プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

家族未満

2011-11-23 23:58:43 | SS






 それはまことが火川神社を訪ねた時のこと。

 鳥居をくぐってまず一番に探すのは彼女。大体は巫女服姿で箒を持ってそのあたりを掃いているか、境内の中で接客をしていることが多い。そうでなければ中で祈祷でもしているか。
 中学生にして仕事人間のレイの放課後は、大体その三択の行動に絞られる。好きでやっているのは分かるが、まことは内心で疲れたりしないんだろうか、とも思っていた。
 でも露骨に心配しても鬱陶しがられるだけなので、気が付けばこうやって何食わぬ顔で訪問する癖がついていた。

 週末にはちゃんと約束がある。でも、その間でも、会えば少しは安心する。

「……お」

 そしてその日は珍しく三択から外れていたようだった。
 巫女服を着て箒を持っているのはまことの予想通りだが、レイは境内の柱にもたれ気怠そうに電話をしていた。珍しいことに少し驚きながらもまことは、終わるまで待つか、と歩みを止める。だがレイはそんなまことに気づいたらしく、電話をしながらこっちに来いとまことを手招きした。

 何をしているときでも他人の介入を嫌う彼女が、電話中に手招きをするとは珍しい。彼女でなくても、電話中に人をわざわざ呼ぶなんて行動はなかなかするものではない。
 それでもレイが来いとしているのだから逆らうことはしない。もう終わるのかとまことは首を傾げつつひょこひょことレイの傍による。それでもレイはまだ電話を切ってはいなかった。
 聞く気がなくても会話が聞こえてくる。

「……だから、先約があるって何度も言ってるでしょう…無理なものは無理」
「………………………………」
「お客が来たからもう切る」

 言って、レイは少し大げさに電話を切る。そしてまことに目線を向け、珍しく微笑んだ。

「いらっしゃい」
「…あ、うん」

 意外なほど友好的なレイの態度にまことは若干の戸惑いを覚え目を逸らす。珍しいことが重なると違和感を覚えてしまうものだ。呼ばれてもいないのにやってきた自分を微笑みで迎えるなど、レイらしくない。
 正直不気味だとすら思った。どこかいたたまれなくなりまことは慌てたように声を出す。

「…えっと、いいのか?電話。あたしのせいで」
「いいのよ。切りたかったのにしつこいから…あなたが来てくれてちょうどよかったわ」
「…ああ」

 そういう理由ね、とまことは内心で納得する。そしてそういう理由がなければ笑顔で迎えてはくれないということも。結局どういう顔で迎えられてもレイはぬかりなくレイなのだ。
 ともあれ不気味だと思う感情は消えた。

「しつこいって…誰と話してたんだよ」
「パパ」
「ああ…ええ!?お父さん!?」」
「しつっこいのよ。週末予定が空いたから食事に行こうって。私はいつでも暇とでも思ってるのかしら」
「え…そんな、いいじゃないか食事くらい」
「週末は予定があるのよ。あなたと」

 あなたと、を妙に協調してまことを見上げるレイにまことはたじろぐ。レイと父親の折が悪かったのは知っているが、それでも少しずつ和解に近づいてきていることも知っている。まことが見たところ二人とも頑なで意地っ張りなだけで、少しずつ話し合えば距離は縮まるであろうことも。
 それが分かっていてこの状況はいただけなかった。

「そんなこと言ってもだな…最近お父さんと会ってないだろ。せっかく言ってくれてるんだからたまには会ったら?」
「先にある予定つぶしてまで会えっていうの?都合のいい女扱いはたくさんだわ」
「都合のいい女って、愛人じゃないんだから…親子だろ。あたしは別にいいから、むしろ行きなよ」
「私にはあなたの方が大切」

 普段絶対に言わないようなセリフをしれっと言ってのけるレイに、まことは気恥しさ以上に違和感を覚え気圧された。
 父親と会えなければ会えないで内心寂しいと思っているのも知っているのに、それでいて枷になるのはまことには嫌だった。聞いている限り、あくまで先約があるという理由以外、彼女に断る理由はないように思えた。口でも決して会うこと自体が嫌とは言っていない。

「…そう言ってくれるのは嬉しいけどさ…お父さんとこ行きなって。あたしはほら今日だって来てるしいつでも会えるけど、お父さんはなかなか会えないんだろ?あんただってあたしとの予定がなかったら行っただろ?」
「あなたの方が大切だって言ってるでしょう。あなたと会える機会を一回でもつぶしたくない。しかも、そんなことのために」
「あのなぁ…」

 何が彼女をそこまで言わせているのか、レイは素直というよりおかしな意地を張っているように見えた。
 こうなるとレイは絶対に首を縦には振らないだろう。まことに対して意地を張っているならそれはそれで扱いを覚えてきたが、こういう状況にはまだ慣れない。

 まことは一思案する。

「…じゃああたしは週末あんたに会わないよ」
「はぁ?」
「急用できた。だから悪いけどあたしとの予定はなしにしてくれ」
「冗談でしょ」
「いやぁうっかりしてたよ。ごめん。また埋め合わせはするから」
「もうちょっとマシな嘘ついたらどうなの?」
「う、嘘じゃないよ。大体、あたしのせいでせっかくの機会を逃すような真似は」
「あなたとの予定がなくなったところで私が行くとでも?」
「……行きなって」

 慣れないことをしてもやっぱり駄目だ。言ってみてその嘘のくだらなさに自分で呆れる。しかも、レイはさらに態度を硬化させてきた。
 レイは目を細め射抜くような目でまことを見つめる。まっすぐ据えるその瞳にまことは思わず目を逸らした。いつの間にか壁際に追い詰められて、それでもレイはいつもより近い距離でまことを睨んでいる。

「…行ってあげなよ」
「どうして」
「…家族じゃないか」
「一緒に住んでるわけでもないのに」
「一緒に住んでないからこそ、会える機会は大切にするべきだろ。少なくとも、お父さんはそう思ってる」
「向こうがそう思ってるからって私がそう思わなきゃいけないわけじゃない」
「…なあレイ。本当に嫌なら、あたしは何にも言わないよ。実際一回それであんたを連れ出したこともあるし。でもな…今は他人のあたしから見ても、レイはちゃんと愛されてるって分かるんだよ。レイだってお父さんのこと本気で嫌いなら、電話だって出ないはずだろ」
「………………………」
「あたしには家族がいないから、家族が必ず大切だなんて言えないし分からない。血の繋がりが却って煩わしい場合だってきっとあると思う。でも、少しでも、思うことがあるなら…」
「………………………」
「あんたも知ってるはずだ。人間、いつ何があるか分からない。その時に後悔したって遅いんだぞ」
「………………………」
「レイ」

 下からまっすぐに見つめてくる瞳がある。いつもまっすぐなその瞳は、それでもほんの微かに惑いの色を見せる。

 ようやく、目線が外れた。

「……分かったわよ。行けばいいんでしょ」
「そっか。よかった」
「…でも、あなたがそう言うのなら尚更」
「え?」
「私はあなたをあきらめることはできない」
「…え?」
「あなたが一緒に来てくれるなら行く」
「えっ…ええええええ!?」

 それはまことにとっては爆弾発言だった。
 しかしレイはそこでようやくまことから、獲物に興味をなくした猫のようにふいと離れる。そして唖然としているまことをよそに、悠々と携帯電話を探る。

「じゃあ今からあなた誘って行くっていうから」
「ちょ、ちょっと待てレイ」
「まだどこ行くかは決まってないけど、何か食べたいのある?希望があるなら聞くわよ」
「いや、そうじゃなくて」
「本当はほかの予定なんてないでしょ。お金なら大丈夫よ、向こう持ちだから」
「そうじゃなくて…ちょ、こら、やめろ」

 聞く耳を持つ様子のないレイにまことは焦るしかない。もう既に耳元にまで持って行かれていた電話を大慌てでひったくると、レイは不審なものでも見るような目でまことを見つめた。
 
「ちょっと…電話返して」

 その意外そうな表情がまことに更に動揺をもたらす。
 どうして、行って当然、というその態度が取れるのか。

「何を…勝手なことを…」
「別におかしいこと言ってると思わないわよ」
「おっ…おかしいだろぉ!」
「あなたが行けっていうから行くって決めたのになんなの」
「だからってあたしが行く必要がどこに…!大体、レイのお父さんって、あたしは…」
「ああ、あのホテルでのことなら気にしてないわよ。大体、私を逃がしたのあなただって知らないし」
「それもあるけどっ…あたし関係ないだろ!」
「なんで?」
「なんでって…」

 そして怪訝そうに見つめてくるレイにまたまことは目を逸らせなくなる。理不尽なことを言われているのに、うまい反論が見つからない。追い詰められているのに、それでもそれに抗う術が見いだせない。
 携帯電話ごと手のひらを握りしめられて、それでもいつの間にか、また壁際まで追い詰められていた。

 普通に話すには、あまりにも近すぎる距離。

「あたしは…邪魔じゃないか。せっかく家族水入らずなのに」
「じゃあいつなの」
「…え?」
「いつ来てくれるの?うちに」
「い、いつって、今来てるだろ」
「…………もういい」

 追い詰めるだけ追いつめて、そこでレイはふてたようにまたまことから離れた。知らない間に携帯電話はまことの手からすり抜けていたが、それを取り返す気にもならなかった。
 今日のレイはずいぶん表情豊かだ。今は随分子どもっぽい表情で、膨れているように思える。そのせいで却って真意がまことには読めないままでいた。
 今日は最初から終始調子を崩されっぱなしだ。言っていることも考えていることにもついて行けない。
 ただ、レイが離れたことで、自分の心音がひどく高鳴っていることにまことはようやく気付く。気づいたところで何を意味するかは、やっぱり分からなかった。

「…あなたが嫌なら無理強いはしない。でも、私は本当に…あなたに一緒に来てほしい。あなたとの約束がその日にあったからじゃなくて、一緒に行くならあなたがいいし、パパにもあなたを知っていてほしい」
「……そんな、でも、あたしは」
「一緒に住んでなくても、大切な人との時間は大切にした方がいいって、今あなたが言ったでしょう」

 それが分かっていて。
 そこまでして、一緒に来いという理由。父親と一対一で会いたくないから、という理由でないのなら。

「…だったら…ちゃんとレイ、家族で…お父さんと二人で会わないと」
「私もさっき言った」
「え?」
「あなたとの時間をあきらめることも私にはできない…大切だから」

 一緒に住んでいなくても、大切な人。毎日会えなくても、素直に好きと言えなくても、それでも相手のことを思ってる。煩わしいと思うことがあっても、喧嘩しても腹が立っても、何もない時でさえふと心配になる。

 レイの言葉にはそういう響きがある。熱を込めてこちらを見てくる瞳がある。
 
「それは…どういう、意味、だ?」
「……来てくれたら教えてあげるわよ」
「……でも、あたし、なんて」
「あなたのその自分を卑下する癖、好きじゃないわ。少なくともあなたを大切だと思ってる人は悲しむ」

 そう言われても、未だまことはどこか冷静な自分を自覚していた。
 それを言葉通りにとらえる勇気はまだなくて。あまりにも独りでいたのが長かったから、改めてそう言われても距離感が掴めないでいる。ずっと諦めと静観の底にいたから、期待を抱くのを恐れる気持ちもある。

 もう少し、お互い素直になれていたら。素直でいることに慣れていたら。 

「…で、来るの?来ないの?」
「…………後悔するぞ」
「お生憎さま。自分で決めたことくらい自分で責任取るわよ」

 それならきっともっと違う未来だった。
 相手を心配することも、思いやることも、きっと今よりはしていなかった。そして相手の幸福を自分が確かめて、ましてや携わるなんて考えもしない。意地を張ることも喧嘩することも、どんなに腹が立っても会えなくて心配することもない。

 お互い素直になれなくて、それが今の関係を作ってきた。

「……もしもし」

 電話をするレイの耳が染まっているのを横目で見ながら、まことは未だに落ち着かない心地を味わっていた。レイの親に会うという事実以上に、彼女の言葉に心乱されている。

 大切に思ってくれている。いつ来るのかとも言ってくれた。
 自惚れたくないけど、どうしても期待してしまう心が確かにある。行ったら、教えてくれるというなら。

 血が繋がっているだけが家族の形じゃない。自分で選んで家族になることだってある。まことは諦めと静観の底にいて、弱い自分を守るために期待する自分を戒めて、それでも―ずっと、憧れていた。

「………ほんとに、後悔しても知らないからな」

 電話を持つレイにつぶやく。もうあの時みたいに逃げることもできない―それでも。

「しないわよ」

 当たり前のように言われる言葉に。
 あの時と違う覚悟を決め、まことはゆるりとレイの手を握った。



                ****************************


 まこレイはたまにSとMツンとデレが逆転するのがミソだと思ってます(Act8の「可愛いの好きなんじゃない」のくだりとか)しかしひとり娘にいつの間にか嫁が出来てるレイパパの心中やいかに…

 実写設定ですが、レイちゃんの「いつ来てくれる~」は、ツイッターでの神田さんの栗山さんへのつぶやきまんま引っ張ってきました。あれはあかんて…
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