
故郷長州を追われた壬生浪士・佐伯又三郎。彼は隊内の間者なのか―。
芹沢一派の駆逐を謀る土方歳三。
芹沢たちは、大和行幸を企てる浪士集団と通じているのか。
近藤派の相撲興行の思惑は?斎藤一は何者か。
歴史が動いたその時に、井上源三郎は巻き込まれながら「謎」を追う。時代のからくりの謎に挑む、
新境地の新撰組書き下ろし長編小説。
笄(こうがい)
☆かんざし・刀の鞘(さや)の差表(さしおもて)にさしておく篦(へら)状のもの。髪をなでつけるのに用いる
鱧(はも)は「骨切り」といって白身の魚肉と骨に細かい切り目を入れて調理する。
「鱧は他の魚に比べて馬鹿みたく生命力が強く、瀬戸内海から京までの過酷な陸路を生簀の中で生き延びることができるんです。こんな強い魚は鱧だけです」
「馬鹿野郎。食われてどうする。鱧になって過酷な道のりも生き延びるのよ」
天然理心流試衛館
「椿は萩の花じゃ。あの地は空が灰色の季節になると地面が真っ赤になるけに」
雪雲に覆われた城下町の地面に、切り落とされた首のような赤い花がころんころんと転がる姿を想像してぞっとなった。
水戸には天狗党と呼ばれる尊皇攘夷派有志によって結成された過激派の連中がいる。
芹沢鴨も元をただせば天狗出身だ。
芹沢はこの天狗時代、過去のあった部下を一列に並べ、
有無を言わせず駆け抜けざまに全員の首を斬り捨てたという伝説を持つ。
「風は一つどころへ留まれんじゃろう。そんな風にも棲む場所があるというてのう。
それを風の宿りと名付けたそうじゃ」