物を描き始めたときは、アフリカゾウや、コンゴウインコ、フウチョウなど、外国の派手な奇抜な動物…つまりは動物園にいる動物たちばかりを描いていました。東京に生まれ住んでいると、アフリカゾウもツキノワグマも動物園で同じように見られるので、「同じ」と感じてしまいます。
しかし、ツシマヤマネコと出会ったときから、「地域に密着した動物…それが日本の動物」という認識を知り、そういう目を持って改めて動物を見てみると、日本古来の動物たちの、地味ながらも奥深い魅力に気づきはじめました。
薮内さんの作品は、日本の動物がとても多いのです。それは身近にいる動物そのものの姿で、みんな一所懸命生きている。そのひたむきな姿を、愛情をこめて描いていらっしゃいます。日本にいるから、見ている自分が日本人だから、懐かしく、すんなり心に響くのです。
また語ってしまった、、、ここからが本番なのに(笑)
動物園を出て武蔵野市立吉祥寺美術館へ。ここの入館料、100円なんですよ!すばらしい。
↓武蔵野市立吉祥寺美術館HPより抜粋


このレッサーパンダ、原画は精密なペン画でした。この絵のマグカップ、動物園で売ってますよー。ああ、素敵。

シジュウカラガンをメインにするなんて…すごすきますよね。以前の私が同じお題を頂いたならフウチョウをメインに描いてしまいそう。
←裏藪作品「フクロネンネコ」
この「裏藪作品」というのは、「どうぶつと動物園」という動物園発行の雑誌のイラストを担当されていた時に、その作品を送る封筒の裏に描かれた「薮内さんのダジャレ作品」です。
「ゾウ木ばやし(象の顔がたくさん生えている)」とかとにかくユニークで、担当者の方がちゃんととっておいてくださったものです。
なかでもこの「フクロネンネコ」が最高!フクロネコという有袋類がいるので、そんなダジャレなんでしょうけど…。おんぶ寝巻きにこどもッチが詰まってるとか、カワイイ。。。。。この絵のTシャツが欲しい(笑)
展示で特に圧巻だったのは、「サントリー愛鳥キャンペーン」シリーズの原画。
鳥を描かせたらこの人!と思うほど、鳥の魅力のすべてがここにあるなあと、言葉がでないほどすごかった。
2メートルくらいある大きな絵とか、ポスターの原画とか、目からウロコで感動してしまった…。
紙をつぎはぎしていたり、絵の周りを白で塗りつぶしていたり、「ああ、私もよくやる~」と思いました。(笑)なぜにつぎはぎをするかって、これは私の経験ですが、2つバラバラに描いた絵をもう一度1枚の紙に収めようとするんだけど、その絵ってそのときのテンションがないと2度と描けないものだったりするので、つぎはぐしか方法がないわけです。
絵の描き方や、色の塗り方は日本画に近い。(私が今描いている方法と似ている…うんうん、こうやって描くかもしれないというのがなんとなく分かりました)水彩かポスターカラーか、とにかく色がきれいだったなあ。水彩に勝るものはないかもね。
高校を卒業してすぐこのお仕事を始められているということは、絵は独学だったのでしょうか。
独学でもここまでの世界を創りだしてしまう理由、ひとつには神様からの才能と、膨大な動物観察の努力であるけれども、動物の体そのものがアートだから、だと思います。
動物の体、骨、毛の色、鳥の羽、それがすべてアートで、デザインで、それを「そのまま」愛情をこめてていねいに描くことで、人間が想像もできない「アート」になる。
具象って、すばらしいな。うんうん、具象でいいんだな、と改めて思いました。絵作りをするとか、時代にそって絵を描くとか、もうそんなことどうでもいいのです。対象にむかって必死に愛情をたっぷり注いで描くということが、どれだけ人の胸をうつものか…
とにかく、感動の連続の展示でした。
お土産も奮発していっぱい買ってしまいました。
ポストカードもいっぱいあったけれど、鳥のシリーズをたくさん買うなら図鑑のほうがいいなと思って買ってしまいました。この鳥の図鑑、本当にすばらしい。子供のころに戻ったみたいに夢中で読んでしまいました。

↑ポストカード。薮内さんといったらハリネズミの親子そして猛禽類。

『野鳥の図鑑』
●にわやこうえんの鳥からうみの鳥まで● 薮内正幸 さく : 福音館書店
薮内さんの作品とたくさん出会えて幸せでした。
さ~~やる気が湧いてきたぞ~~!がんばろう!