遊月(ゆづき)の日々これ修行なり~

パワースポット研究家(おたる案内人)でセラピスト遊月のブログ
【パワースポットニッポン(VOICE)北海道担当】

救世主(メルマガより)

2009-06-09 09:05:01 | 遊月作ファンタジー物語
トムハンクス主演の『天使と悪魔』をもう見ましたか?

前作にあたる『ダヴィンチコード』は、マグダラのマリアが脚光を浴びるきっかけにもなったし、どれが真実でどれがフィクションなのかわからない部分もおもしろかった反面、あれはマニアックな知識が最初からあった人と予備知識なかった人ではおもしろさが違っていただろうなと思っていました。

『天使と悪魔』のほうは、すっきりわかりやすくて、主題も明確だったし、何より天使と悪魔ね、なるほどぉ~と共感できる内容でした。

いろんなシーンが好きでしたが、特に、最後にとある枢機卿が主人公に言う台詞がすごく好きでした。

殺人事件の話なので、残酷なシーンもあるためすべての人にお勧めとは言えませんが、テーマはとてもよかったし、ローマというかヴァチカンの景色がとてもよかったです(*^_^*)

宗教チックな話を見ると、なんとなく浮かんでくるのが救世主って言葉です。

私はずっと、「救世主」という言葉に違和感があり、そうやって誰かに世界を救ってもらおうとする心理が何か違うと感じていました。

『天使と悪魔』では光と闇の対比がとてもよかったです。
大天使なのに悪いやつっぽかったりとか。

すべて善!光!愛!
とか言われちゃうと、うわ、人間っぽくない。もっと俗ぽくていいじゃない、失敗したっていいじゃない、闇を抱えていてもいいじゃない。
と思うのです。

ということで、2002年頃に書いたショートストーリーでもそっと載せてみます(*^_^*)
なんとなくオチが、敬愛する星新一先生風ですが(笑)

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救世主

いつか僕が世界を救う日がくる。
その日まで世界滅亡を企てるあいつらからうまく姿を隠さなければならない。
そのためには愚かなフリをするのが一番だ。
余計な奇跡など、人目につくだけで、ただの厄介ものだ。
奇跡は誰にも気付かれず、細心の注意を払い、こっそり行う。
しかも、本当に奇跡以外に解決策がないときに限ること。
決まりはたくさん作っておかなければ、いつかあいつらに見つかってしま うかもしれない。

僕が世界を救う日がくるまで、僕の力はまだまだあいつらより弱いのだ。
そのことをあいつらに知られては世界を救えなくなってしまう。
とにかく目立たないこと、これに尽きる。
世界を滅亡から救うまで、僕が救世主であることをまだ人々に知られてはいけないのだから。

僕はいつか世界を救う。
僕が立ち上がると、人は自然に従うだろう。
僕を信じて僕についてくることで救われるのだから、当然だ。

世界を救ったら僕は一躍ヒーローになる。ちょっとだけ楽しみだ。
お金だって苦労しないさ。なんだって望みどおり。だって僕は奇跡を起こせる。
女の子にももてるかもしれない。でもヒーローはもててもいけない。
ただひとり絶世の美女と思い思われるのがちょうどいい。
            ++++++++++++++++++++

でも、どうやって世界を救おう。
そうだ、悪いやつがいて、世界をめちゃくちゃにしてもらおう。
そうしたら、その悪いやつをやっつけて、僕がこいつを懲らしめてやったから、2度と世界は滅びません、だから皆さん安心してくださいと高らからかに宣言しよう。

てことは、僕は強くなくてはいけない。
空手も柔道も剣道も習ったことないし、それに僕は飛び上がって回りながら敵をけり倒すような曲芸も習得していない。

あ、そうだ、僕は奇跡を起こせるのだ。
この手で触れたすべてはたちどころに輝きを取り戻す。
しおれたバラは一瞬で花びらが美しく開き、病気の老婆は自分の足で立ち上がることができた。

どうしてかはわからないけど、昔から自然にできたんだ。
僕の周りの大人たちは、この子こそ、伝説の救世主だと宣言した。

救世主でいるために、たくさんのことをギセイにしたし、勉強だっていっぱいさせられた。
モノをねだるもの禁止だったし、殴られても怒っちゃいけなかった。
うっかり誰かに『ばっかじゃねえの』なんて暴言を吐くこともありえないことだ。

友達が気軽にそういいあっているのを、ただ黙って見守った。
ほんとばっかじゃねえの、と思っていても我慢した。
救世主はそんなこと言ってはいけないのだから。

ママは僕にたくさんのことを教えてくれた。救世主としての心得みたいなものだ。
いつかその時が来たら、ちゃんと名乗りをあげるから、それまで目立たなく、奇跡も気軽に行ってはいけないと言った。僕は素直に従った。
おまえはママの誇りなのよ、いつか世界を救ってね。

ママが望むなら僕はなんだってする。
世界だって宇宙だって救ってみせるさ。
僕はむかしからママがいちばん大好きだったから。

んー、ところで世界を救うって、一体どういうことなのだろう…

             ++++++++++++++++++++

救世主が現れて世界を救う日が来ると、数々の予言が告げています。
一体救世主はいつお生まれになり、どこで育ち、どんな特徴を持っているのでしょうか。
2000年前、すばらしい魂の持ち主がこの世界に存在しました。
彼は世界を救うと評判の人でした。でも彼は、いつか必ず復活して救ってださると約束してこの世界から去りました。
あれから私たちはずっと彼の帰りを待っています。

最近彼がお生まれになったというお話を聞きました。
それなりの兆候を感じた方も多数いらっしゃいます。

             ++++++++++++++++++++

そして私はその彼に会い、お話を聞く機会に恵まれました。
ひとめ見て私は彼が救世主であると感じました。
だって、彼の身体から、それはそれは神々しい光と、かぐわしい香りが放たれ、その場にいた全ての人が、その優しい愛の波動でしあわせな気持ちになれたのですから。

そして、彼は奇跡を起こしました。
彼に手を握られた人はひとり残らず、最後の日に生き残るしるしを与えられるのです。
私にもそのしるしは与えられました。
見てください、この掌を。
ほら、見えるでしょ?この中央から溢れる金の粉を。

これは、最後の日に、生き残れるかどうかを決める証となるそうです。
掌からこの粉が出ている人は確実に救われるのです。
彼は今この国に住み、今日も多くの人を救うため、たくさんの方々の手を握り、病を癒し、救いを与えています。

もし私の話を信じてくださるなら、ぜひ彼にお会いになってください。
今は、毎日ですが、もうすぐ週に数回、そして数年後には、一年に数回しか人々と触れ合うことが出来なくなります。
いそがなければ時間がありません。
 
今すぐ、できるだけ早く彼のもとに行って下さい。
そして、この国のすべての人々が救われることを、この国の全ての人が救われた暁には世界中の人々が救われることを、心より願ってやみません。

             ++++++++++++++++++++

偶然見かけたテレビのドキュメンタリーで、大好きな女性コメンテーターが、うっとりする瞳でそう語っていた。
いてもたってもいられなかった。
 
番組の最後で、救世主への連絡先がテロップで流されたので、私は大急ぎで手帳に書き写した。
首都まで出かけなくちゃいけないけど、電車で2時間もあれば着くし、あとは、一回面会するときに払わなければならない費用を工面するだけだ。

支払いする費用は確かに高いけど、そうしないと世界中から人が押しかけてしまうし、何をするにもお金は必要だと説明していた。
だって世界を救うことをするのだもの、大金がかかって当然だと私も思う。

彼に会うだけで、彼と手を握り合うだけで、世界が救われるなんて最高だ。
ずっと伝説を信じて待っていた甲斐があった。

目の前で大切な人が理不尽に殺されようと、自分の命を脅かされようと、世界が欲で満とたされて、一部の利益のためにめちゃくちゃにされて子孫が困ろうと、彼さえ現れてくだされば鬼に金棒、暗黒の世界に文字通り救世主、世界を救ってくださるのだ!
ああ、救世主様!ばんざい!

             ++++++++++++++++++++

それにしてもこの国に生まれることができてラッキーだった。
まず、少し無理して働けば、あれくらいのお金何とかなるもの。
お金を払って幸せになれるのなら、私たちに多少のお金はあるんだもん。
もちろん払うに決まっている。
払えないほど法外な額を請求されるなら別だけどね。

今日明日の食べ物に困るわけでも、親に捨てられて路上で寝起きしているわけでも、遠い国からやってきた、父親よりずっと年をとったスケベ親父たちに、お金をもらった親の命令で蹂躙されているわけでもないし、お金を払えば救われるのなら、私はいくらだって払うわ!

誰だってそうするに決まっているのだから!

あれ、今一瞬、何か間違っているような気持ちがよぎった。
なんだろう…
            ++++++++++++++++++++

え?
お金を払える人だけが救われる世界でしあわせなの?
あらやだ、なんて偽善者的なことを思ってしまったのでしょう!

それに、そういう難しい問題は、救世主様が考えるべきことで、彼が世界を救ってくれるから、私は私の心配だけしていればよかったんだわ。
それに万が一それで世界が救われないというのなら、あの救世主様がニセモノで、お金を返せと訴えてやればいいだけのことなのだから。

訴えたら返って来るのよね・・返ってこなかったらどうしよう・・でも、あのコメンテーターはいつも正しいことを言っていたし、雑誌のアンケートでも、信頼できる女性ナンバーワンになっていたもの、大丈夫だわ!

いつのまにこんな世界に誰がしたのか知らないけど、税金は高いし、老後だって安泰じゃないし、教育費だって高いし、リストラだってされちゃうし、嫌なニュースばかり流れるし、気が付けばどんどん年をとってしわも増えるし。

嫌なことばかりの世の中だもん、救世主様、早く世界をよくしてね。
とりあえず来月救世主様にお会いする予約の電話を入れましょう。
携帯ちゃんと通じるかな。

             ++++++++++++++++++++

こんなにちょろい星は初めてだぞ、だいたい俺たちが何もしなくてもエゴと欲望がゴロゴロしている、このエゴっていうのがたまらなくうまいんだ、食ったことあるか?

あ、すいません。 
悪魔になったのつい最近なもので、まだ断末魔の叫び24個くらいです。

そうか、断末魔の叫びは珍味中の珍味だからな。
あれは悪魔の世界では最も高級とされているし、なかなか食えないのも仕方ない。
まあ、修行のつもりで俺の言う通りこいつらをうまく騙すんだぜ、大丈夫この星のやつらと来たら、いつか誰かがナントカしてくれるわ~って何でも人任せで、おまけにいやなことがあると全て誰かのせいにしちゃうなかなか俺たちにとっては美味しい性質を持っているからな、騙すのもわけないって寸法よ。

騙すって、どんなことをすればいいんですか?

んーまずだな、この自分が救世主だと思っているコイツに、どんどん魔力を与えてやるんだ、派手にするほうが、効果があるってもんだ。
コイツは実はまだ悪魔にココロを売ったわけじゃないから、いつか心がぼろぼろになるかもしれないが、それもまた美味いんだぜ。
まあ、コイツの周りの大人たちは、さんざん俺たちが食い散らかしてしまったから、もう、心の栄養は残っていない、抜け殻みたいなもんだけどな。

そして、コイツに群がってくるジンルイのエゴやら身勝手さを片っ端から食うんだ。
だけどそれだけじゃ腹一杯にならないから、断末魔の叫びも集めなくちゃいけなくなるな、うん。

それはどうやって集めるのですか?

おう、それよ、実はすごく簡単なんだ、俺が調査したところ、この星のやつらと来たら、天使が耳元で囁くことは、全部善だと思ってやがる。

その内容など吟味せず、天使が言うんだから間違いないと何も考えずそのとおり動いてくれるんだぜ、こんな楽なことないだろう!

と申しますと?

その丁寧な喋り方なんとかしてくれねえか、ま、悪魔歴浅いから大目に見るけどよ。

まずは、天使の波動みたいなものをこうちょちょいのぱって作り出すだろう。そして相手が天使と勘違いしたところで、耳元でこう言うんだよ。
この魂は穢れていて、このままでは救われません、いったん肉体から命を切り離して、もう一度、美しい魂として修行しなおすために手を貸してあげてくださいとかなんとか言って、目の前のニンゲンを殺させるんだよ、

えええ??そんな馬鹿な!!
いくら天使が言ったからって、人の命を奪うんですよ?
そんなこと、普通のニンゲンに出来るわけないじゃないですか。
だいたい
天使がそんなこと言うわけないからすぐばれちゃいますよ!

ばか、おめえ、悪魔のモノサシで考えちゃだめよ。
こいつらときたら、まったく自分の頭を使っていない生き物なんだ。
本を読んだり講演会に行ったり、みょうちくりんな知識はいっぱい詰まっているけど、詰まっているだけで、それをちゃんと使っていねえんだよ、あっちからこっちと移動するだけなんだ。

知識をただ溜めているだけで何が楽しいのでしょう?

それは悪魔にはわかんねえよ。
まあ、この星のやつらなら、人を殺したって、それが悪いなんて思わなかった、だって誰も人を殺しちゃダメって言わなかったのよ、なんて言いだしかねないんだ、ほんと悪魔にも理解できないぜ。

もうひとつ質問なのですが、なぜこの星の人は天使の言うことを鵜呑みにするのですか?

そりゃ、天使は善だと決まっているからよ。

理解できません・・・もしかしてこの星の人たちは、自分が天使だってことを、知らないのですか?

そうなのよ、やつら自分が神の分身だってまったく気付いちゃいねえのよ。
だいたい自分の背中に生えている羽が見えないだろう、この星では見えないものは存在しないというみょうちくりんな常識がまかり通っているのよ。

なんだか僕さっぱりわからなくなってきました。
それから、天使のフリをして、人を殺させて得る断末魔って、ちょっと…今あまり食欲ないし…気が進みません。

おめえ、ほんと悪魔にむいてないな。
まあ、そのうちその厄介なココロってやつも壊れてこなごなに宇宙のチリになるから心配するな。
そうだな、断末魔の叫び100個を過ぎたあたりから、何も感じなくなるから。

ま、とりあえず、あの何も考えてなさそうなお姉ちゃんのところに行って、天使の振りしてそそのかしてこいよ。
楽だから、すぐ出来るさ。

そう言う師匠の後ろで、天使が寂しそうにため息ついていたことは、内緒にしておこうと、悪魔見習は思うのでした。

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